第21話

「お、鬼瓦おにがわらがやられた! なあ! 暴隠栖ぼういんずのヘッドがやられたぞ!」


「新しい暴隠栖ぼういんずの幕開けだ!」


早乙女さおとめ……いや、豪拳ごうけんさんこそヘッドに相応しい!」


 など勝手に盛り上がり始めた。


「いや、オレは暴走族には……」


 そんな言葉は彼らの耳には届かない。鬼瓦おにがわらの恐怖政治が終わりを告げた喜びが彼らの頭のネジを緩くしているようだった。


「なあ、このまま町尾まちおも始末しねー?」


「そうだ! 今なら勝てる」


 さっきまで何もできず固まっていただけのやつらが調子に乗り出す。おそらく鬼瓦おにがわらに比べればたいしたことのない相手でも、今のこの状態で何人も相手にするのは無理だ。一人だってまともに戦えるかもわからない。


 だけど、町尾まちおさんを守るためにオレはこう叫ぶしかなかった。


「てめーら! 鬼瓦おにがわらを倒したこのオレに勝てるとでも思ってんのか⁉」


「ひっ! そ、そんな、とんでもございません」


 さっきまでの勢いはどこへやら、一気に委縮して大人しくなる。


「こんなボロボロの状態の町尾まちおをボコって勝ったと言えるのか? 違うだろ? お互いに万全でぶつかり合ってきっちり潰す。そうでなきゃ強さの証明にならねー」


 こんな言葉で納得してくれるのか全くわからないが、とにかく大声で堂々と叫んだ。暴隠栖ぼういんずのメンバーに1人でもめられたら終わりだ。


「たしかに! さすが、新ヘッドは言うことが違う」


豪拳ごうけんさんの言う通りだ」


「それに豪拳ごうけんさんだってボロボロだ。ここは一旦引きましょう」


 どうやら納得してくれたみたいで彼らはバイクにまたがる。


「……町尾まちおさん、オレ……」


「お礼は絶対に言わない。だってあなたはもう暴走族なんだから。いつか絶対に捕まえて、迷惑を掛けた罪を償って、それでちゃんと、妹さんに恥ずかしくない生き方を選んでもらうから」


「……はい」


 オレは名前も知らない暴走族が運転するバイクの後ろに座り、ヘッドと祭り上げられアジトへと向かう。

 そのアジトの場所すら知らないし、メンバーの顔も名前も全然わからない。それでも素直にオレの言葉に耳を貸してくれたことだけはありがたい。


 町尾まちおさんとはあんな別れ方をしてしまった。警察官と暴走族。完全な敵対関係になってしまったけれど、いつか別の関係を築きたい。そんな願いを込めてぽつりとつぶやく。


めぐるさん」


 この想いはずっとしまっておかなければならない。彼女は暴隠栖ぼういんずの敵で、オレは暴隠栖ぼういんずのヘッドなのだから。

 オレが今、この状況でできることは、暴隠栖ぼういんずの活動を少しずつ減らしてメンバーの人生を正していくこと。


 きっと警察官として暴隠栖ぼういんずに向き合うめぐるさんのやり方が正しくて、ヘッドとして内側から変えていくなんて、うまくいくかわからない間違ったやり方なのかもしれない。


 だけど今のオレにはこの道しかない。まいの時もそうだった。オレはいつだって間違ったやり方しか選べない。いつかめぐるさんと一緒の道を歩ける日を夢見て、オレは暴隠栖ぼういんずのヘッドになった。

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