第26話 ♀羽ばたく少女
七渡にお土産を渡すのが目的だったのに、
我慢できずに七渡へ目隠しをつけてしまった。
夜の公園のベンチに座り、何も見えずにおどおどしている七渡。
その光景が私をゾクゾクさせてしまう。
少し距離を置いて遠くから眺めてみる。
放置されて一人になった七渡が早く早くと震えた声をあげている。
目隠しには思いの外、色んな楽しみ方があるみたいね。
もっとたくさん悪戯をしてみたくなってしまう。
最初はコンビニで買ったペットボトルの水を七渡の顔に数滴垂らした。
何かを顔に垂らすという行為は、想像以上に興奮してしまった。
いつか、もっと自由に七渡の顔に私の何かを垂らしたり押しつけたりしたいわね。
そのためには私と七渡が戯れることのできる部屋を用意する必要がある。
今度はコンビニで買ったチョコのお菓子でも食べさせてみようかしら。
棒状のお菓子で、七渡の頬や眉間をつつく。
少しの刺激で身体をびくっとさせるので、もっと意地悪したくなってしまう。
口に近づけると、唇を尖らせて慎重に食べていく七渡。
小動物のようで可愛いし、まさにペットね。
「……これはポッキーだな」
「あら、正解よ。やるじゃない」
目隠しを外させ、紙袋からお土産を取り出す。
「ご褒美のお土産はチョコレートよ」
「おぉ! お菓子までくれるんだ」
単純なことで満面の笑みを見せてくれる七渡が好き。
彼は表情豊かだから色んな顔が見たくなる。
普通に生きていたら絶対に出てこないような、深い場所にある彼の表情を引き出してみたくもなってしまうわね。
「じゃあ、また目隠しをして」
「えっ? まだお土産あるの?」
「え、ええ」
ついつい七渡の喜ぶ顔が見たくて、お土産を三つも買ってしまった。
冷静に考えると、好きな気持ちが抑えきれていなかったわね。
「多くないか? なんか貰ってばかりで申し訳ないよ」
「次が最後だから」
彼のためなら何でもしたくなってしまう。
そんな人、今まで生きてきて初めて出会ったわね。
「したぞ」
再び目隠し状態になる七渡。
今なら何をしても七渡には見えない。
その状況が私をより大胆にさせる。
七渡の頬を優しく撫でていき、顎をつまむ。
そのまま手を降ろしていき、七渡の首を軽く絞める。
無防備な首を掴んでいると気分は高揚する。
普段は触れられない部分だからこそ、特別感がある。
「ねぇ、何されると思う?」
七渡の耳元でそう囁くと、震えた声でわからないと返してきた。
「何されるか分からなくて怖くないの?」
「育美だったら、何されても嬉しい」
「あらあら」
嬉しい言葉を吐いてくれる七渡。
でも、そんなことを言われてしまったら、止まらなくなってしまうわよ。
七渡の服の中に手を入れる。
熱くて薄着なだけあって、直接肌に触れるのは簡単だった。
少し汗ばんでいる温かい身体。
伝わってくる心臓の鼓動。
七渡の胸元へ私の伸びた爪を立たせてチクチクと動かす。
「あっ」
七渡から聞いたことのない可愛いくて高い声が漏れた。
その声を聞いて、私の身体が異様な反応を示す。
「ちょっ、くすぐったいって」
「我慢するの。その可愛い声をもっと聞かせて」
七渡へ我慢を強いたのに、私は我慢できずに七渡の首へ甘噛みをしてしまう。
前にやり過ぎたと反省した行為だけど、理性が働いてくれない。
「んっ」
欲しかった声が七渡の口から漏れ出る。
その口に向かって、私の口を近づけた。
いや、これは絶対に駄目よ。
いくら目を閉じているからって、キスは流石にバレてしまう。
慌てて七渡から一歩離れる。
これ以上は危険だ。
身体もどこか変になっちゃっている。
「んんっ」
お腹の奥の方から、何かが込み上げてくるような感覚が生じる。
あまりの刺激に少し声が漏れてしまった。
「……やばいっ」
刺激がまるで電流のように背筋を通っていき、全身に広がっていく。
その感覚が何度もドクドクと押し寄せて、視界がぐらぐらと歪む。
身体を軽く捻ってなんとか耐えようとしたが、立っていられなくなってしまい、七渡の元へ抱き着くように倒れ込んだ。
「い、育美、大丈夫か?」
「はぁ……はぁ……」
なに今の?
今まで体感したことのない、異様な現象が身体に生じた。
自分でも怖くなってしまうくらいの強い刺激だった。
全身がじんわりと汗をかいている。
「問題……ないわ。ただバランスを崩しただけよ」
止まらずに漏れ続ける熱い吐息を七渡にかける。
あなたが私をこんなにさせてしまったのよ……
「苦しそうな息がかかってるけど」
「苦しくない、むしろ気持ち良かったわ」
身体が少し落ち着いてくると、より彼が愛おしくなる。
そして、彼からもっと刺激が欲しいと心が疼いてしまう。
「目隠し、外していいわよ」
「……大丈夫か? 顔が真っ赤だぞ」
目隠しを外した七渡は、私の様子を見て心配してくれる。
顔が緩みきってしまって、いつもの表情ができない。
そんな私の顔を見た七渡も、顔を少し赤くしている。
「これ、お土産」
「何これ?」
私は七渡に糸を結んで作られたお土産を渡した。
「フィンランドの伝統装飾で、ヒンメリと言うらしいわ。飾ると幸せが訪れるとか」
「なるほど、日本でいうところのお守りみたいなもんか」
「……きっとこれからあなたにたくさん良い事が起こると思うわ」
「ありがとう、大切にする」
七渡に最後のお土産を渡し終え、そのまま別れを告げた。
本当はもっと七渡と話したかったけど、あまりの身体の倦怠感に頭がもう回らなかった。
ずっと身体がそわそわしていたし、七渡の声を聞いているだけで変な刺激が生じていた。
あの時、私の身に何が起こったの?
答えは無理に出さなくてもいい。
知らない方が良いこともある。
しばらくは何も考えたくない。
宙に浮いたような感覚で、ふらつく足取りのまま私は家へ帰った。
部屋のベッドへ転がり込み、
べっとりとした幸せな気持ちを抱えたまま、
解放されるかのように私は意識を失った――
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