第613話 時を止める出目金

この子の能力は突然現れた。私は家で飼っている出目金に餌をあげていた。出目金が餌をパクッと食べた瞬間、家の中の全ての時計が同時に止まった。そして私以外の全ての時間が止まっていたのだ。私はパニックになった。どうやったら元に戻るのかと。水槽を見ると出目金だけは、ゆらゆらと動いていた。


「お前がやったの……?」


私はもう一度、餌を与えてみた。すると時計は再び動き出した。私は毎日、時を止めて遊ぶようになった。遠出して観光に行ってみたりもした。そして帰ってきて出目金に餌をあげると、時間は再び動き出した。


その夜、出目金は死んでしまった。それと同時にもう時間を止めて遊ぶ事ができないのだと思うとショックだった。出目金を埋葬する時、ふいに声が聞こえた。


「時間は有限だ。悔いのない人生を送れ。私はお前に愛され、有意義だった」


私は予想よりも偉そうな出目金の声に、思わずくすりと笑ってしまった。

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