第137話 タクシー

手を挙げた男がいたので、車を横につけた。


「お客さん。どちらまで?」

「どちら……。じゃあちょっと未来まで!」


出た。こういう良い感じに酔っ払って変にテンション高い客。

こういう客のノリには、合わせておく方が無難なんだよな。


「何年後に行きましょうか?」

「10年後」

「またなんで10年後に行きたいの?」

「10年後だとな、娘が20歳になってるからよ。成人式の着物姿が見れるわけよ」

「へえ、そりゃいいな」

「あの角を右行ってくれ」

「はいよ」

「娘は俺に似て顔がいいからよ。変な男が寄り付かねぇか心配だよ。運転手さんは?子供いるの?」

「うちには中学生の息子がいるよ。これがまた反抗期で複雑な年頃なんだよ」

「お互い親ってのは苦労するな」

「ほんとな」


まさかな。10年前は、このおっさんの娘と俺の息子が結婚して俺達が親戚同士になるだなんてお互い夢にも思っても見なかったよな。世間は狭い。

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