第1339話 隠し事はやめた

「あの時、わたしを助けてくれたのは、あなたですよね?」

ルナの問いに、俺は苦笑して答える。

「……違うよ」

俺の言葉を聞いて、ルナの顔が曇った。

「じゃあ……やっぱり……」

悲しそうな顔をしているルナを見て、俺は心の中でため息をついた。全くこいつは、自分のことよりも他人のことを気遣うなんて本当にお人好しだ。

だけどそんなところが――

「いいや、俺だよ」

「えっ!?」

俺の言葉にルナは、驚いているようだった。まあ当然だろう。だってさっき否定したばかりなのだから。

「で、でも、あの時のことは、よく覚えていなくて……。それに、わたしを助けた人がどんな人だったのかも思い出せなくて……」

戸惑っている様子のルナに向かって、俺はニヤリと笑ってみせる。

「そりゃそうだろ。何しろ、俺の変装は完璧だったからな」

本当はスパイであることは、誰にも話さずに一生隠し通すつもりだった。だが、こいつには正直でいたい。

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