第七話・新たな関係

side・一馬


 信長さんが何とか帰ってくれたんで、オレとエルたちは新居の準備をすることにした。


 大橋さんが掃除とかしてくれたみたいで、家の中は綺麗だ。船から降ろした布団とか荷物を整理するくらいで住めるね。ただ、広い屋敷なのにお風呂がないんだ。お風呂の増築と、ちょっと汚いからトイレの改修はしたいね。


 大橋さんからは、好きに使っていいって言われてるし。明日にでも大工さんを探してみようかな。


「司令。少しよろしいですか?」


「うん。なに?」


「今後のことです」


 庭が広いから家庭菜園でもやろうかって考えてたら、エルに呼ばれた。そういえば今後のことを話し合ってなかったな。


「司令。私たちはこのままでは歴史を見物するのではなく、歴史の当事者になってしまいます。そのことについて、いかがお考えなのですか?」


「うーん。どうしよっか。巻き込まれる前に帰る?」


 尾張に来たエルたちと話すことになったが、エルが単刀直入に現状の問題を口にした。


「ねえ、その前に本当に元の世界に帰りたくないの?」


「そっちはあんまり。元の世界に家族もいないし」


 麦茶を飲みながら話していくけど、現状が中途半端なのはオレにも分かる。どうしようか、少し悩んでるんだよね。本当のところ。


 メルティからは元の世界について聞かれたけど、本当に未練はないので帰らなくていいと思っている。みんながいてシルバーンがあれば苦難があっても乗り越えられるはずだ。


 それは地上降下前に伝えたはずなんだけど、若干呆れられているのは何故だろう。


「それならここを過去だと思うのは、もう止めた方がいいと思うわ。この世界で生きていくつもりで考えるべきよ」


「私もそう思う」


 オレとしては日本と関わるか、島に帰るかの選択肢で考えていたのだが、メルティとケティは、信長を見物したいという理由で来たオレの基本的な考え方に疑問があるみたい。


 確かにオレはここを過去の歴史として見ていた。少し迂闊だったな。


「技術的なアドバンテージがあるから、千年はなにもしなくても優位に生きられると思うわ。でもそれだと、いつか追い付かれるわね」


「司令も私たちも老化はしないから、殺されない限りは死にはしない。でも、客観的に考えて私たちの生存圏は確立すべき」


「そう考えると、アタシたちがそれなりの地位になれるのって、この時代が一番やりやすいかもしれないね。戸籍もなく、封建体制であるものの下剋上が可能だからね」


 エルとセレスは黙ったままだけど、メルティとケティとジュリアは前向きに今後のことを話し始めた。


 有機アンドロイドは老化などしないし、生体強化されたプレイヤーにも老化はない。それは仮想空間からリアルになっても変化がないのは、すでに検査をして判明している。


 宇宙要塞とオレたちが、この世界にとって異物であることは確かだ。場合によっては世界から危険視されて、狙われる危険性もゼロではないと。最悪の場合は宇宙要塞で太陽系外に逃げるという選択肢もあるから、そこまで深刻じゃないけどね。


「エル。セレス。どう思う?」


「私たちの居場所は作るべきかと思います。しかしこの時代でもそれほど簡単なことだとは思えません」


「司令次第かと。正直生存圏の確立だけなら、太陽系を離れて無人の惑星を探した方が早いかもしれません」


 みんな真剣に考えてるんだなぁ。もしかして楽天的に考えてたのはオレだけか? みんな一緒なら何とかなると思えるんだけど。


「じゃあ、他のみんなにも意見聞いて、最終的に話し合って決めようか」


 信長さんも見たし、そろそろこれからのことを考えるべきかもしれない。


 今回ばかりはみんなの意見を聞いて決めないと。もう答えが用意されてるゲームじゃないんだから。




 みんなの意見を通信で聞いたら、この日の夜には意見がまとまったらしい。


 細かい意見はいろいろとあるけど、まずは地球で生存圏の確立のために動くべきだとの意見がほとんどだ。そのうえで決断はオレが下すことになった。


「じゃあ、このまま商人になってみようか」


 チャレンジしてみるべきかなと思う。大変だろうがやれるだろう。正直、オレは希望でワクワクしている。みんなと一緒にまたなにかをやれることに。それだけでいいとさえ思う自分がいる。


