第826話 身代金は小銭で用意しろ

少女が誘拐される事件が起こった。犯人からの要求は警察に通報するなというものではなかった。このような事件の場合、警察には言うなと犯人は言うが、犯人からは何の指示もなかった。


「お願いします。娘を助けてください」

「落ち着いてください。犯人からの連絡を待ちましょう」


一時間後、犯人から連絡がきた。


「娘を返して欲しければ小銭を用意しろ」

「えっ?」

「もちろんただの小銭じゃない。エラーコインだ」

「エラーコイン?」

「そうだ。硬貨の製造過程で作られた不良品だ。それは高値が付く。エラーコインを1000枚用意しろ」


犯人からの要求は、エラーコイン1000枚だった。未だかつてこんな奇妙な要求をしてくる誘拐犯はいない。


「エラーコインは貴重なんだ。それを1000枚用意しろだなんて」


現場は混乱した。だが犯人の狙いは別にあったことを、実はこの時は、誰も予想などしていなかった。

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