第20話 糸は静かに絡みだす 

 キーンコーンカーンコーン

 終わりを告げる鐘が鳴る。


「それまで、試験終了です。持っている筆記用具を置いて、回答には手を触れないでください」


 そう言って、試験官が一人ずつ答案を回収していく様を俺は眺める。


(ふー、自信は………あるな。全部埋められたし。)


 国語は記述がどれほどあっているか、算数と理科は計算ミスがなければというところだ。

 社会に関しては地図記号の問題がちょっと怪しいかなって感じだが歴史の内容はいけたと思っている。


 全ての答案回収が終わり教壇で枚数の集計が行われた。


(明日は休みで明後日は第二志望校の受験かぁ)


 俺は受験時期が少し早い地方の学校をお試しやキープとしては受けていない。だから今日が初めての受験であった。


(金曜日は第三志望校………)


 実は英照の合格発表は木曜日に張り出される。

 俺としてはもうそこで受かってしまえば受ける必要はなかった。


(いや、考えないようにしとこっ)


 今日の受けた感じの手ごたえは良かったが、回答欄をミスしたり、書き忘れがあったかもしれないという不安があり絶対とは言い切れない。


(とりあえずは俺、お疲れ様)


 確認作業も終わり、放送で受験番号ごとに解散が呼びかけられた。

 俺は案内に従い、家に帰宅するのだった。



 ****


(あっ、返せなかった)


 帰っていく彼の後ろ姿を見ながら私は手元に残った筆箱を見つめる。

 きっちりとした性格なのか筆箱にはしっかりと名前が書かれている。


(如月翼………)


 私としたことが前日になってカバンから筆箱を取り出して中を確認して、準備出来たと思ってそのまま机の上に置いていたのだ。


(返せるといいな………いつか)



 ****


 今日は朝から大変でした。

 満員電車でおかしな体制になって身動きが取れなかったのです。

 ですがある方が私を引き寄せて助けてくださりました。

 もう一度お会いして何かお礼がしたいです。

 誰でしょうか。

 どこに住んでいるのでしょうか。

 多分同じ受験生の方ですね。

 同じ駅で降りられたのを確認しましたから。

 バスに乗り込むのを見ましたから。

 ふふっ、逃がしませんよ。



 ****


 私は自分の髪を見つめる。私は祖父が外国人でクォーターだから茶色い。

 私はこの髪の毛が好きじゃない。

 周りからは変な色といじられる。

 いじられるのが嫌で黙り込むことも多くなり、気づいた頃には無口になっていた。

 英照を受けたのは英語教育が熱心で留学生もよく来ると聞いて馴染めると思ったからだった。


(ふんっ)


 今朝のバスの出来事を思い出す。隣に座った奴がこっちを見てたからつい聞いてしまった。

 初めてだった。人から髪を褒められたのは。


(如月………)


 そんな彼女の色白な頬には薄っすらと赤味が指しているのだった。



 ****


「どうだった試験?」と私はメールで彼に送る。

 彼から「約束は守れそう」と返信が来た。

 そのメール文を見ながら私はベットに飛び込み足をバタバタさせながらなんて返そうか考える。

 ちょうど私が寸前に勉強していたところが偶然試験でも出て、確実にこれは合格できたという自信があった。

「私も!(^^)!」と送っているとお姉ちゃんが部屋に入ってきた。


「美咲どうだった?」

「たぶんいけたよ!」

「あー、それは知ってる。」

「うん?」


「いつもメール送りあってる男の子のことよ」

「えっ、な、なんで。自信あるってきたけど」

「ふーん、そう。………(彼はいなかったから確定かな。)」


 お姉ちゃんがぶつぶつといいながら部屋を出て行く。なんかいつからか独り言が多くなったな。あれは確か………ふふっ、そうだ翼君みたいなことした後かな。

 なんか翼君とお姉ちゃん気が合いそう。



 ****


 今日は2月3日、つまり第二志望校の受験が終わったところだ。

 帰りに小林と池崎、そして翼の3人(第二志望校は同じ男子校だった)で集まってフードコートで話している。


「じゃあ小林は燃え尽きたと………」


 突っ伏している小林を二人で見つめる。

 俺が英照を受けた日に二人も各々の第一志望校を受けていた。

 まあ二人の顔を見た時点で結果は察していたが。


「いげざぎー、ぎざらぎー、どーじよー」

「まあ終わったことだからなー」

「今日のは大丈夫だったんだろー」


 小林がガバッと起き上がり俺たちに希望を見たのか目を輝かせて言う。


「俺と一緒の中学に通おうぜ!」

「ごめん」「それは無理」

「どーじでー」


 そうやって騒ぎ、また三人で話し込み、爆笑し、また落ち込んで、慰めて、笑って。


 なんとなく俺たちは分かっている。

 これからこの三人が同じ学校に進むことはないだろうと。




 人をつなぐ運命の糸は静かに絡み始める、一方で解け始めるものでもある。







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