第13話 健康診断(中)
9時半になったので浦嶋先生が二枚のプリントを配り、これからの予定を説明し始める。
「では、今配ったプリントに記入事項を書いてください。一枚は健康調査書で今までの病気やアレルギーがないかといったことについて、もう一枚はこれから診察や測定するときに持って回るプリントです。調査書の方を回収しますので書けたらこのトレーに裏返しで入れてください。」
浦嶋先生はそう言って白いトレーを教室入口にある椅子の上に置いて、5分ほど時間を取り、生徒たちが記入するのを待つ。
配られた調査書を見れば結核や大きな病気を患ったことがないか、アレルギーはあるかなどの項目があり、チェックリストになっている。翼は自分の学籍番号、名前を記入し、病気など特になしの項目にチェックを入れる。
もう一枚の診察時に持つ紙も後ろにチェックリストがあり、休みの日の睡眠時間や食事の回数など生活習慣について入れる項目があった。もちろん翼はしっかりと8時間は寝るようにしているし、一日三食は必ず取ってる。
全員が書き終わったのを見計らって浦嶋先生は健康診断の移動する順番を話し出した。
「まず初めに一つ下の3階にある二年B組の教室で視力検査、その後ちょうど反対にあるE組の教室で聴力検査を受けてください。終わったら2階の三年B組で眼と耳鼻の疾患がないかを診察。そして隣のC組で歯科の診察を受けたらE組で呼吸器内科の診察を受けてください。後は……………そうそう、新一年生なので保健センターで心電図を取るから診察が終わり次第向かってください。」
聞きなれない保健センターという名称を聞いて全員の頭の中に疑問が浮かんでいる。「どこだ?」「そんなとこあったか?」と困惑する中、なんだかんだで唯一このクラスの男子生徒全員と知り合い又は友達になっている、実はコミュ力高い系の墨田君が手を挙げて皆を代表して質問する。
「先生、保健センターって何ですか?保健室ってことですか?」
「この学校には校庭近くにある保健室とは別に、特別な建物があるんですよ。体育館と外壁が同色でわかりにくいんですけどね。そうですね、体育館のホールにある両開きドアを開けてガラス張りの渡り廊下を通るとセンターに入れますよ。」
黒板に体育館と保健センターの図を書きながら説明している。どうやら、その保健センターというのは初代校長が実際に発案し建設されたようで、一階に規模の小さい病院とも言える機材や薬があるそうだ。精密検査やリハビリテーションという用途以外にも避難施設としても機能していて、地下倉庫に全校生徒が一ヶ月は生活できる用品が揃えられているらしい。しかし、この施設…いや発案者である初代校長を含めてとある噂というか謎のベールに包まれている。浦嶋玉兎は特別に教えましょうと言って話し出す。
「初代校長………………その人自体の素性がまず全くわからないんですよ。男性だったのか女性だったのか。ただ校長室に収められている暗号で書かれた手記があり、表紙に
急きょ始まったこの学校の昔話に俺たちは耳をしっかりと傾ける。ワクワクを隠せない顔をしている生徒を見て、苦笑しながらも浦嶋玉兎は続ける。
「その手記についてですが、何とか一部分を英照女学園84代目校長が解読し、保健センターに限らないのですが学校施設のことを我々教師陣も知ることが出来たのです。今でもその手記は私は愚か、あの暁輝夜でさえ届かない誰よりも優秀な教師である現在の英照学校3代目校長
浦嶋先生はどこか恐怖を顔に張り付けて歴代の校長について話し、首を左右に振ってから俺たちに保健センターの秘を明かす。
「話が逸れましたが、その初代が作り上げたという保健センターの最大の謎が…建築技術、医療技術、機械技術全てにおいてオーパーツであることです。今ある1階は手記を一部解読した84代目校長が何もなかったと言われているその場所に当時の医療施設を習って設置されたものですが………………2階と3階は未だに初代が設置したとされるモノがあります。そして、それらは今日までに使用されたことが………あるのです。その中でも特に禁忌と言われた3つ。一つ目は身体スキャンから遺伝情報全てを解析してしまう特殊機械生命体、通称エクスマキナ。これによって伏せますがある代の校長が自分のクローンを作り出したとされています。二つ目は治らないと言われる病気すら一瞬で完治させてしまう薬品、通称エリクシール。これを使用した形跡はあるのですが、誰に使ったかは伏せられていますが複数人に対する人体実験の結果が挙がっています。そして………………心臓を捧げる祭壇…通称死からの救済。これはもう使われることはありません。たった一つしか無いとされてますから。特殊な祭壇に自ら心臓を摘出し、捧げることで起動するこの装置の効果は………………不死です。永遠の再生と言ってもいいでしょう。」
先生含めたった10人しかいない今の教室でもわずかにうるさくなる。当然だ、男というものはロマンも不思議も謎も大好き、不死なんて誰が聞いても興味があるに決まってる。
「ですがこの装置を使ってしまった人間は後悔していますよ。何をしても死ぬことが出来ないと。ある時彼は話しました。求めたものは希望、得たものは絶望だ、と。ですがその後こう続けています。希望を願うものに救済を、絶望に抗うものに奇跡を、とね。」
「先生、その人と会ったことがあるにですか?どんな人なのですか?」
「ふふっ、もちろん。後で君たちも会うかもしれませんよ。最も彼は素性を変えられます。唯一の副作用だと彼は言っていますがね。っと、こんなことを話すはずじゃありませんでした。」
俺たちが健康診断に来ている医者の誰かじゃないかと騒ぐ中で先生は手をたたき、忘れかけていた本来の話に戻す。
「保健センターの1階で心電図を取ったら、そのまま体育館で身長、体重を測って今日は終了です。各自帰宅してください。あ、来週から授業が始まりますのでお気をつけて。」
「せ、先生健康センターの話もっと聞きたいです。」
「ふふっ、まあ、気になりますよね。行きたいとも思うでしょう。ですが………………君たちは健康センターの2階以降には絶対に上がれませんよ。それに今まで言ったことの大まかな内容は教室を出るころにはすっかり忘れますし。」
(えっ)
そのことに疑問を浮かべる暇もなく淡々と移動説明を行う。
『では皆さん、3階にある二年B組の教室で視力検査を受けてきてください。』
浦嶋玉兎は言の葉を紡いだ。俺たちはふらふらと指示に従い教室を出て検査に行くのだった。
****
彼らが出て行くのを見て白兎は報告書に記入する。
禁忌の話をした時に驚きを示さなかった生徒の名前を記している。
『報告書
秩序の白兎よりWORLDの観測者カグヤに報告
確定事項
ネームドの可能性がある人物を特定
安部啓仁
橘清雅
神無月翔
この3名が神秘に関心を持たなかった。神秘事象認識が予想される。
以上』
****
浦嶋玉兎は気づくことはなかった。
夢見る門番たった一人だけがこの話を教室から出ても覚えていることを………………
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