第22話 卒業

 あの日からもう一か月が経った。


(あっという間だったな)


 体育館の卒業生の席に座り感慨深く思う。特に濃く感じられた受験生活が終わってからは本当に一瞬のように感じられる。


 英照に合格していたので第三希望の学校は結局受けず、次の週から普通に翼は学校に登校していた。放課後はクラスの友達とひたすらゲームしたり、公園で遊んだり。


 その週には英照からの合格通知や学費の支払い等の手続が送られてきていた。なんか点数が良かったようで特待生だったらしい。一年目の学費が半額だった。

 手続き関係はすでに完了していて、後は学生服を作ることくらいで、中学入学への準備は終わっている。


 そうそう、第二志望で受けた

 全部出来たので、まあいけただろう、という考えだった。

 しかし後になって、全く合格通知が来なくて、調べると落ちていたことを知って焦った。つまり、英照しか俺は行く所がなかったということでもあった。

 ただそのおかげで俺はこれから英照に通うのだという気持ちを強くさせた。


 小学校の卒業式は午前中に終わった。まあ、卒業式練習をあれだけやったのだからスムーズに進んだけど、やっぱり省いていた来賓のあいさつがあって正直眠くなった。


 入場し校歌を歌い、校長の祝辞等、そして卒業証書授与式を終え、音楽に合わせて行進しながら退出する。本当にあっさりしている。


(こんなもんだよな)


 皆教室で渡されたお祝い品等が入った軽い鞄を持って校庭に集まっている。親たちは親たちで集まって、子の成長を感じて涙ぐんだり、これからの中学の話をしたりしている。後はやっぱり担任の先生にお礼を言っている親が多いかな。


 外から校舎を見ることで、もうここには通うことがないと改めて感じ、何人かの同級生は泣いている。


 俺には何故か記憶があるため精神が大人になっているのだろう、あまり悲しさを感じなかった。


(でも、寂しさはあるな)


 なんやかんやあっても色あせない思い出がある。


 友達と遊んで、勉強して、喧嘩して。


 先生に教わって、怒られて、育てられて。


 笑って、泣いて、学んだ日々。


 そんな日常があった俺たちの居場所。



「おーい、記念撮影取るぞー、お前等ー集まれー」

 担任だった田中先生に呼ばれる。


「肩組もうぜ」「卒業証書片手にポーズとろっ!」「お、いいなそれ」


「お前等ちゃんと笑えよ」


『はーい』


 もう会うことがないかもしれないクラスメイト。

 それぞれの道に進めばおそらく関係は失われる。

 いずれ忘れてしまうだろうこれまでの日々をふとした時に思い出せるよう親たちはカメラを構える。今の俺たちは忘れるはずがないって思っていても、親は人生の先輩だからわかるのだ。時は大切なものを容易に奪う。


「じゃあ取りますよー」


「はいチーズ」


 カシャッという音とともに俺たちの写真が撮られた。


「じゃあ、またな」


 誰かが言った。




 如月翼は空を見上げ周りを見渡す。

 綺麗な青空だ。

 桜のつぼみが膨らんでいるのか木々は少しピンク色をしている。

 風は穏やかな春を告げている。


(明日から春休みか。入学式までどうしようかなぁ)


 如月翼は小学校を卒業した。




 翼の物語は始まる

 運命の歯車は重なり、糸は結ばれた

 進む道はまだ線が引かれていないまっさらな大地

 そんな世界で如月翼は小さな一歩を歩き始めた


 序章 end


 次章(第一章)

 中学生編 開幕

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