第32話 ♀バンクシーな少女


 十一月になり、冬が近づいてきた。


 最近はクラスメイトから気軽に話しかけられるようになった。

 七渡達と一緒にいるおかげで、私の恐い噂も影を潜めてきたのだろう。


 生活が楽しくなると許せることも多くなった。

 無駄に反発することも減ったし、ちょっとした嫌なことなら受け入れるようにしている。


 でも、七渡のことに関しては、些細なことでも気になってしまう……


「七渡くぅ~ん、昨日夜更かししちゃったから眠いよぉ」


「大丈夫か美波? まじで辛いなら保健室で寝た方がいいぞ」


 七渡が美波のことを名前で呼び始めた。

 今まで大塚さんと呼んでいたのは不自然だったけど、いざ名前で呼ばれると思うところはあるわね。


「一人じゃ怖いよん、一緒に寝よ~よ」


「そんなことしたら保健室の先生に怒られるだろ」


 別に今までと距離感は変わっていないのに、名前呼びになっただけで異様に仲が良いように見えてしまう。


「友達じゃんか、一人にしないでよ」


 美波は七渡を保健室へ連れて行こうと腕を掴んだ。


「行っては駄目よ」


 私は七渡の空いていた左腕を掴む。

 これ以上は許容できない。


「何でよ~七渡くぅんを貸してよ」


「一人で行きなさい」


「一人で行くより二人で行った方が気持ち良いもん」


 私だって七渡と一緒に寝たい。

 寝ている七渡にハードな悪戯をしたい。


「じゃあ育美が連れてってあげてくれ」


「ええ。そうするわ」


 困っていた七渡は私に美波を渡してくる。


 七渡が乗り気じゃなくて良かった。

 七渡も私以外とは一緒に寝たくないはずよね。


「じゃあ育美ちゃん一緒に寝てよ」


「……授業はサボれないから少し添い寝するだけよ」


「やった」


 美波を納得させるためとはいえ、甘やかし過ぎたかしら……


 美波を保健室へ連れて行き、一緒にベッドで横になる。

 前に美波と一緒に保健室で寝てサボったこともあるので、特に新鮮味は無い。


「七渡君を取られまいと必死だったね」


「からかうのも度を超えると怒るわよ」


「もう怒ってるじゃんっ」


 隣で寝ている美波をフルパワーで抱きしめていた。

 美波はいつも私の顔を窺いながら七渡へちょっかいを出してくるのよね。


「安心してよ育美ちゃん」


「何が?」


「七渡君は育美ちゃんのこと好き過ぎてどうしようもないみたいだからさ」


「何であなたがそんなこと言い切れるのよ」


 私より美波の方が七渡に詳しいのは許せない。

 でも、私が思う以上に七渡が私を好きでいてくれるのは嬉しい。


「ちょっと過激な誘惑をしても、何もしてこなかったし」


「いつの間にそんなことしてたのよ」


「おしえなーい」


 美波の服の中に手を入れる。

 私の知らない七渡の秘密を抱えるなんて生意気ね。


「名前呼びは嫌だった?」


「別にあなたと七渡の関係性なら普通でしょ」


「そう言いながら怒ってるじゃん」


 私を困らせるのが好きな美波。

 でも、それだけ私に夢中ということでもある。


「あんっ、ちょっとそこ摘ままないでよ」


「あら、ここが弱点みたいね」


 一泡吹かせてあげようとちょっかいを出したら、可愛い声をあげてくれた。


「育美ちゃんだって、ここが弱いんでしょ」


「や、やめなさいっ」


 美波が太ももを私の股に押しつけてグリグリとしてくる。

 そこは変な気持ち良さが生じることもあって、くすぐったくなってしまう。


 キーンコーンカーンコーン

 美波とじゃれあっていたら授業開始を知らせる鐘がなってしまった。


「はぁ……サボりになってしまったわね」


「残念。もう諦めて一緒に寝よ」


「そうね。もうどうしようもないのだから」


 美波と一緒に授業をサボった。

 呑気に寝ている美波を抱き枕にして、私も寝る。


 別に怒られてもいい。

 美波がいるし、七渡もきっと優しく励ましてくれるから――



     ▲



 球技大会はもう三週間後まで迫ってきている。


 練習を重ねたこともあり、私は現役の頃よりも上手くバスケができるようになった。

 でも、実戦の経験が無いのは怖い所ね。


 廣瀬は部活動での活躍も相まって、より上手くなっている。

 七渡も少しずつだけど進歩している。

 美波は毎日来るわけじゃないけど、バスケ部だった頃のようにできている。


