第497話 父の夢

父が定年退職した。父は高卒で入社した会社一筋で定年まで、家族の為に真面目にコツコツ勤め上げてきた。そんな父には、これからゆっくりと第二の人生を過ごして欲しい。そう思っていた。

父が定年退職してから半年が経った頃、僕と母さんに話があると父は言った。


「父さんな。新しい事を始めようと思う」

「新しい事?」

「実はな、お笑い芸人になりたいんだ。昔からの夢だった」


寝耳に水だった。真面目な父がお笑い芸人になりたかっただんて想像した事もなかった。


「芸人!?どうして!?何言ってるの!!」

「そうよ。それにあなた、もう65歳じゃない。今から芸人だなんて……」

「反対か?」


反対か?

父のその声のトーンは、冗談ではなくて真面目そのものだった。


「……まあ父さんがどうしてもって思うなら俺は応援するよ」

「ありがとう」


そして1年が経過した。

父は生まれて初めて芸人としてテレビ番組に出演した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る