第182話 見えたか?

上司と一緒に車で走っていた時だった。


「お、おい……。今の見えたか?」

「は、はい。見えました」

「足のない女だったよな?」

「えっ?男じゃないですか?」

「真っ白な服を着ていたな…」

「えっ?赤い服でしたよ」

「何を言ってるんだ。長い髪だったよな?」

「いや、短髪でしたよ」

「お前……。さっきから何を言ってるんだ。お前にも見えたんだろう?」

「部長こそ……。部長も見えたんですよね?」


俺達はお互いそこから何も喋らず、車内は無言だった。取引先に着いた。


「お越し下さってありがとうございます。今お茶入れますね」


俺と上司。お客さん。そこには3人分のお茶ではなく、5人分のお茶が運ばれてきた。


「さあどうぞ」


2つ多い…?


「あの…お茶多くないですか?」

「後ろの白い服を着た女性と赤い服を着た男性の分ですよ」


後ろを振り返った。


「部長…。見えました。女性」

「俺も男が見えた」

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