第1421話 一輪の花、胸に抱いて

一輪の花を抱き、ひっそりと佇む。

「……ん? なんだ?」

不意に、視線を感じた気がして振り返る。

しかしそこには誰もいない。

いや――いた。

遠くのほうから、こちらをじっと見つめている少女がいたのだ。

長い黒髪が印象的な美少女だ。歳は十代半ばくらいだろうか。

(あの娘……)

どこかで見たことがあるような気がする。

だが思い出せない。

(誰だったかな?)

首を傾げつつ、もう一度彼女のほうを見たときにはもう、その姿はなかった。

「見間違いか?」

まぁいいさ、と気を取り直した俺は、再び歩き出す。

「……」

それにしても綺麗な花畑だ。

こんな場所があったとは知らなかった。また機会があれば来てみようと思いながら、俺は花々の間を歩いていく。しばらくすると、少し開けた場所にたどり着いた。

そこには、先ほどの少女が立っていた。

「君は……」

そうか。妹が生きていれば、今それくらいの年齢だったか。

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