第31話 ♂耐える少年
仲良しグループができてから二ヶ月が経ち、十一月になった。
まだ短い期間の仲だけど、思い出はたくさんできている。
体育祭ではみんなと盛り上がって、学年でクラス一位を取ることができた。
中間テストではみんなと一緒に勉強をして、全員成績を伸ばすことができた。
学校生活が楽しくなったし、勉強や部活をより頑張れるようになった。
楽しい時間は短く感じると聞いたことがあったが、本当にあっという間の二ヶ月だった。
今日は珍しく大塚さんに相談に乗ってほしいと声をかけられた。
友達の助けになりたいので、快く相談に乗ると答えた。
駅前で集合となっていたが、二十分経っても大塚さんは来ない。
不安になってきたので、もう着いてるよと大塚さんに連絡を入れた。
「七渡く~ん」
俺の姿を見つけてゆっくりと歩いてくる大塚さん。
連絡は入れ違いになってしまったようだ。
「大塚さん、おはよう」
「ふえ、今日はありがとね」
特に遅刻したことには触れず、謝る様子もない大塚さん。
俺は別に構わないんだけど、俺じゃなかったら嫌われてもおかしくはない生き方だ。
「なんか七渡くんを見ると落ち着くんだよね」
そう言いながら俺の身体にもたれかかってくる大塚さん。
オフショルダーの服を着ていて肩から胸上まで肌が全開になっている。
下はショートパンツで太ももが大胆に見えており、露出がかなり多い格好だ。
今日は少し暖かいが、十一月には寒そうな格好だ。
何か羽織らないと風邪を引いてしまいそうで、色んな意味で見ていられない。
「どこ行く? どこか良い場所あるかな?」
「個室のネカフェがいいかな~カラオケだと店員さんからの目が気になるしね」
別にただ話すだけなら店員さんに見られても何も問題は無いと思うけど、大塚さんは何故か気にしている。
結局、大塚さんのオススメするネットカフェへ向かった。
ネットカフェには行ったことがないので、少し新鮮な気持ちになる。
ネットカフェへ入ると、大塚さんが店員さんと慣れた様子で話している。
何度も利用しているのか、ネットカフェのシステムを知り尽くしているようだ。
そんな大塚さんはカップルシートでと注文していた。
別に俺達はカップルではないが、その席が大塚さんにとって快適なのだろうか……
俺達は指定されたカップルシート部屋の扉を開け、中へ入った。
「狭いね……」
部屋には横長のソファーがあり、机にはパソコンとテレビが置かれているだけの密室な空間だ。
完全個室となっており、他の部屋の様子は見えないし店員さんから見られることもない。
「はぁ~やっと座れる」
大塚さんはソファへ転がるように座り、一息ついている。
俺もその隣に座ると、肩がぶつかるような距離まで詰めてきた。
「それで、大塚さんの相談って何?」
「……ねぇ、いつまであたしのこと大塚さんって呼ぶの?」
「た、確かに」
大塚さんとは教室での席も前後であり、学校が始まってすぐに話す仲となった。
今では一緒のグループで毎日行動を共にしている。
今日だって二人で一緒に居る。
そんな関係なのにいつまで大塚さん呼びは違和感がある。
「もしかして育美ちゃんに気を使ってる?」
「それは……ちょっとあるかも」
育美は俺が他の女子と話すことを嫌がる。
大塚さんと話しているのは特に気にしていないみたいだけど、名前で呼び始めたら親近感が強くなっちゃう気がしてた。
「育美ちゃんなら大丈夫だよ。あたしのこと信頼してくれてると思うし」
「本当?」
「むしろ育美ちゃんも、何で仲良いのにさん付けなのって気にしてたから」
育美が何も気にしないのなら名前で呼んでも問題はなさそうだ。
大塚さんにも他人行儀なのは悪いし、今日から名前で呼ぼう。
「美波……」
「うんうん。慣れるためにもう一度」
「美波?」
「いいね。もっともっと」
「美波美波美波」
名前で呼ぶたびに嬉しそうにする美波。
可愛いしもっと喜ばせたくなってしまう。
「なんか名前で呼ばれて、ようやく本当に仲が良くなれた気がするよ」
そう言いながら俺に抱き着いてくる美波。
何か今日はやけに距離感が近いな……
