第24話

 現場に着くと、そこには早乙女さおとめくんとあの勇者のコスプレをした男しかいなかった。


暴隠栖ぼういんずが現れたって聞いたんだけど、いつの間にか二人きりになったのかしら? 解散秒読みって感じで私は嬉しいけど」


 あれだけの勢力を誇る暴隠栖ぼういんずがそう簡単に解散するはずがない。頭ではわかっていても一縷いちるの望みに賭けたてみたい気持ちはある。


「解散? それはないな。ただ、やり方を変えようと思ってな」


 早乙女さおとめくんは堂々とした振るまいいで答える。いろいろな事情があって暴隠栖ぼういんずのヘッドになり、うまくまとめ上げているのは事実。彼がヘッドになってから、クレームこそあるものの事故はグンと減った。


「やり方っていうのは、二人掛かりで私を倒そうってこと?」


「いや、一対一だ。正確には一対二なのかもしれないがな」


 どういうこと? まさか早乙女さおとめくんが一対一の決闘と見せかけて不意打ちを仕掛けてくるとは考えにくいし……私のおっぱいが魔王だとバレてる?

 もし、あの勇者コスプレの男が本当の勇者で、正義感の強い早乙女さおとめくんが魔王退治に協力しているとしたら、有り得ない話ではない。


「そのあいまいな答えはどういうこと? 一対一なの? それとも二人掛かりなの?」


町尾まちお、その答えならあんたが一番よくわかっていると思うが?」


 やっぱりおっぱいが魔王だってバレてる⁉

 さっきから魔王は眠るよりも静かに気配を消してるし、やっぱりあのコスプレ男が勇者なんだ。どうしよう。思ってたよりも早く修羅場に突入してしまった。


「ふ、ふーん。そんな大きい剣まで持ち出して二対一なんて早乙女さおとめくんもちたものね」


 たぶん二が私達で、一があの勇者だけど、ギリギリまでこの事実から目を逸らそう。


「いや、その……これには事情があって……」


「事情? どんな事情があればそんな凶器を持ち歩く理由になるの? せっかく暴隠栖ぼういんずが大人しくなったと思ったのに、そんな危ない人と繋がって……」


「ぐっ……そ、それは……」


 うろたえる早乙女さおとめくんを見るに、詳しくはわからないけど本当に何か事情があることは察することができた。


 私は魔王、早乙女さおとめくんは勇者に振り回されているらしい。

 でも、これってもしかしてチャンス? 似たような境遇を脱すれば自ずと信頼が生まれて、暴走族を抜け出すきっかけを作れるかもしれない。


「ところで早乙女さおとめくん。さっきから精神統一してるそちらの男性は一体。銃刀法違反で捕まえてもいいんだけど、コスプレ……にしてはクオリティが高いよね?」


「こいつは武藤むとう暴隠栖ぼういんずの新戦力だ」


 プラートルさんの魔法を受けたからわかる。武藤むとうさんの周りには、なにやら光のオーラみたいなものが集まっている。きっと魔王がくらったら大変なことになるだろう。


 やり過ごすにしても、武藤むとうさんは暴隠栖ぼういんずとして私と戦う理由がある。決して合法ではないんだけど、こうやって警察官と戦っても不自然ではない状況を作り出すとは、勇者はなかなかのキレ者のようだ。


「おい、町尾まちお。降参するなら今のうちだ。大人しくすれば痛い目に遭わずに済む」


「それはこっちのセリフよ。今なら何の罪も背負わずに済む。まずは早乙女さおとめくんが暴隠栖ぼういんずを辞めて、もしちょっとでも辞めたい意志のあるメンバーと一緒に道を改めて」


「……武藤むとう、準備はいいか?」


 私の呼び掛けを無視して武藤むとうさんに話を振る。ここが正念場だ。ここを乗り切れさえすればきっと早乙女さおとめくんは目を覚ましてくれる。だからお願い。魔王、力を貸して!


「……仕方ない。ここで勇者を蹴散けちらしておくか」


 パーーーンッとブラと制服が破れると、魔王おっぱいが白日のもとに晒される。

 早乙女さおとめくんは口をぽかんと開いて固まってしまった。さっきまで堂々と立っていたのに前屈まえかがみになっている。


 そんな早乙女さおとめくんと対照的に武藤むとうさんの目は真剣だ。私のおっぱいをおっぱいではなく、あくまで敵、魔王として見ている。そんな力強さが宿っている。


「ふん。勇者め。気付いておったか」


「気付いていたけど、善良な市民を巻き添えにして魔王を滅ぼすわけにはいかないからな。ずっと考えてた。魔王だけを滅ぼす方法を!」


「やってみるがよい。これが余の新しい力だ!」


 勝手に盛り上がる勇者と魔王おっぱい。他人事であるけどしっかり当事者なので戦いに巻き込まれている。


「いくぞめぐる! おっぱい百裂拳!」


 ぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよん!!

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 高速連打されるおっぱいを勇者である武藤むとうさんは華麗にかわす。これが勇者の身体能力かと感心する一方で、この状況は一体どういうことなのかとあきれる自分もいた。


「ちょっと! 全然当たってないじゃない。いつまでもおっぱい丸出しは恥ずかしいんですけど」


「勇者のやつ、いつもプラートルと一緒にいたせいで巨乳への興味を失ったのかもしれぬ。それ込みでの技だから」


「まあ、全体的にそうよね。このおっぱい技って」


「とは言え、この連撃を余裕でかわすとは、勇者もこちらの世界で成長したということか」


 聞いた話では、向こうの世界で魔王は一度勇者に敗れている。魔王はおっぱいになってパワーダウン。プラートルさんの助けがないとは言え、こちらの世界でパワーアップしたらしい勇者はまだ剣を握っていない。これってかなりピンチなんじゃ。


「プラートル抜きで魔王に対抗できるか不安だったけど、どうやらこちらの世界で篭絡ろうらくしたようだな」


「ぐぬぬっ! だが、貴様の剣で余を貫けばめぐるも死ぬ。果たしてそれでよいのか?」


「一つの賭けだけど、その女性から魔王を引き離す方法は考えてある」


 そう言うと勇者は激しく動くおっぱいの片方をその手に収めた。だいぶ肉が溢れているが、握るのではなく優しく包み込まれるような感覚。むぎゅっと潰されるような物理的な痛さも、光魔法を受けた時のような感覚もない。むしろ気持ち良いくらいだ。


「な、なにを!」


 とすれば、自然と私の反応は、いきなり胸をつかまれた乙女になってしまう。

 今までは掴める胸がなかったし、相手もいなかったし……まさに初めての体験だ。そして、勇者は私の予想を超える行動に出た。

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