第3話 1年A組(下)

「改めて、担任の暁輝夜だ。入学おめでとう。」


 金色の長い髪を揺らしながら壇上に立つ先生は微笑みを携え、俺達の顔を見渡し祝福する。


「始めにこの英照についての話をしよう。本校は中高一貫の学校として、また共学として再編されてからまだ5年しか経っていない。そのため今の女子生徒しかいない高校三年生が卒業して、ようやく男女比率が等しい本格的な共学化となることが決定している。少し残念と思う人もいるかもしれないが君たちの学年までは基本的に6年間クラス替えは行われない。そこは了承してくれ。最も他クラスとの交流はゼロではないことだけは言っておこう。様々な企画や合同授業などがある。楽しみに待っているといい。」


 しっかりと前を向いて話を聞く生徒を確認しながら彼女は黒板に書きだす。


「次に学習面で大事なことを話そう。7月、12月、そして3月に行われる年3回の定期試験についてだ。義務教育で中学はどれほど点数がひどくても留年処分はない。ただし高校は別だ。点数がひどければ落とす。先に言っておくと3月はその年全ての学習内容が範囲となる。なので日ごろからしっかりと勉強するように。」


 彼女は大きく3月に丸をしながら“重要”と書き込む。


「まあ他に学年スケジュールとかどんな授業があるのか気になっているかもしれないがそれはこの後渡す英照の手引きを見てくれ。それと生徒手帳と学年、学校バッチも渡そう。これには校歌や規則一覧、そして書き込めるメモがあるから自由に見て使ってくれ。学生証も生徒手帳に入るように出来ているから。」


 前の席に座る人に6人分の手引き、生徒手帳が渡され、自分の分を取り後ろへ流す。それらが全員に行き渡るのを見計らって、先生は黒い箱からバッチを二つ取り出し、席を回って机の上に置いていく。


 置かれた二つのバッチを見る生徒の表情は明るい。


(うわ、カッコいい…)


 金色に輝く1と書かれた学年バッチ、十字架に天使の羽が組み合わさった学校バッチを翼は恐る恐る触る。


(意外と重いな)


 小さいのにずっしりとした感覚でキラリと輝くそれを眺める。周りの皆も同じような反応をしてる。


「んんっ、それは女子生徒はブレザーの襟元に、男子学生は学ランの首元に着けておけ。規則にあるようにこの英照学校の生徒であるという証明だ。絶対に無くすなよ。もし万が一なくしたら買う必要があるからな。」


「自己紹介は各自でやってくれ。これからずっと同じクラスなんだからいちいちやらん。グループワークをたまに行うからその時にでもすればいい。」


 そう言われて数人はホッとしている。準備してなかった奴やどうしようか考えていた人だろう。緊張するからな。ちなみに俺は自己紹介のことまで頭が回ってなかったからラッキーって感じ。


「最後にこれだけは今日中に決めなければならん。各クラスで2名ずつの学級委員長と書記に1名、そして生徒会に1名必要だ。学級委員長と書記は今日のホームルーム終了後、先生のところに来てもらい今後の決め事などを説明する。一方で生徒会は私が直に報告するため活動時期や説明は追って連絡がいく。」


 クラスは少しざわめき、続く言葉に注意深く耳を傾ける。


「生徒会は基本的に毎週金曜日に書類作成や管理体制についてを学年担任と行う。それがない日は企画を考えたり、意見交換をしたりと様々な仕事があり、学校の中心となる。選ばれた人はしっかり励んでほしい。生徒会の選出は各担任に委ねられているので私が決める。………………直感でな。」


「えっ」「まじかよ」「私やだなー」


 ふふふと笑いながら言う先生を見てざわめきは大きくなる。ある生徒は机を見つめたり、先生と目を合わさないように窓を向いたり、逆にしっかりと見つめたり。


(うーん、生徒会って意外とめんどそーだからやりたくねーな)


