第896話 グッバイマザー

母はアメリカ人だ。父は日本人であり、その間に生まれた私はハーフだ。私は日本生まれ日本育ち。だから日本語しか話すことが出来ない。母は大変だったと思う。遠い異国の地にたった一人で嫁いできて、日本語を覚えて、日本の文化を勉強して日本に馴染んだ。そんな母は、私をきちんと育ててくれた。ついに私も今日、成人式を迎えた。


その日、母の体に異変が起きた。胸が苦しいという。でもすぐに収まったので大したことがないと思った。それから数カ月が経った頃、母は倒れて入院した。もう助からないのだという。私は泣き崩れた。母は母国であるアメリカに帰る体力も残っていない。だからこの地で死を迎えるしかないのだ。私なら耐えられない。生まれた土地で最期の時を迎えたいと思う。きっと母もそう思っていると思う。母にアメリカが恋しいか聞くと、やはり恋しいという。だから私は最期の時、母の手を握りながら英語で答えた。


「グッバイ、マザー」

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