第1420話 ひなあられは好きですか?

ひなあられは好きですか?

いいえ、僕は嫌いです。あのざらついた舌ざわりと、口の中に残る甘さが嫌でした。でも母さんが僕にくれるおやつは、いつも決まってそれだったのです。だから僕も、いつの頃からかそれを好きなふりをするようになりました。そうすれば、母さんが喜んでくれると思ったからです。

「あら、おいしい」

僕の言葉を鵜呑みにした母さんは、嬉しそうな顔をして、僕が手にしていた袋の中から一つつまみあげて食べます。そしてまた笑顔を浮かべるのです。そんなとき、僕は少しだけ誇らしい気持ちになりました。今にして思えば、あれはとても滑稽な話です。だって、母さんの喜ぶ顔を見るために、僕はわざと嘘をついていたんですからね。でも当時の僕はそれが本当に正しいことだと信じていました。自分が好きなものを好きだと言うことが、相手のことを思ってする行動なのだと。そしてその度、心の奥底で罪悪感が生まれていた事に気づきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る