第1457話 桜風呂

柚子風呂があるのだから、桜風呂があってもいいだろう。私は桜の花弁を沢山集めてきて、桜風呂にした。春の穏やかな気候の中で入る風呂というのは、最高に気持ちが良い。更には春を象徴する桜の花弁が入っているというのは、とても風流だと思う。ほら、湯船に浸かり、目を閉じれば、桜の舞う様子が浮かんでくるようだ。ああ、極楽だ。

「ちょっとお父さん。湯船の中に桜の花弁入れないでよ。排水溝が詰まるじゃない」

気持ちよく風呂に入っていると、そんな妻の声が浴室内に響いてくる。ああ、せっかくの穏やかで素晴らしい時間が台無しじゃないか。

「後でちゃんと回収するさ」

「掃除もしておいてよ」

「わかっている」

突然の妻の声で現実に引き戻されてしまった。良い雰囲気だったのに。

私はしょんぼりとしながら、湯船に浮かぶ桜の花弁を一枚一枚回収した。

「季節は変われど、妻は変わらずか……」

そんな独り言を呟きながら、風呂から上がる。

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