第4話 ♀友達ができた少女
私の中学校生活が始まった。
身体も成長してきて、身長も高くなった。
普段は見せない箇所も変化していて、大人になってきているのが実感できる。
昨日も一日中、胸が張っていて痛かった。
これは、胸が大きくなる特有の症状らしいから、そこまで嫌な気分ではなかったけど。
「やっぱり中学生になったから彼氏とか欲しいよね?」
「わかる。恋したい」
周りの生徒は浮足立っているみたいだけど、私はいたって冷静だ。
小学生から中学生に肩書が変わっただけで、自分自身は何も変わっていないのだから。
私の中学校での目標は誰にも負けないこと。
ただそれだけ。
「おっと、わりぃな」
身長の高い男子生徒と肩がぶつかった。
「別に」
舐められないように、少し目つきを悪くする。
戦いはもう始まっているのよ。
席につき、鞄に入れていた本を読む。
周りの生徒は会話をするか、一人でぼーっと佇んでいるだけ。
私はきっと周りと比べれば有意義な時間を過ごしているはず。
「ちょっと、そこあたしの席なんだけど」
急に話しかけられたので、本を閉じる。
目の前には初めて見る女の子が立っていた。
「そんなはずは……」
周囲を確認するが、私の席であることは間違いない。
今日は二日目であり、昨日と変わらない席に座っている。
「昨日、あたしそこに座ってたもん」
この子は私のドッペルゲンガーか何かかしら?
容姿が良いからか、周りの男子も彼女のことを見ている。
「間違いなく、私の席よ。そもそもあなた誰よ」
「
初めて聞く名前だった。
明らかにこのクラスの生徒ではない。
「そんな生徒はいなかった。ここ三組よ」
「えっ!? 二組だと思ってた」
顔を真っ赤にして、慌てて教室を出ていった女。
お馬鹿さんに貴重な私の時間を奪われて、ストレスが溜まったわ。
なんだろう……
何故か胸が少しざわついたわね。
▲
休み時間になり、生徒達が席を立っていく。
やはり友達が一人か二人はいないと困るわね。
別に無理して欲しくはないのだけど、変に不安が募ってしまう。
でも、大丈夫。
本気を出せば友達なんて一日で十人ぐらいは作れるはず。
「ねぇ、何部入るの?」
勇気を出して隣の席の女の子に話しかけた。
部活選びは今まさに絶対に盛り上がる話題であり、会話が続くこと間違いなしだわ。
「ごめん、忙しいから」
そう言って私の前からすたすたと去っていく女の子。
こんなはずでは……
ちょっと愛想が悪かったかもしれないわね。
今度は笑顔で話しかけないと。
「ねぇ、ちょっといいかしら?」
このままでは終われない私は、近くにいた大塚さんへ話しかけた。
「ふえっ? 何なんですかぁその恐いお顔。殺す気ですかぁ?」
「い、いや、違くて……」
えっ!? そんな恐い顔してるの私?
地味にショックが大きいわね…
「何部入るの?」
「ふえぇ~あたしですか?」
「あなたに聞いているのよ。状況を見ればわかるでしょ」
「まだ考えてないにゃん」
あっ、ヤバい地雷踏んだかも……
絶対にあんまり関わらない方がいいタイプ女だ。
「須々木さんは何部ぅ?」
「空手をやりたかったけど、空手部が無いから消去法でバスケ部にしようと思っているの」
球技系の部活なら何でもよかったのだけど、この芝坂中では女子バスケ部が強いという話を聞いてバスケ部に決めた。
できる限り負けたくないから、強いチームに入って勝ち続けたい。
チームに上手い人も多いなら、私もやる気を出せそう。
「じゃあ、あたしもバスケ部にするぅ」
「は? 何で?」
「友達と一緒の部活がいいからぁ」
ちょっと待って、もう私と友達ってこと?
この子、やっぱりヤバい。
関わりたくないと思ったけど、時すでに遅しかもしれないわ。
「ちゃんと自分の意思で決めた方がいいわよ。私の兄も中学の部活選びは人生を大きく左右するって言ってたし」
「誰かに依存するのが一番楽だもん」
「……そういう生き方は嫌いだわ。もう話しかけないで」
人にすがるのは好きじゃない。
自分が決めた選択で失敗しても自分を責められるけど、誰かが決めた選択で失敗するとただ虚しくなるだけよ。
「話しかけてきたの、そっちじゃん」
「……そうだったわね」
勝ち誇った顔で私を見てくる女。
この子、本当に性格悪そうな顔をしているわね。
さっきまでのぶりっ子ぶりはどこ行ったのよ。
でも、これだけ冷たくすればもう関わってこないはず。
「めっちゃタイプかも」
「は?」
「こっちの話だよん」
ご機嫌そうな表情で、てちてちと歩いていく大塚さん。
嫌われるどころか気に入られてしまっているようだ――
▲
バスケ部の体験入部に参加をしている。
バスケの経験は無かったけど、先輩たちから上手いと褒められた。
練習を積めば上手くなりそうな気が自分でもしている。
運動神経が良くて助かった。
「ふえぇ~今シュート決めた同じクラスの廣瀬君、カッコイイよね」
私に反して、頑張らないと厳しいかもねと先輩たちから慰められていた大塚さん。
休憩中に、隣のコートで練習している男子バスケ部の様子を見ている。
「別にそこまで言うほどじゃないと思うけど。あれくらいなら私の兄の方がカッコイイと思う。あとそのふえぇ~ってやつ、ウザ過ぎるからやめて」
「見かけによらずブラコンなのぉ?」
「まったく。女癖とか悪いし、引くことの方が多いわ」
そういえば、兄は大塚さんのようなヤバい女を連れてくることが多かったわね。
案の定、すぐ別れて心に傷を負っていたけど。
「じゃあ、天海は?」
「……誰?」
「同じクラスじゃーん。ほら、あの人。見ればわかるでしょ?」
「あんな人、同じクラスにいたかしら?」
「酷いっ、私の前の席の男の子だから」
何の印象も残っていなかった天海というクラスメイト。
少し目で追ってみるが、普通という言葉が似合う男子だった。
「大塚さんはああいうのがタイプなの?」
「うーん……そういうんじゃないけど、優しそうというか無害そうだから安心感あるなと思って」
無害そうという言葉は的を射ており、少し笑ってしまう。
「ちゃんと笑うと可愛いね」
「か、からかわないで。というか、あなたは見るからに有害そうね」
「……それ酷くない? 容赦ないにゃ~」
「別に嫌われてもいいもの。私は言いたいことを言う派だから」
相手を傷つけるつもりで言ったけど、大塚さんは変わらずへらへらとしている。
私の言いたいことをはっきり言う性格のため、知り合ってから距離を置いてくる人も多かった。
でも、大塚さんは違うみたいだ。
良い意味でも嫌な意味でも変わっている。
困ったことに、変なお友達ができてしまったわね――
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