第89話 守る筆

小学生の頃から書道教室に通う私は、書道の大賞を受賞した。


「大賞受賞おめでとう。うちの書道教室から君のような子が出てくれて、私は鼻が高いよ。これは守る筆。ささやかながら私からのお祝いだ。受け取っておくれ」

「守る筆?先生、守るってどういうことですか?」

「この筆はね、不思議な力が込められている特別な筆なんだよ。筆下ろしはせず、肌身離さず持っていて欲しい。きっと君を守ってくれる」


私を守ってくれる?

一体どういう事なんだろう。


その意味は、すぐに分かる事になった。書道教室の帰り、わき見運転をしていた乗用車が横断歩道で信号を待っている私に向かって突っ込んできた。

やばい。死んだ。そう思ったその瞬間、クイッと服を誰かに引っ張られたような気がした。


そして紙一重のところで車とぶつからずに済んだ。


道路には、私の鞄から落ちた守る筆が落ちていた。


「そっか……。君が守ってくれたんだね」

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