第1304話 待ち針
待ち針を鞄の中に入れていると、運命の待ち人が現れるらしい。そんな噂を聞いた私は、待ち針を鞄の中に入れていた。もちろん針は危ないので、安全な小さな裁縫セットに入れて。まあ私はお裁縫できないんだけどね。
どうして待ち針を入れたのかというと、退屈な運命に飽き飽きしていたから。私は親に結婚相手を決められていて、半ば強引に家を飛び出した身だ。自分の運命の人は、自分で決めたい。ところが出会いなんてなかったのだ。だからせめて気持ちだけでも待ち人を待つ姿勢を持とうと思った。
道路に子供が飛び出した。一人の男性が慌てて走っていき、子供をなんとか助けた。男性は派手に転んだ。私は声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫」
「あっ」
「えっ?」
「ボタンが取れてる。あの、私裁縫道具持ってるんで。あっ、でも私ボタン付けるのもできないや」
「ぷっ、あはは。貸して。僕がやる」
それが彼との出会いだった。
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