 今日は珍しく廣瀬が学校を休んでいたこともあり、三人で練習をしていた。


 片付けの時間になると、二人が私の元に来た。

 今日は七渡と美波の様子が少し変だったわね。


 美波は何故か背中を向けていて、私に何か見せようと振り返ってきた。


「ふえぇ~弟に胸揉まれ過ぎて爆乳になっちゃったよぉ~」


 バスケットボールを二つジャージの中に入れて巨乳を表現している美波。

 いったい何をしているのだろうか……


「頭大丈夫?」


「大丈夫だよ。平常運転です」


 ため息をつきながらジャージからボールを取り出し、七渡へ渡す美波。

 すると、七渡も後ろを向いて何かを仕掛け始めた。


「はい、準備できました」


「どうぞ七渡君」


 二人は結託して私に何かをしようとしているみたいだ。

 七渡は振り向いてきたが、美波と同じことをしている。


「ふえぇ~目が覚めたら巨乳の女の子になってたよぉ」


「いい加減にして」


「ごほっ」


 意味がわからないので、ジャージの中に入れていたボールを軽く殴った。


「だからさぁ、七渡君はバスケットボール二つでビッグ金玉にしろって言ったじゃん」


「そんな下品なこと育美にできるわけねーだろっ」


 美波と言い争っている七渡。

 楽しそうなので少し嫉妬してしまう。


「いったい何なの?」


「育美ちゃんの笑顔が見たいから、二人で笑わせようと頑張ってたの」


 美波の言葉に七渡も頷いている。

 あんなしょうもないことで笑うと思われているのがむしろ不服ね。


「育美ちゃんは七渡君が困った時とかドジしたりする時に笑ったりするから、七渡君が体張らないとだ」


「そうは言ってもな……」


 私の顔を窺いながら、何か考えている七渡。


「じゃあ今から三分間何でも育美の言うこと聞くから」


「おぉ七渡君怖いもの知らずだね」


 七渡は私に身を委ねてきた。

 そこまでして私の笑顔が見たいのかしら……


「……じゃあ、まず服を脱ぎなさい」


「えっ!?」


「服を脱ぎなさい」


「本気ですか?」


「何でも好きなことして良いんでしょ?」


 私の命令を聞いて泣きそうになっている七渡。


 久しぶりに身体が熱を帯びてきた。

 羽目を外して興奮し過ぎないように気をつけないといけないわね。


「恥ずかしいけど、仕方ないか……」


 ジャージと体操着を脱いで上半身が裸になる七渡。

 従順なのが可愛いし、身体もスベスベのツヤツヤで撫でまわしたくなる。


「下は?」


「えっ!?」


「ふふっ、冗談よ。上半身だけでいいわ」


「た、助かった……」


 助かったのは私の方よ。

 公衆の場で露出プレイなんてさせたら私が耐えきれなくて、いけないことになってしまうわ。


「七渡君良いね〜育美ちゃんがちょっと笑ってたよ」


「そうだな。ちょっとでもめっちゃ可愛かった」


 二人が何を話しているか、頭に入ってこない。

 私はもうやりたいことを見つけてしまって、それに夢中なの。


 私は鞄から筆箱を取り出し、ペンを手に持った。


「七渡、背中向けて」


「おいおい、何をする気だよ」


「安心して。痛くないから」


 七渡は恐る恐る私に背中を向ける。

 こんな綺麗な背中を見せられて、悪戯しないわけにはいかないじゃない。


「落書きはすんなよ」


「自分のものには名前を書きなさいって、あなたも教わったでしょ?」


 七渡の背中にペンで文字を書き始める。


「ひぃっ、くすぐったい」


「我慢しなさい」


 七渡の背中に育美のものとペンで書いた。

 これはいいわね……

 めっちゃいい!


「ふふっ、ふふふっ」


 笑みが抑えきれずに、口を手で覆う。


 だって、七渡の身体に名前入れちゃったのよ。 

 ヤバい、これヤバいから。


「あっ、笑った」


 七渡は顔を赤くしながら私を見ている。

 何で落書きされたのに嬉しそうにしているのよ。


「意外としょうもないことで笑うんだね」


 美波は呆れながら私を見ている。

 さっきまで乗り気だったのに、少し引いてんじゃないわよ。


「しょうもなくないから」


「はいはい……でも、育美ちゃんの可愛い笑顔が見れて満足だよ」


 少し馬鹿にされているような気もするけど、私も楽しかったので満足だ。


 でも、実際に七渡は私のものなの。

 絶対に誰にも渡さないわ――

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