第21話 合格発表

 母さんと一緒に家を出る。妹は学校、父さんは仕事に行っている。だって平日の木曜日だもの。


 発表は12時に張り出される。一応合格通知は受かっていれば家に届くのだが俺みたいにまだ受験が控えている人や早く合否を知りたい人のために張り出される。

 俺も少し緊張しているが母さんの方がよっぽど緊張している。ずっとたぶん合格してるって言い続けた結果、逆に失敗してるから安心させようとしてるのではと思ったらしい。


 学校には11時50分に着いた。

 合格発表を今か今かと待っている人で賑わっていた。


(うわー結構いるなー)


 女子と男子は別々の場所に張り出される。男子の方が倍率が高く合格者も少ないため確認に来ている人が多いようだった。一方の女子は募集人数自体も多く合格者も偏差値に合っている合格率のためわざわざ確認に来ない人もいるようで、見に来ているのは男子よりも少ないようだった。


「おーっす翼」

「あれ、正輝じゃん」



 どうやら合格発表を見に正輝も来ていたようだ。


「てか、正輝も英照受けてたのかよ」

「まあな。いろいろあって受けることにした」

「いろいろ?」

「なんでもねーよ」


 隣では俺の母さんと正輝の母さんが「なんか私の方が緊張してて」「そうなのよねー」と勝手に盛り上がっている。なんやかんやで親同士の付き合いだって長いからな。


「おっ張り出されるっぽいな」

「まじか、行こう」


 英照の先生たちだろうか。大きな紙を持って向かってきている。


 キーンコーンカーンコーン

 チャイムが鳴った。


 掲示板にその紙が張り出された。

 受験生は一斉に自分の番号がないか探し始める。必至だ。


「やばっ、合格者少なくないか」


 ぱっと見で正輝が言う。隣の女子のよりも圧倒的に書かれている番号が少ない。



「あー落ちた。」「だめだー」「はぁ………」

「うああああああああ」「うそだ、うそだ、うそだ」「よし」「僕が落ちるはずがない、なぜ、なぜ、なぜだああああ」「あ、受かった」


 いたるところから上がる悲鳴や現実を受けられない声たち。たまに違う声も聞こえたがすぐさま嘆きに埋め尽くされる。


 一方の女子の方では基本喜びの声が上がっていて天国と地獄だ。


 いろんな嘆きに少し不安が沸き起こりながらも自分の番号を探す。



「あっ………………あった………」


 そこにはしっかりと手元に控えていた受験番号と同じ数字を見つめる。


「おっしゃーーーーーー」


 隣を見ると正輝が大声で喜んでる。


「翼ーー、受かったぜ、お前は?」

「あっああ。」

「まじかやったーーーーーーーーーー」


 少し放心状態だ。正輝みたいに喜ぶかと思っていたが何か別の感覚。そして既視感を覚える。


「翼君!!」

「………みさき」


 彼女は笑いながら泣いていた。

「約束守ったよ!」


「っ………。ああ。俺も………守った。」


 彼女の笑顔がいつかの日に重なる。


 俺の目から涙がとめどなく溢れてくる。


 俺は美咲を見つめながら笑って泣いていた。



 ****


「あっ初めまして。翼君と一緒の塾だった鈴原美咲です」

「よろしくね。私は三波優衣。これからよろしくね。」

「美咲って呼んで」「じゃあ優衣って呼んで」「わかった」


 話し出してすぐに仲良くなっている二人を見ながら俺と正輝は端で話してた。


「ほーなるほどね。正輝がここ選んだ理由はそういうことか」

「へっ、俺ん事言える立場かよ。」


 なんと俺と美咲の感動の約束が果たされた横ではなんと同じようなことがあったらしい。

 というのも実は三波さんが受験組だと知っていた正輝がグダグダしてやっと第一志望校を聞けたのが一週間前だったらしい。

 だから俺は正輝が同じく英照を受けていたことも知らなかったし、三波さんも受けていたことなんて知らなかった。


 今は始めましての美咲が正輝にあいさつした後、三波さんと話している状態だ。


「まあでも受かってよかったわ!」

「正輝が受かるとは思わなかったけどね(笑)」

「お、やんのか(笑)」


 そう言って笑いあうと正輝は真面目ぶった顔で俺に手を差し伸べてきた。


「これからもよろしくな、親友」

「ああ、もちろん、親友」


 俺はその手を取る。「ハズイことすんなー(笑)」「いいだろ別に」なんて軽口をたたきながら俺たちはまた笑った。


 ちなみに親同士もなんか仲良くなってて、「これから私たち4人でお茶して帰るからー」といってカギを渡され俺たちは置いて行かれた。


 俺、正輝、優衣、美咲はお互いを見てまた笑うのだった。


「置いてかれたなー」

「私たちもどっか行く?」

「駅前のフードコート行かない?」

「賛成、じゃあ行くかー!」

「「「おー!!」」」


 俺たちは場所をフードコートに移してその一日を楽しく過ごすのだった。




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