閑話 β-X ある春の日

 春休みに入って数日が経ったある日、翼は4月から通う英照中学に来ていた。

 今日は男子生徒の学生服を作る日であり、ここに来るのはあの合格発表以来だ。


(ここが体育館か、広いな)


 バスケットボールのコート二つ分くらいの広い体育館には数多くの学ランやズボンが設置されていた。その後ろには様々なサイズを取り揃えているのか、多くの段ボール箱が積まれている。


 今日来ているのは中学入学、高校入学の一年生と制服が小さくなってサイズを変更する在校生だ。


 体育館の一番端の方で、中学新一年生と書かれた看板が立てられていた。

 ロープで仕切られていて、数人の列ができている。


(並ぶのはあそこだな)


 列の最後に加わり順番を待つ。


 前には目元近くまで前髪がかかった男の子が並んでいた。


(同じクラスの奴かな、でもまだわからないから声かけれねー)


 英照はまだ共学になって5年しかたってないため男子の募集人数は少ない。現に今年度の合格者は女子126人に対し、男子は54人だ。年々増えす計画はあるらしいが設備の問題等があってなかなかできないらしい。


 ボーっと待っていると前の子が呼ばれ、そのすぐ後に翼も呼ばれた。


「次の方、どうぞー」


「はい」




「じゃーウエスト測りまーす」


「肩幅測りまーす」


「丈あわせまーす」



 ………………


「まあ男の子ですから大きめにしときますねー」


「この度はご入学おめでとうございます。春からの学校生活を心よりお待ちしております。」



 ****


 学生服や革靴が入った大きな袋、指定の学生鞄を持って体育館を出る。


(………………疲れた)


 学生服を作るだけでこんなに辛いとは思ってなかった。それに鞄や靴も買う必要があったので大荷物になってしまった。


(帰るか)


 両手に引っ提げているものを見て顔が少し緩む。


(楽しみだな、学校生活)


 ****


 帰ってから光や母さんに言われ制服に腕を通す。


「わーかっこいい」


「いいわね、学ラン似合っているわよ」


「そうかな」


 俺は少し照れながら鏡を見る。

 制服は詰襟の学ランだ。少し首元が慣れないが通っていれば違和感も薄れるだろう。


 母さんが写真を撮って、父さんにもメールで送っていたため、仕事から帰って来た時に「似合ってたよ」と言われ、とても嬉しかった。



 その日の夜は久しぶりに夢を見た。

 英照の学生服に身を包み誰かと笑いながら歩いている。


 そんな輝かしい夢だった。











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