第897話 ペトリコール
雨は好きだ。滴り落ちる雫が落ちる音を聴くだけで心が癒される。それと同時にペトリコールが漂い、あの独特な匂いがたまらなく好きだ。レインコートを伝う水滴が弾けては、地面に落ちていく。私にとってそれは、まるで雨の合奏のような心地良いものとなる。
そろそろだ――。
天気予報では、雨は夕方から止むらしい。しかし天気予報は外れて、晴れるどころか余計に降ってきた。
「嘘つき。全然晴れないじゃない」
私は独り言を呟く。
駅を行き交う人々の様子はせわしなく、そして雨の音が大きいせいか、私の大きな声の独り言に気づく人はいない。
私が駅に来たのは、父を迎えに来たからだ。父はこの大雨だというのに傘を持たずに家を出た。だから仕方なく迎えにきた。はっきり言って面倒臭い。そして精一杯の嫌がらせの為、私は大袈裟にレインコートを着る事で、父に大変さをアピールしたのだ。その帰り、父は高いお菓子を買ってくれたので許そうと思う。
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