第16話 それはいつかのなんでもない日々
夢を見た。
今までと変わったのは見る夢が映画を見ている感覚ではなく主人公となっていることだ。
俺の意思を揺さぶるように。
「やばいな、完全に遅刻だわ。」
「兄さん先行くね。」
今年から中学生になった光は電車通学に慣れていないため俺と一緒に通学している。
俺は夜遅くまでゲームしていたせいで寝坊した。もう父さんは仕事に行ってるし、母さんはまだ寝てる。光は制服に着替え、カバンを持って俺に声をかけたのだ。
「いいのかよ。ひとりで行けんのか?」
「でも遅刻しちゃうし」
少し不安そうな顔で光は見てくる。
(しょうがないな)
「よし、行くか」
「え、兄さん。その格好で?」
今の俺は下はジャージで上は寝間着の完全に引きこもりスタイルだ。制服なんて着ていない。
「上にジャンパー着れば何とかなるだろ」
「でも、学校は……」
「大丈夫だって。高校は中学と違うしさ」
「そうなの?」
「さ、行こうよ」
「うん!」
俺は満面の笑みを浮かべる妹を見て思う。
(兄はやっぱ妹を大事にしなきゃだよな)
その日、光の最寄駅で手を振り別れた俺は次の駅で降りて、ハンカチで口元を覆って学校に電話を一本かけた。
「あっ、すいません如月の父ですが。今日息子風邪をひいてですね。休ませます。」
光に適当なことを言ったが、当然この格好では学校に登校できない。それに遅刻も確定していた。
事を済ませ、俺はホームの反対側の電車に乗り、家に帰ったのだった。
家に帰ったら母親に怒られたけれど、光には内緒にしてくれた。
****
なんてことない日の夢。
朝起きた俺はベッドの上で小さくなる。
分かっていたさ。
何かを選ぶ時、もう一つの選択肢はどうしても失われることを。
(でもひどいじゃないか)
確かに嫌なことはあったかもしれない。
俺は英照に受かってもなかった。
(だけどさ、なんで今になって、こんな記憶ばっかり夢見るんだよ!)
俺は今日も机に向かう。
英照の過去問を脇に置き、俺は一冊の過去問を棚から抜き出し並べる。
俺の第二志望校の過去問だった。
(俺は………)
二つの過去問をジッと見つめ、片方を選び解き始めた。
それは、英照の過去問。
結果はひどい点数だった。
****
友達と休みの日にゲーセンで遊ぶなんてことない日の夢を見た。
クレーンゲームでお金が尽きた。俺は笑っていた。(………………)
今日は学校だった。
受験組は皆目の下が黒くなって若干ホラーだ。
ピリついてるのもあるのだろう。それを感じてかクラスもいつもより静かだった。
塾は基本質問のみで最後の授業だからって先生が猛烈な応援をして終わった。
今日は美咲とも話さず家に帰った。
****
久々に家族でキャンプに行った夢を見た。
父親が大きな魚を釣ってみんなで喜んだ。俺は笑っていた。(…………やめろ)
学校ではいよいよ卒業式に向けての練習が本格的になってきた。
塾は昨日と同じ感じかな。
美咲は俺の顔をみて心配そうに「大丈夫?」と声をかけてきた。
ただ頷いて家に帰った。
****
クリスマスの夢を見た。
イブは友達の家でパーティーをして、クリスマスは家族で母親の作るケーキを食べた。俺は笑っていた。(………やめてくれ)
学校では正輝や三波さんに心配された。
俺そんなにひどい顔してるのか聞いて見ると二人とも目がおかしいって言われた。
鏡を見る。よく見た俺の目。まるでやる気をなくしていた交通事故にあう前のあの頃の目だった。
****
あの日の俺が立っていた。
交通事故にあう前の俺が。
大学三年生の春休み。
今の俺と同じ目をした「俺」が問いかける。
【お前はこの運命を捨てれるか?】
**129374027**如月翼**最終プロセス開始**自己構築目標90%に依存**β-X意識40%*β-G記憶60%**記憶優勢**
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