 翼は真面目な顔をしてジッと机の1点を見つめる。


(当たりませんように、当たりませんように。大丈夫確率は30分の1だし、女子の方が多いから……)


「ふふっ、静かに。先に生徒会の1名を決めてしまおう。」


 その一言でシーンと静まる。いろんなところを見る生徒に苦笑しながら先生は一人の生徒を決める。


「そうだな。今日は4月7日の水曜日だな。………………4,7,11………………いやいいか7で。7番の奴だ。」


(7番って誰だよ………って俺じゃねーか)


「はっ、はい。7番如月翼です。」


「君に頼んだよ。では皆拍手。」


 立ち上がった翼に先生は手をたたき、皆からもぱちぱちと拍手が送られる。正輝なんかは満面の笑みで拍手している。


「次に学級委員長と書記はやりたい人が挙手をしろ。ああ如月もやりたければ挙手していいぞ。」


「え、遠慮しときます。」


 苦笑し俺は椅子に座る。


(なーんか最近運悪いなー。まあ前向きに捉えよーっと。)



 ****


「では学級委員長を墨田学と長谷川加奈子、書記に天野風香、そして生徒会に如月翼となる。皆もう一度彼らに拍手を。」


 あの後すぐに立候補者が出てたった5分で終わった。

 学級委員長は二人とも眼鏡をかけた真面目そうな人で………って片方墨田じゃん。同じ学校だったのに驚いたわ。


 書記の子は変な人型の髪留めをしてて印象に残った子だった。

 その前の席に座る男子生徒と同じ髪留めだし親戚かなんかだろうか。


「早く終わったな。以上で今日のやることは終了した。さっき言った通り3人はこの後私のところに来てもらう。では、起立………………礼………さようなら…また明日だ。」


「「「さようなら」」」


 大きく伸びをして鞄を持ち廊下に出る。


「おーい翼、どんまーい。まあ頑張れよ。」

「翼君なら大丈夫だよ」

「頑張ってね」

「………ふぁ~………そういうこともあるよ翼」


 俺のところに正輝、美咲、優衣、加恋が集まってきた。てかホント自然に名前で呼んでくるな加恋………


「まあ決まったことだし仕方ないよ。それよりみんなでお昼ご飯食べに行かない?」

「おっいいな」「用事ないからいいよ」「私もー」


「加恋はどうする?」

「翼の奢りなら行く」


「仕方ないなーわかったよ。加恋には奢ろう。」

「わーい」


「おい俺たち親友だよな」「えー私も友達でしょ」「そーだそーだ」


「わかった、わかった。俺が奢るから。とりあえず行くぞー」


「「「「はーい」」」」


 俺たちは学校から横に並んで帰っていく。それはいつか見た夢の光景と同じ姿だった。



 ****


 生徒が帰宅し静まり返った教室。

 赤き瞳をした美しき女性は言葉を紡ぐ。彼女の隣には一匹の白兎。


『どうだった?』

『はい、反応から見てもおそらく彼で間違いないでしょう。』


『ふむ。ORIGINへ接続。βのWORLDを参照。』


 女性の目の前に浮かび上がるデータを白兎は読み上げる。

 **129374027**運命の開拓者**

 **273878353**無垢な案内人**

 **270346627**現生観測者(開花前)**

 **277466633**異界の門番(封印状態)**

 **277466600**封印の守り人**

 **847887329**異界からの迷い人**

 **720473921**黒星の姫**


『このクラスには彼を含めて7人。ただし反応から8人目を確認。他3人はすでに確認済みです。』


 **000000148**心臓を捧げた聖人**

 **104376636**記憶の魔女**

 **720473921**白星の姫**


『運命のに必ず集う10人。だが11人であれば………やはり運命のは生まれてしまったのか。』

『残念ながらそうかと。』


『幾人もの開拓者が表れるこの世界の問題ではあるな』


 茶色い瞳の彼女は教室を後にする。

 白衣の男性を従えて………





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