第三話・地上の拠点と生命として

side:アレックス(一馬)


 宇宙要塞は外敵もいなきゃプレイヤーもいないから、完全に開店休業状態になっちゃったな。


 小笠原諸島の拠点は、港が早くも一部だけど完成した。材料は小笠原諸島にある物を使って、ローマン・コンクリートを作ったようだ。古代ローマで使われていたものだとか。良く再現出来たもんだ。


 港には煉瓦造りの倉庫が並び、住居や畑も並行して作っている。畑はまずは宇宙要塞の人工農園にある果樹を植えるべく土作りしてるとこだ。


 建物は煉瓦を用いた洋風のものや、木造の和風に高床式の建物も造るらしい。気候や風土や歴史により町並みとかは変わるので、多国籍な町並みにするんだそうな。


 この拠点の目的は資源入手のための地上の拠点だ。宇宙港は平地が多い硫黄島にしたので、地上での資源確保はすぐに始められるだろう。


「やっぱりこの時代だと帆船なんだ」


「普通の帆船だと危ないので、超小型の反重力エンジンと核融合炉を搭載しました。あとはオートバランサーと通信機に武装としてレーザー砲も載せてます」


「それ、もう帆船じゃないね」


「念のためです」


 そして日本に行く為の船なんだけど、五百トンクラスのガレオン船を模した船で行くみたい。それにしても過剰の装備だと思うけど、万全に万全を期すのか。未知の世界に来てエルは少し心配性になった気がする。


 積み荷は、交易用に絹織物・砂糖・胡椒・硝石なんかを持っていくようだ。結構な量が積めるみたいで、大量の樽を積み込んでる。


「南国の海は、いいわね~」


「うふふ。リゾートにしたいわ」


 それはいいんだけど。地上に降りて一週間で、アンドロイドのみんなはすっかり南国生活を満喫するようになっちゃったな。


 無論、仕事はしている。ただしギャラクシー・オブ・プラネットでは高度なオートメーション化が進んでいる。各部門の仕事も小笠原諸島の開発も管理するアンドロイドがいれば問題はない。


 結果として、みんな暇なんだろうね。ちょうど夏ということもあって、砂浜で海水浴したりしてるよ。


 もう仮想空間じゃないんだ。自由にしてくれて構わない。ただし、人によってはトップレスだったり、何も着けてないのはどうかと思う。


 自分で見た目とか決めて創ったアンドロイドではあるものの、セクシャリティな設定は当然していないので初めて見る光景だ。不思議な気分であるものの眼福なのは認める。


「司令。聞いてますか?」


「ああ、聞いてるよ。出発は三日後なんだよね」


 そんな光景を眺めてると、エルが少し不機嫌そうに見えた気がする。気のせいだろうか。今まではそんなことなかったんだけど。


 仮想空間からリアルになった最大の敵は己自身だ。


 可愛い子とか綺麗な子の容姿で、女性型のアンドロイドを増やしたのはオレ自身だけどさ。まさかリアルになるとは思わなかったよ。




side・エル


 司令は現状を楽しんでいます。それが何よりの救いでしょう。


 私たち有機アンドロイドが、仮想空間という楔から解き放たれた影響は司令より遥かに大きいです。


 自分ではないような自分と言えば、言い過ぎかもしれませんが。


 本来の私たちは仮想空間にて司令により生み出された、司令のためのアンドロイドです。たとえ高度な自我があろうとも、それは変わりません。


 ですが今の私たちは、そんな当たり前だったことからも、解放されてしまったのかもしれません。


 戸惑っているのは司令も私たちも同じでしょう。人工知能ではない生命体の本能とも思える心理面の変化は、私自身にもあります。


 喜怒哀楽は当然ありましたが、以前にはあった壁が消えたことで、私は司令を男性として意識してしまいます。


 私を見てくれることに喜びを感じながらも、以前には感じなかった男性の視線に恥ずかしくもなります。


 それに、司令が他のみんなを見ていると少し嫉妬してしまったかもしれません。このようなことは初めてです。


 生きるというのは綺麗事ばかりではない。みんなも感じているはずです。今後どうなるのでしょう。私は今まで以上にみんなをまとめねばなりません。気を引き締めましょう。




side・アレックス


「何を作ってるの?」


「釣りのリールだよ。向こうで暇なら、釣りでもしようかなって。さすがに時代に合わないリールは持っていけないしね」


 出発日が決まったけど、オレはやっぱり暇なんだよね。拠点設営は中途半端に手を出すと邪魔になるから、余ってた木材で釣りのリールを作ってたら、ケティが声を掛けてきた。


「魚は美味しい。でもこの時代に醤油がないのは許せない。魚の美味しさが半減する」


「うーん。醤油とか調味料も持っていってみるか?」


「それがいい」


 ケティはグルメだからな。ただ、この時代だと調味料とかも限られているし、一通り持って行ったほうがいいか。


 あまり長居する気はない。商いでもしてちょっと町を見てみたいところだ。織田信長を見てみたいけど、そう簡単に見られる相手じゃないし。


「そうだ、釣りにでも行くか? この辺りでマグロ釣れるみたいだし」


「行く」


 さて、今日の夕食の食材でも釣りに行くか? 魚群探知機で探せば釣れるだろう。みんなでマグロ尽くしの夕食にしようかね。




side・ケティ


 生命体というのは面白い。生理現象もあれば、欲求も出てくる。肉体と思考が必ずしも一致しないこともある。


 触覚はギャラクシー・オブ・プラネットにもあったが、痛覚はこの世界にきて初めて経験した。司令はこんなことをリアルで感じていたんだなと思うといろいろと興味深い。


 ギャラクシー・オブ・プラネットとこの世界の知識や技術の差はゼロ。ギャラクシー・オブ・プラネット自体が司令の元の世界を忠実に再現した空間だったので、この世界も司令の元の世界と同じということになる。


 ただし、仮想空間にのみ存在した司令の元の世界以上の超技術や超理論が、この世界で通じることには驚きしかない。


 現状はそんな私たちの技術でもすぐに解明できない事態になる。


「体が若返ったのにも慣れてきたよ。身体強化と睡眠学習があるから動きやすいし、物覚えもいいし」


 司令はこの世界に来て変わった。いや、元からリアルではそういう人だったのだろうか?


 ポジティブなのは才能だと思う。帰りたいと落ち込まれたらどうしようとみんなで相談したことが無駄になったけど。


 ただ、私たちが生命体となり新しい感覚や生理現象を感じているように、司令もまた生身の肉体となったことで変化が見られる。


 性的な欲求というやつだろうか? 視線が微妙に以前と違う時がある。


 司令と私たちはお互いにもう少し新しい関係に慣れる必要があると思う。メルティは少し考えがあるようだけど。今はまだ早いだろう。



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