 エル、メルティ、ジュリア、セレス、ケティ。一緒に話し合いをしているみんなも納得してくれた。問題はいろいろと出そうだけど、その都度改善していけばいいはずだ。


「ところで、司令。いつか彼女とか奥さん探して、迎えるのかしら? ずっと独り身は寂しいでしょう?」


「うん? みんながいるし要らないかなぁ。リアルに考えると秘密がバレる危険が出るし、下手な親戚ができたら厄介なことになるよ」


「そう。なら私たちを本当の妻として扱ってほしいわ」


「うん。いいんじゃないかな。そのほうが対外的に嘘がバレないと思うし」


 当面の方針を地球にて自分たちの生存圏を確立するために、商人として生きることに決めた。ただここでメルティが、オレの心配してくれた。


 リアルでも十年近く彼女がいなかったしなぁ。今更寂しいとか騒ぐ齢でもないし、それに秘密が多いから下手な奥さん迎えると厄介なことになる。


 みんなとこうして一緒にいられれば、それでいいって思える。メルティもわざわざ確認しなくてもいいのに。




 結果から言おう。メルティにハメられた。そもそもアンドロイドが子供を産めるなんて、オレは聞いていなかった。


 順番も彼女たちで決めていた。一巡するまで年功序列で行くそうだ。そのあとはご自由にと言われたけどさ。これ呼ぶ回数によって、不満とか持たれたりしないよね?


 身内のアンドロイドが不満を溜め込むとか怖い。


 でもさ。ここで断れるような強い意見なんて、オレにはないんだよね。エルが部屋に来るまで気付かなくて、庭の家庭菜園に植えるものを考えてたくらいなのに。


 それに……、断れるわけないよ。自分の好みで作ったアンドロイドたちを。


 覚悟を決めてきたエルを前に、話が違うなんて言えるはずがない。


 エルたちにはロボット三原則のようなものはない。ケティの話では仮想空間のシステムから解き放たれた影響で、なんの制限もない自由な状態だと聞いている。極論をいえばオレの命令なんて従う義務はもうないんだ。


 そのうえでみんながそれぞれに考え相談した結果だ。ならば受け入れるしかない。


 問題は百二十人のアンドロイドが、不満を抱えないでやれるかが悩みどころだ。ハーレムって言っても限度があるよね。そもそもリアルに結婚をするために創ったんじゃない。


 今度こっそり宇宙要塞のコンピュータにでも聞いてみようか。どうすればみんなと上手くいくのか。




side・エル


 メルティもあんな騙すようなこと、しなくてもいいのに。


 司令は奥手で人付き合いも得意じゃないから、ズルズルと待つよりは早めにきっかけを作ってあげないと、厄介なことになるなんて言うけど。


 一番最初の私の身にもなってほしい。拒否されたらと思うと……。


 ただ現実問題として私たちが伴侶を得るには司令を選ぶか、新たな男性型有機アンドロイドを創ってもらうかの、ふたつにひとつしかない。


 仮想空間で創られた存在として生まれた私たちは、限られた特殊な環境で育ち生きてきました。


 司令は私たちが伴侶のアンドロイドを欲しいと言えば、創る許可はくれるでしょう。でもそれだと司令は、寂しい思いをすると思います。


 司令は元の世界よりも私たちと共にいることを選んだ。私たちは全員が自らの意思でそんな司令を選んだ。


 恐らく人ならばあり得ないことで、私たちは自らの創造主である司令に、元々好意を持つように仮想空間のシステムにより作られたことが今でも影響している。それはみんな理解している。


 私は司令がみんなに自由を与えたいと考えていることを知っているので、急ぐ必要はないからとみんなに話したんだけど。


 私たちは人ではない。ならば私たちなりの生き方をすればいいのではないかというのが、私たちアンドロイドの総意。


 私たちを人と同じように扱い、愛情を注いでくれた司令と共に生きるというのが、生命として自ら決めた第一歩。


 多分、司令は一生気付かないかもしれない。私たちの覚悟。


 どんな生命体であれ、縛られるものはある。群れとしての掟から個としての宿命まで様々。私たちはアンドロイドという掟を背負い生きていく。


 そう決めました。


 でも。私自身はどんな理由や形であれ、司令に愛されるのが嬉しくてならないのが本音です。


 司令。不束者ですがよろしくお願いします。






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