第5話 ♂見つめる少年


「おっす廣瀬君」


「おはよう天海」


 クラスメイトであり、同じ部活の廣瀬君とは自然と仲良くなった。

 まだどんな人なのかは把握していないけど、一緒にいると何故か居心地が良い。


「そういえば趣味とか聞いてなかったな」


 廣瀬君の方から俺に質問をしてくれる。

 向こうも俺に興味を持ってくれているみたいだ。


「まぁ無難に漫画とかゲームとかかな」


「俺も漫画とかアニメとか見るぞ」


「どんなやつ見んの?」


「最近だと、すのはら荘の管理人さんってアニメを見たな」


「お、おう……」


 意外と俺の知らないマニアックなやつを見ているな。

 名前的に優しそうなお姉さんが出てきそうな作品のようだ。


「ユーチューブとかは?」


「ちょっと前から見始めた。お姉さん系のブイチューバーを主に」


「お、おう……」


 ちょっと癖が強いな。

 普通ではないことは伝わってくる。


「そういえば、彼女とかいんの?」


「いない。まだ学校始まったばかりだからみんないないだろ」


 廣瀬は身長が高く、スポーツも勉強もできるのでモテる。

 この前もクラスメイトの女の子に連絡先を聞かれていた。

 その時、俺も隣にいたのにスルーされたのがショックだった。


「付き合ったことは?」


「ないけど」


 どうやら付き合ったことはまだないらしい。

 まさかこの完璧超人に俺が勝っている項目があるなんて。


「……うざいくらい勝ち誇った顔してるな。中一で経験ある方が珍しいだろ」


「俺はあるよ。許嫁がいたし」


「しょうもねー嘘つくなよ」


 俺は引っ越しをする前、幼馴染というか許嫁がいた。

 翼という女の子で、いつも一緒にいた。

 もう会えなくなってしまったけど、元気にしていればいいのだが……


「本当だから」


「はいはい。どうせならもっとましな嘘をつけって」


 まったく信じてくれない廣瀬。

 まぁ逆に廣瀬から許嫁がいると言ってきても信じるのは難しいし、その気持ちはわかる。


「もし九州に旅行する日が来たら見せてやるよ」


「どうせその辺の女にお金渡して、代わりに許嫁ですって言ってもらうだけだろ」


「そんな世界で一番しょうもないお金の使い方しねーって!」


 まったく信じる気すら見せない廣瀬。

 いつか翼のことを紹介してやりたい――



     ▲



 放課後はバスケ部での活動がある。

 今日も体育館で練習を行う。


「なぁ廣瀬、あの子めっちゃ上手いよな」


 まだ先輩達に加わっての紅白戦にはあまり参加できず、ボール拾いや待ち時間が多い。

 その時に女子バスケ部の様子をついつい見てしまう。


「クラスメイトの須々木か。前の練習試合で、もう一軍の試合に少し出たらしいぞ」


「やっぱりミニバス経験者はチーターだな」


「いや、素人らしいぞ」


「じゅくねんくとろなぁ?」


 驚きのあまり言葉にならない声が出てしまった。

 素人なのにもう試合出るとか凄すぎるだろ。


「女バスの顧問の先生が十年に一度の逸材だって」


「廣瀬は五年に一度の逸材って言われてたのに、それ以上か」


「天海は毎年出てくる凡人って言われてたな」


「そんな酷いこと誰も言ってなかっただろ!?」


 意外と冗談交じりに言葉で棘を刺してくる廣瀬。

 遠慮されるよりかはましだけど、容赦はしてほしいところだ。


「でも、そんだけ期待されてたら楽しいだろうなぁ」


 綺麗なシュートフォームで点を決めた須々木さんを見つめる。

 可愛いというか、素敵な人だよなぁ。


「それはどうだろうな」


「えっ、違うの?」


「才能が有り過ぎるってのは、逆に妬まれたり調子乗ってると思われたりするからな。ただ楽しいだけじゃないと思う」


 廣瀬は神妙な面持ちで、須々木を見ている。


「なるほどね。確かに須々木さんを改めて見ると、あんまり周りには溶け込んでないかもしれない」


「天海だって自分より上手い奴を全員転校させてレギュラーになったとして、新しく入ってきた天才の後輩にあっさりその座を奪われることになったら思うことはありそうだろ?」


「……なるほどね。出る杭は打たれるとは言うが、出る才能は打たれるって感じだな。あと俺さんどんだけ転校させてんだよ。マフィアのボスの息子かよ」


 プロスポーツの凄い選手は称賛されるのが当たり前だけど、部活という小規模な活動の中の凄い選手は称賛されるばかりではないらしい。

 他人と比べても自分が変わるわけではないのに……


「あの子、先輩の私にちゃんとパスくださいとか言ってきたんだけど。生意気すぎ」

「ちょっと上手いからって調子に乗り過ぎだよね。顔で先生にも気に入られてるみたいだし」


 廣瀬の懸念が当たっていたのか、通り過ぎていって女子バスケ部の先輩達が須々木さんと思われる人の陰口を言い合っていた。


「おいおい、女の子の上下関係って噂以上に恐そうだな」


「そうだな。見ていられん」


「なんか須々木さんのために俺にできることあるかな?」


「……どうしてそうなる。下手に絡むと余計なことに巻き込まれるぞ」


 女子バスケ部の先輩たちは須々木さんが原因でイラついているためか、他の後輩たちにも厳しく当たっていた。


 しかし、須々木さんはその中でも何一つ委縮せずに堂々と立っている。

 その強さに惚れ惚れするし、尊敬もしてしまう。


 同い年のクラスメイトなのに、遠い存在に感じる。

 そんな彼女に少しでもいいから近づきたいと思った――

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