第1305話 だから笑顔で
空が青かった。風向きは南。
「…………」
あの時も、こんな風に、風を受けていた気がする。
「…………」
あの時は、空に鳥が飛んでいた。
その時の俺は、どんな顔をしていたのだろう? 笑っていたのか、泣いていたのか。それとも無表情だったのか。彼女ともう二度と会う事はないという事実を知らなかったから、俺は呑気に笑っていたのだと思う。
「ごめんね。そんな顔しないで。もし今度会えた時は、笑って」
別れ際、そう言った君の顔は、とても悲しそうで。彼女は遠い国へと行ってしまう。親の転勤が理由だ。
「約束しよう。いつか大人になったら、この場所でまた会おう」
そんな曖昧な約束では会えないと分かっていた。でも希望だけは持ちたかった。それから何年経ったか忘れたけど、俺は彼女に会えるのではないかと思い、時々約束の場所を訪れる。
「久しぶりだね」
彼女の姿だった。泣きそうになった。でもそれは約束が違う。だから笑顔で。
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