第17話

 天国って意外と暗くて嫌な場所なんだな。もしかして地獄か? 

 そんな風に思ったのも束の間


「よお、お目覚めかい?」


 鬼瓦おにがわらの声を聞いてここが天国ではないことがわかった。まだ生きてはいるが、地獄に近い場所かもしれない。


「ここは……?」


「僕らのアジト。あ、動かない方がいいよ」


 暴走族って本当に倉庫をアジトにしてるんだなって感想がわいてくると共に、身体のダルさに襲われた。


「ごめんねー。逃げようとする豪拳ごうけんくんも悪いけど、佐々木が先走って。ちゃんと落とし前は付けさせたから安心してね」


 鬼瓦おにがわらが親指で指し示す方に視線をやると顔にアザを作ってぐったりと座り込む男の姿があった。


「迷わず後頭部を殴る潔さは評価するけど、これから仲間になる男を殴ったらダメじゃんね?」


「その話なら……うっ」


「あー、ほらほら。大人しくしてなきゃ」


「……なんで逃げようとしたのに親切にしてくれるんですか?」


「だって、僕ら仲間じゃん?」


 優しい言葉とは裏腹にその瞳は冷たい雰囲気をまとっている。


「さっきの加藤って人や、佐々木って人は仲間じゃないんですか?」


「仲間だよ。 対等な関係ではないけどね。僕が頭で彼らは手足。頭が動けって命令すればその通りに動かないといけないし、思い通りに動かなければ粛清しゅくせいする。当然でしょ」


「つまりオレも思い通りに動かなければあんな風になるってことですね」


「そういうこと」


 鬼瓦おにがわらがニッコリと冷たい笑みを浮かべると周囲の空気が一段と重くなった。きっとこの表情を見せた時は辛い目に遭わされるのだろう。


「でも豪拳ごうけんくんは意志が固いみたいだからね。ちょっと変わった方法で僕らの仲間になってもらうよ」


「え?」


「キミの意志は関係ない。世間が豪拳ごうけんくんを暴隠栖ぼういんずのメンバーだと信じるんだ」


「それは……どういう」


 頭のケガもあって全く思考が回らない。逃げ出そうにも逃げ出せない膠着こうちゃくした時間をただ過ごすしかなかった。


「うーん、そろそろかな」


 鬼瓦おにがわらがつぶやくと外からパトカーのサイレンが聞こえてきた。


「よかった。これで……」


「これで豪拳ごうけんくんはめでたく暴隠栖ぼういんずの仲間入りだね」


「……は?」


「よし、みんな。佐々木を置いてズラかるぞ。もし捕まったら『新入りの早乙女さおとめ豪拳ごうけんにやられました』って答えろよ」


「な……! おいっ!」


豪拳ごうけんくんはゆっくり休んでなって。そこで寝てるだけで暴隠栖ぼういんずに入れるんだからさ」


「オレだって被害者だ。警察にちゃんと事情を話せば……!」


「自分の拳を見てみな。血が付いてるでしょ? 寝てる間に塗っておいたんだ。佐々木の血を。証拠もバッチリ。初犯だし、佐々木には『先に手を出したのは自分です』って言うように指示してあるから安心して。まあ事実だしね。ちゃんと迎えに行くから」


 そう言い残して鬼瓦おにがわらは他の仲間を引き連れて裏口から去っていった。

 程なくして何名かの警察官が倉庫に入ってくると、オレは何の抵抗もできずに確保されてしまった。

 そしてこれが運命の出会いでもあった。

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