第3話 帰り道とロシアっ子
豊永先生の話を終え、廊下に出てみると、校内はしんと静まりかえっていた。どのくらい先生と話していただろうか。腕時計が示す時刻は午後6時。
帰りのHRが終わったのが、4時だから、約2時間離したことになる。
靴を履き替え、外に出てみると生暖かい風が僕を包み込む。それと同時に春特有の少し甘みを含んだ匂いが鼻腔をくすぐる。
…もうすっかり、春へと季節は移り変わってしまったようだ。
新学期への新たなる思い──大体はサンドラがクラスに馴染めるかどうかなんだが──を胸に秘めて、帰路を歩いて行く内に学校からの最寄駅に着いた。
改札に着いた途端、なにやら慌てふためき、改札の向こう側を不審に歩き回る金髪のJKを見つけた。
──間違えなくサンドラだ。
乗る電車がわからなくなってしまったのだろうか、
頬には大粒の汗が浮かんでいる。
まさかこのまま無視して帰宅する訳にもいかないため話しかけようとし、歩み寄る。
「サンドラ?」
そう声をかけた途端、ビクンと身を跳ね上げ、振り向いてくれた。
すると、僕の顔を見るや否や、不安がっていた表情にパァァと安堵の表情を咲かせた。
「……ソラくん!!」
……なんて可愛いんだ。すげぇ助けになりたい。
もしかして、これが母性ってやつか…。
それに、改めてみるとすげー可愛いよなこの子。
髪の毛はセンターでわかれ、顔立ちはすごく整っている。日本人にはないような良さがあり、すごく堀が深い。頬には可愛いらしいそばかすがちらつき、肌は血管が青く透き通るほど白いく、瞳の灰色との相性がバッチリ。
「ソラ、みち教えろ、クダサイ」
……すげぇ威圧的な態度をとられたような気がしないでもないが、語尾に【クダサイ】ついてるから、ギリセーフ……………………だよね?
つべこべ言っていても仕方ないので、素直に乗る電車を教えてあげる事にした。
幸い家からの最寄駅が僕と全く同じだったため、一緒に電車に乗って帰ることにした。
確かに日本の電車網はわかりにくいよな。
初めて日本にきたサンドラが迷うのも無理はない。
いざ、地下鉄に降りてみるとやはり退勤ラッシュたるものが出来ていた。
次から次へと人が流れ込み、サンドラと僕がはぐれそうになってしまう。
「サンドラ、ここ掴んでて。」
おそらく掴むという言葉を知らないだろうから、ジェスチャーでシャツの裾をつまみ上げ伝える。
それに対し、こくっと頷くサンドラ。
お互いの温もりを感じ合い、電車に乗る事ができた。1ついうが、すげぇ恥ずかしかった。今まで恋愛経験が全くと言っていいほどない僕だ。出会った日に『裾、掴んでて』なんていった時は顔面から湯気が出そうなくらい恥ずかしい。
それに周囲からの視線がすごい。
日本ではあんまり金髪の人は見かけないっていうのと、
…………サンドラが可愛すぎるのである。
サンドラをみた周囲の男子軍の目には、ハートマークが浮かび、肩が触れ合った人にはキューピッドに撃ち抜かれたように、膝から倒れ落ちた人もいた。
…………ごめん。ちょっと盛った。
まぁ、とりあえず、サンドラかわゆい!!ほんそれ。
その後なんとか僕らの家の最寄駅に辿り着き、出口をくぐると、辺りはすっかり暗くなっていた。
……ここで解散する訳にはいかないよな。
「サンドラ、家まで送りましょうか?」
「おくる?なにをです?」
「あー、いやいやそうじゃなくて。
テイク、ユー、ホーム?の方」
「あーそれか、ありがとう」
にこっと微笑むサンドラ。
そのまま彼女の家の方まで、夜道を歩いて行く。
「さっきはあんまり詳しく僕のこと紹介できなかったから、今紹介しちゃうね。
僕の名前は桜井空。クラスは2年5組。部活は文芸部、委員会は文芸部にはいっています。」
「ぶんげーぶ?」
口をぽかーんと開け、聞き返す。
「そう、何をするのかというとね、みんなで本を書いたり、読んだりするんです。そういえば、サンドラはどこの部活に入るか決めてあったりしますか?」
「ソラといっしょがイイナ」
「うーん、サンドラが文芸部か……確かに、ロシア文学とかってあんまり触れてきていないからアリかもです。先生にそう伝えておきます」
首をブンブン上下に動かして頷いて見せるサンドラ。頷くたびに、さらさらとした金糸のような美しい髪が揺れて、なにやら柑橘系の匂いが鼻腔をくすぐり、気恥ずかしい気持ちになる。なんだこのいい匂いは…
「それと、ずっと聴きたかっんだけどどうしてサンドラは日本に来ることになったんですか?」
さっきの事を思い出して、言った後に相手のことに踏み込みすぎるのは良くないなと胸がキリリと痛む。
「……………」
「サンドラ?」
「あー………それはね………ちち……にはんでしごとすることにナッテ…………いっしょに行くことなったかラダネ」
少し間が空いたのはうまく僕に説明しようとしてくれたからか。確かに、色々複雑な家庭の事情というのがあったのだろう。これ以上掘り下げる必要が無いと感じた僕は話題を変えることにした。
「それと、さっきも話したけど明日はサンドラの紹介があるから、よろしくおねがいね」
と、手を差し伸べた。
すると、サンドラは「ヨロシク!」と手を握ってくれた。先程の裾を掴かまれた時とは異なり、気恥ずかしい思いは無かった。
お互いに手肌越しに感じる温もりを感じ、
明日について密かに二人で誓ったのだった。
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