第53話 銀色のバーテンダー

「一番悔しいのは、銀メダルだって知ってるかい?金メダルは言うまでもなく全て勝つし、銅メダルは三位決定戦で勝つんだ。でも銀メダルだけは、負けて終わる。だから銀メダルってのは、一番悔いが残る」


僕にそう説明してくれたバーテンダーは、かつてオリンピックで柔道日本代表選手として戦った山口勇夫だった。現役最後の大会では、銀メダルを獲得した。そして引退後、このバーをオープンさせたそうだ。


「でも勇夫さん。それならどうしてこのバーの名前は、シルバーメダルなんですか?」


「俺にとってあの最後の試合は、今だに後悔が残ってるままだ。今度はこの店を成功させて、銀メダルだけど満足する成果を残したいんだ。俺は自分の人生を後悔するのは、もうまっぴらなんだ。だから店名がシルバーメダルなんだ」


なるほど。納得した。僕も少しでも店に貢献できるように通おうと思う。


銀色のバーテンダーが営むこの店に。

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