第16話
「やっほー。
「どうしてオレの名前を?」
「
不自然なにっこり笑顔で質問に答える
「妹さんが居眠り運転の車にはねられたんだって? それは残念だったね」
「……」
「それで居眠り運転をなくすためにこうして騒がしく運転してるんでしょ? いやー、実に健気だ。涙が出ちゃう」
わざとらしく泣きマネをする
「僕らと一緒ならもーっと大きな音を出せるよ。ほら、一緒に妹さんの無念を晴らそうぜ」
「どうして
「
「……
力を入れににくい体勢だったにも関わらず胸から全身に衝撃が走った。正式な大会で通用するかは別として、この人の身体能力はかなりのものだと実感している。
「褒めてくれてありがと。でもさ、やっぱり強いカードは何枚持ってても嬉しいじゃない」
「お言葉を返すようで悪いですけど、みなさんだってかなり強そうですよ」
派手な髪型の取り巻き達もそれなりに筋肉が付いているし、ケンカ慣れはしていそうな
「そりゃあ今はね。
「あの、すみません。オレ、ケンカには興味ないので」
「妹さんを殺した居眠り運転野郎に復讐したいとは思わないの?」
さっきまでの陽気な喋り方から一転、暴走族をまとめあげてきた自信と力強さが溢れる冷たくドスの利いた雰囲気へと豹変した。
「今はあの事故の記憶が残ってるから居眠り運転が減ってる。だけど、時間が経てばみんな忘れていくよ? そのために、
仰々しく
居眠り運転をしたやつに復讐したい。その気持ちだってウソではない。だけど、オレはそんなことをするために空手をしてたんじゃないし、ただ暴力を振るうだけの拳を
「すみません。オレ、集団行動が苦手なのでお断りします。きっと迷惑をお掛けするので」
「いいよいいよ。慣れるまではみんな、他人に迷惑を掛けるものだって。だからそれは断れる理由にはならないよ」
まるでこういう風に誘いを断れるのを想定していたかのようにサラサラと言葉が出てくるところに
「オレ、この道以外に走る理由がないんです。この道だけでも妹と同じような被害者を出さないためにやってるだけで」
「うん。それでいいよ」
「え?」
「僕らの仲間に入っても、
走り以外の用事というのは他の暴走族との抗争だというのは想像できた。結局、戦力が欲しくてたまらなかったんだ。
「いや、ですからケンカなんてする気は……」
「みんな最初はそう言うんだよ。人を殺す気で殴った経験がないからビビっちゃう。でも、一回やっちゃえばクセになるから。おい、加藤」
「は、はい!」
加藤と呼ばれた男が怯えた様子で返事をする。髪を派手な赤色に染め、その毛はツンツンに尖っている。街で見かけたらこちらの方がビビってしまいそうな風貌だが、今は不思議と弱く小さな存在に思えた。
「
加藤は何も反論せず、目をギュッとつむり殴られるのを待つ。
「そんな! なんでオレがこの人を殴らないといけないんですか!」
「だって
「ぶほぉっ!」
「か、加藤さん? 大丈夫ですか?」
「あーあ、
確かに
「どんなに強くてもさ、ためらって動きが
「ひとまず警察に」
逃げ道が塞がれている以上、自分だけの力で解決はできそうにない。こんな厄介ごとに巻き込まれたらオレも警察のお世話になるだろうけど、暴走族に入るよりはマシだ。
緊急用の発信ボタンをタッチしたその時、
「がっ!」
頭を何か固い物で殴られた感覚があった。電撃のように痛みが駆け抜けた後は、鈍痛がジワリジワリと広がっていく。スマホからはオペレーターの声が聞こえるけど返事はできない。
ああ、オレ、
スマホの音声が頭に響きながらもオレの意識は遠のいていった。
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