第13話 ♂嫉妬する少年
教室に入り、須々木の姿を探す。
しかし、須々木はまだ登校していなかったみたいだ。
「おはよう大塚さん」
自分の席へ向かい、その席の後ろで座っている大塚さんへ話しかける。
「ふえおは」
いつものふえぇ~おはようを略してふえおはと言ってきた大塚さん。
スマホの画面を真剣に見ているので集中しているようだ。
「何見てるの?」
「旦那デスノート」
「何それ? なんか物騒な名前だけど」
「妻が夫の愚痴を書く掲示板みたいなやつだよん」
大塚さんは予想通りの答えがいつも返ってこない。
普通の女子ならインスタとかツイッターとか見ているけど、大塚さんはいつも一風変わったものを見ている気がする。
「そんなサイト、利用する人なんか少ないだろ」
「何十万人も利用してるけど」
「えげつないな」
この世界は俺が思っているよりも闇が深いらしい。
普通に生きていても世界の明るいところしか見えない。
でも、少し踏み込めば、真っ暗な裏側が見えてしまう。
「どんなこと書いてあるんだ?」
「夫の死期が少しでも早くなるように、料理に身体の悪いものをあえて混ぜてるとか。ここで死んでほしいって書いたら、本当に夫が死んだ最高とか」
「……世も末だな」
世の中には知らない方が良かったと思えることはたくさんある。
その一つを知ってしまったかも。
「でも大塚さんって別に結婚してるわけじゃないのに、何で見てるの?」
人の悪口ばかり見ていたら、性格が歪んでしまいそうだな。
「……誰かの悪口見ていると安心するんだよね」
時すでに遅し!?
めっちゃ歪んでるって。
「駄目な人は自分だけじゃないんだってさ〜」
大塚さんは自分を駄目な人だと思っているみたいだ。
それを自覚しているのなら改善しようと思うはずだが、大塚さんの場合は開き直っている。
「そういう考え方もあるのか」
「性格悪いって思った?」
「悪いっていうか、普通の人とは違うってだけじゃないか? 違うことを悪いって言う人も世の中には多いと思うけど」
「いやいや、もっとあたしをおだててよ。男子は女子に調子良いこと言っておかないとモテないよ? 俺は大塚さんの性格、けっこう好きだけどな~とか言ってさ」
ここまで人に本音をさらけ出す人は珍しいな……
話していて新鮮だから、嫌な気分ではないけど。
「二人で何を話してるの?」
登校してきた須々木が俺と大塚さんの元へやってくる。
須々木は教室で俺とあまり関わないので、大塚さんと三人で話すのは新鮮だ。
「天海君があたしのこと好きだってアプローチしてきたの」
「お、おい、そんなこと言ってないって」
「ふえぇ~恥ずかしがらなくていいよ」
須々木の前で言って欲しくない冗談を言う大塚さん。
勘違いされたらショックで立ち直れなくなりそう。
「須々木、大塚さんは冗談を言っていて……」
「そんなに慌てなくて大丈夫よ。彼女が嘘をついていることはわかりきっているから」
「そ、そっか」
須々木の言葉を聞いて安堵する。
須々木は俺よりも大塚さんのことを理解しているだろうから、変なことを言われても大丈夫かもしれない。
「バレた? 本当は育美ちゃんの性格の悪さについて話してたんだよ」
「そ、そんなこと言ってないって」
さらに嘘を重ねていく大塚さん。
須々木さんにだけは絶対に嫌われたくないから、焦りが募っていく。
「やめて美波。彼を困らせていいのは私だけだから」
俺の肩に手を置いて、落ち着かせてくれる須々木。
「えっ? 育美、天海とそんなに仲良かったっけ?」
「一緒にバスケの練習してるんだよな」
意外にも大塚さんは俺と須々木が仲良いのを知らなかったみたいだ。
須々木といつも話しているから、既に知っていると思っていたのだが……
「ちょ、ちょっと」
須々木は一緒に練習していることを言ってほしくなかったのか、困った顔を見せている。
「ふ~ん……そうなんだ」
何故か寂しそうな顔を見せている大塚さん。
あんな表情は初めて見たな……
「さっきの美波の話、本当に嘘よね?」
「もちろんだよ。絶対に言ってない」
俺のことを少し疑っていた須々木。
まぁ、ただの友達を完全に信用するのは難しいか。
「あの子をまともに相手していると疲れるわよ」
「実際にハラハラして疲れてる」
「美波と真正面から向き合っても時間の無駄よ」
大塚さんへ厳しい眼差しを向ける須々木。
その視線に気づいた大塚さんはヘラヘラとしている。
「それでも仲良いの?」
「裏がある人より、最初から裏の人の方が私は好きかもしれないわ。僅差だけど」
「そういう捉え方もあるのか」
大塚さんは変わっていると思ったけど、須々木も考え方が変わっているな。
変わり者同士だから、二人は仲良くできるのかもしれない――
▲
放課後になり、バスケ部での活動が始まる。
一年生だけで二チーム作っての紅白戦が行われた。
最初の頃は活躍できなかったけど、今日は何度かシュートを決めることができた。
「けっこう上手くなったな」
試合後に一樹から声をかけられる。
今まで下手としか言われてこなかったが、初めて褒められた。
「部活後にも練習してるからな」
須々木との練習を始めて、もう1ヶ月が経とうとしている。
登校日はほぼ毎日休みなく練習している。
その結果が早くも表れてきたみたいだ。
「……そこまで努力できるのは凄いな」
素直に感心している一樹。
頑張って良かったなぁ~。
この後、須々木にも報告したい。
「その努力を七渡の母上にも報告したいんだが」
「何でわざわざお母さんに言うんだよ。友達の母親を母上とか言うなよ」
何かきっかけができる度に俺の母親と会おうと企てる一樹。
抜かりなさすぎだし、ガチ過ぎてちょっと引く。
「なぁなぁ、二人って須々木さんとクラスメイトだったよな?」
「うん、そうだよ」
同じ一年生の三井君が話しかけてきた。
三井君も一樹ほどではないが、バスケが上手い。
「彼氏とかいないよな?」
「いないって聞いてるけど、何で?」
「めっちゃタイプで、好きになっちゃったんだよ。だから、勇気出して告白しようかなって」
「えっ、そうなんだ……」
おいおい、何でよりにもよって須々木なんだ……
しかも三井君はカッコイイ。これは不味いな。
万が一、三井君の告白が成功して須々木と付き合ったら……
想像しただけでも吐きそうになってしまう。
「あんましオススメはしないな。失敗する可能性の方が高いぞ」
「ま、まじかよ」
一樹が三井君にナイスなアドバイスをしてくれる。
「前に少し話した時に、男と付き合う気はないって言ってたし」
「じゃあ、止めておこうかな。フられて学校の噂になったらダサいし」
三井君の言葉を聞いてホッとする。
告白は諦めてくれたみたいだな。
でも、別に俺は須々木のこと好きじゃないのに、どうしてあんなに動揺してしまったんだろう。
さっきの会話だけで、めっちゃ冷や汗をかいてしまった。
「須々木さん、人気だな」
「そ、そうだな」
須々木の話題になってから、頭の中で須々木でいっぱいになってしまう。
早く部活が終わってほしい。
そうすれば、須々木に会えるのに……
あれ?
俺っていつから、こんな須々木に夢中になっていたんだろう。
最近はずっと須々木のこと考えている気がする。
これは、もしかして……
俺、須々木のこと、
好きかもしれない――
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