第514話 聞こえる

「この中に機械に詳しい方は、いらっしゃいませんか?」


僕は青白い顔をしてその場に立ち上がって声を発した。それは、バスの中での事だった。一人の男性が手を挙げた。


「どんな機械かにもよるけど……」

「これです。イヤホンです」

「イヤホンか。そのイヤホンがどうしたの?」

「………………」

「えっ?何?どうしたの?」

「……ノイズが聞こえて……それで……そのっ……」

「ん?」

「お、女の人の声が聞こえるんです」


男性は僕からイヤホンを受け取り、耳に当てた。


ザァーザァー……。

ノイズ音が聞こえる。


「うーん、接触端子が酸化してしまってる……訳はないよな。これはワイヤレスイヤホンだ」


タス……ケテ……。

タスケテ……。


「ひゃっ!?い、今助けてって!!」


男性は、イヤホンを返してくれた。


「タスケテ……タスケテ……」


僕の耳には、女性からのSOSが聞こえ続けた。

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