第二話・戸惑いと楽観
side:エル
物資の確保はなんとかなりそうですね。鉱物資源と水と塩に関しては、火星と木星の間にあるアステロイドベルトや木星の第二衛星のエウロパにて、採掘用のロボット兵と輸送艦で入手できました。
「ケティ、医療部はどう?」
「保有している医薬品の分析と、この時代で必要と思われる医薬品とワクチンの製造を新たにしてる。私たちは有機アンドロイドであり、司令は強化人間と言える。病に罹った場合を想定して効き目はシミュレートをしている」
調べることは幾らでもある。仮想空間とリアル世界の影響はまだ調査が終わっていません。
幸いなことに宇宙要塞シルバ―ンと各種艦艇の設備、ギャラクシー・オブ・プラネットの知識と技術がこの世界でも変わらず使えることは判明した。それは本当に良かったと思う。
司令は収集癖があるので、ギャラクシー・オブ・プラネットでは知識や技術を集めれるだけ集めていたことが、こうなると役に立ちます。
「エル、この時代の地上で使えそうな武器とかあったかね?」
ケティと入れ替わりでやってきたのはジュリアです。
実は地上への降下を計画しています。資源入手ルートは複数あったほうがいいですから。それになにが起きるか分からない。地上の拠点は欲しいところです。
武器のリスト。ナイフ類ならあります。あとは鉈などもありますが……。
「この時代に合わせた武器を製造しましょう。開発製造部に指示を出しておきます」
降下地点は小笠原諸島を予定しています。武器はこの時代の日本で使われているものがいいでしょう。ただ、さすがに火縄銃は製造経験がないはず。あまり難しくないとは思いますが、試作してもらうべきですね。
火縄銃と刀剣は同時代では商品として売れる品にもなります。多めに製造して日本と取引をしてもいいかもしれません。
地上の拠点整備の物資もいりますね。オーバーテクノロジーとなるものは、見える範囲に置かないほうがいいでしょう。いろいろと製造する必要があります。
時計を見るとそろそろ夕食の時間です。仕事に一区切りをつけましょうか。
ふと昔を思い出します。
十五年。それが私と司令が共に過ごした年月です。
中学生の時に両親を亡くされた司令は、とうとう両親と過ごした年月を超えてしまうなと、以前笑っていたことが記憶に焼き付いています。
仮想空間という作られた世界の住人である私と司令は、共に歩みながらも決して越えられない壁があるはずでした。
ですが最終日のあの日、私は願ってしまった。
離れたくないと。このままこの人と悠久の時を生きたいと。
そして仮想空間からリアルな世界へ私たちは来てしまった。
これは偶然という名の必然が生んだ現実なのか。それとも神の悪戯なのか。私にも分かりません。
一般的な人と比較しても、決して秀でたところはなく。強いて挙げるとすれば、十五年もの間ずっとひとつの仮想空間を続けたことが司令の特長です。
司令には現状把握してることは、ひとつだけを残してすべて報告をしています。
そのひとつだけ司令に報告出来なかったこと。それは私たちが生命体となったことで、人である司令と愛を育み子供を産むことも出来るということです。
司令はその事実をどう受け止めるのでしょうか?
これは私が願ってしまった結果なのでしょうか?
私は……。貴方を愛していいのでしょうか?
side:アレックス(一馬)
地上に拠点を設けるために降下した。場所は小笠原諸島だ。この時代では無人の島であり、大きさも手ごろで周りが海なので防衛もしやすいことが理由らしい。
小笠原諸島が発見された時期には諸説あるが、少なくともこの時代に住人がおらず領有者がいないのは確かだった。
拠点設営の資材を満載した輸送艦にて父島に降りたけど、意外に大きいなというのが第一印象だ。
まずは基本となる村については、父島と母島と硫黄島に建設することにした。
表向きはこの時代に合わせた見た目にするようで、江戸期から明治大正を混ぜたような外観の村になるらしい。
ただ、木材は島の規模からして貴重なので、この時代では未開の地であったシベリア辺りから貰ってくることにする。飛行機もないこの時代ならば、大気圏内の航行が可能な大型輸送機とロボット兵ですぐに調達出来る。
「稲作は無理ですね。狭い島なので、水事情は決してよくありません。史実でも、本土では育たぬ南国の果樹などを植えていたようですから」
宇宙要塞シルバ―ンの維持のために必要な施設として、海水から塩や真水に金やレアメタルを回収できる設備はほしいが、後は完全に趣味の領域になる。
住人はオレとアンドロイドたちの百二十一人だけでは人の数が全然足りないので、ロボット兵を人に擬装させて水増ししないと、地上だけで考えると生活は維持出来ないかも。
実のところ食料は宇宙要塞の農業プラントで大量生産できるから、本当に島で自給自足する必要はないんだけどね。
「それにしても、みんな降りてきたんだな」
「暇なんですよ。宇宙には敵も味方もいませんし」
少し気になるのは地上に降りてきたアンドロイドたちが、百人を超えてることか。基本的に宇宙要塞の施設って自動化されてるから、管理する人が数人いれば困らないんだよね。
ロボット兵のほうは二千体ほど降ろしたみたいで、重機とロボット兵を使って拠点設営を一気に進めるみたい。
「これだと意外に早く、戦国時代を見物に行けるね」
「本当に行くんですか?」
「歴史を見てみたいじゃないか」
「そこまでおっしゃるなら……」
ギャラクシー・オブ・プラネットの乗り物は、基本的に反重力エンジンと核融合炉の併用型が一般的になる。なのであちこちに重機が空を飛びながら作業するのを、オレは見てるだけだ。
オレに出来るのは大まかな方針を決めるだけになる。細かいことはエルたちにお願いするしか出来ないんだよね。専門知識もあまりないしさ。
「しかし、あれだね。アバターのままなのにリアルな肉体とか不思議だね」
この世界に来て一週間ほど経過しているが、オレはもともとリアルだと思えば違和感は多くない。この体はどうもギャラクシー・オブ・プラネットで不老化処理と身体能力を向上させた肉体のようで、見た目が十代半ばで若返ったこと以外はリアルとあまり変わりない。
むしろエルたちアンドロイドのほうが、突然のリアルな肉体に戸惑っているようだ。ギャラクシー・オブ・プラネットはリアルさを追求した仮想空間なので存在したものの、使うわけではないのでオブジェとしてある設備だったし。
本音をいえば女性型アンドロイドばっかりなので、男ひとりだと少し気を使うことも増えた。
みんなも少しずつ慣れてこの環境に適応していると思うので、焦る必要もなにかを変える必要もないけど。
正直、オレはこの状況が楽しくて仕方ないかもしれない。
リアルな世界でみんなとずっと一緒にいられるなんて。
あまり浮かれないようにしないとな。
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