「ち、近いって」
「嫌なの?」
「い、嫌というか、恥ずかしいし」
露出の多い格好をしているだけあって、目のやり場にも困る。
美波は少し胸が大きいので、目下には谷間もがっつりと見えてしまう。
「……見たいの?」
俺の視線に気づいたのか、指で服を伸ばしてもっと胸を見せてくる美波。
ブラが少し見えていて、その光景に釘付けになってしまう。
「な、何してんだよっ」
「今ここであたしと付き合ってくれるなら、あたしのおっぱい好きなだけ触っていいよ」
「えっ!?」
美波のまさかの言葉に、俺は戸惑う。
本気なのか冗談なのかわからない……
「本気だよ。ここなら誰にも見られないし、脱いでもいいよ」
「そ、そんな」
俺も男の子なので、そんなことを言われてしまえば感情が大きく揺さぶられてしまう。
美波のおっぱいは見たいし触りたい。
でも、育美じゃなくて美波と付き合うなんて……
悩んでいると、あのトラウマが蘇ってきた。
美波の服装、さきほどの誘惑。
これはもうギャルかもしれない。
美波はギャルの卵だ。
嫌悪感と共に、少し身体が震えてくる。
あの神社での思い出はまだ俺を強く蝕んでいる。
「いや、そういうのは良くないよ」
「えっ!? 何で?」
この世の中には甘い誘惑がたくさんある。
Twitterでお金が簡単にたくさん手に入りますなんて言ってるアカウントがあるけど、簡単にお金をたくさん儲けられる方法なんてあるわけない。
Twitterでエッチの相手募集中なんてエロ詐欺アカウントがたくさんあるけど、簡単にエッチができる方法なんてあるわけがない。
この世は誘惑に満ちていて、釣られてしまった人たちはお金を奪われていく。
そんな自然の摂理に、俺は打ち勝たないといけない。
「俺はもう、そういう罠にはかからない」
「どういうこと? 逆にかかったことあるの?」
「小学生の時にギャルに誘惑されてお年玉を全部取られた経験があるからな」
「どんな経験!?」
あの時に俺は大金を失うと同時に世界の真理を知ることができた。
だからもう、迷わない。
さっきめっちゃ迷ったけど。
「でも、七渡君ってガチで育美ちゃんのことが好きなんだね」
「えっ?」
「男なら99%あたしの誘惑に負けてたもん。育美ちゃんのこと中途半端に好きだったら絶対あたしに触れてくれたはずだし」
美波は俺が育美に相応しい男かどうか試していたのだろうか?
罠にかかってたら、育美に七渡はエロくてしょうもない男だよと伝えられていたかもしれない。
「俺のこと試してたのか?」
「うーん……そういうことにしといて」
美波が本気だったのか冗談だったのかはわからない。
でも、少なくとも美波は俺と付き合いたいと思うほど好きじゃない気がする。
「でもわかるわ、育美ちゃん可愛いもんね」
「それは間違いないけど」
俺の恋心は一樹も察していたし、美波も当然のように知っているのだろう。
この様子だと育美にも気づかれているかもしれないな。
「どんなとこ好きなの?」
「ちゃんと管理してくれるとことか? 見守ってくれるっていうのかな?」
「初めて聞いたよ、管理されるのが好きとか」
少し引いてしいる美波。
言い方を少し間違えてしまったかもしれないな。
「あと無邪気に笑う時、めっちゃ可愛いとか?」
「わかるわそれ」
「でも、たまにしか見られない」
育美が少し笑うことは多くなってきたが、爆笑することは滅多にない。
美波も育美とずっと一緒にいるからか、その笑顔の可愛さを理解しているようだ。
「あたしも久しぶりに育美ちゃんが爆笑してるとこ見たいから、明日二人でどっちが笑わせられるか勝負しようよ」
「いいぜ。俺は過去に笑わせたことあるからな」
「あたしだってあるし」
その後は美波と一緒に終了の時間になるまで漫画を読んでいた。
美波は何を考えているのか分かりづらいので、たまに怖くなる時がある。
でも、ずっと俺にもたれながら漫画を読んでいたので、
少なくとも友達としては好かれているみたいだな――
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