第560話 ポケットティッシュ

私は花粉症だ。春ではなく、年の終わりの時期から年の初め頃、いつも花粉症に悩まされるのだ。


あー……また……


「ヘックシュン」


携帯していたポケットティッシュがなくなってしまった。この時期は消費が激しい。歩いているとポケットティッシュを配っている人を見かけた。


ラッキー。貰おっと。


ポケットティッシュを配っている人の横を何気ない顔で歩いた。しかし私の事をスルーして、後ろの人にティッシュを配った。もう一度、私は配っている人の横を通ってみる。しかしまたしてもスルーされる。再び横を通り、今度は手を出してみた。しかしまたしても私はスルーされる。どうして私には、ティッシュをくれないんだ。

「ティッシュ下さい」

「どうぞ」

そう言って差し出した私の手ではなく、横にいる人に渡す。私は完全に無視されている。

なぜ?

そうだ、思い出した。

私は自分が死んでしまっていた事に。だから人から見えないのだ。

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