第825話 ささやき声

雨の降る夜の事だった。雨音と私の歩く足音。そして傘に雨が当たる音以外、何も聞こえないはずだった。


「死ね」


突然誰かのささやき声が聞こえてきた。

今、死ねって言った?


後ろを振り返るが、誰もいない。きっと気のせいだろう。雨の音を聞き間違えたんだろう。そう思いながら再び歩き出す。


「消えろ」


また聞こえた。今度は消えろって。

後ろを振り返るが、誰もいない。気のせいではない?


私は怖くなって少し歩くスピードを上げた。


「死ね」


また誰かにささやかれた。間違いない。気のせいではない。


「誰!?誰よ!!」


私は声を上げた。だが誰もいない。

私は走った。マンションの部屋まで一気に走った。


玄関のカギを上げてドアを開けた。

その瞬間、肩を叩かれた。ビックリして振り返ると、そこには刃物を持った男が、私に向かって微笑んでいた。


「死ね」


そう言って男は刃物を振りかざした。

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