第14話 翼の意思

 学校帰り、珍しく俺は正輝と連れ立って帰っていた。


「翼はさぁ、受験行けそうか?」

「今のところ、行けそうかな。それにさ、自信ついたんだよ」

「なんかあったのか?」

「いや、何でもないよ」


 あの時、俺と正輝は道を違えた。

 でも今はまだ友として、こうして話すことが出来ている。


(ありがとうな、正輝)


 俺はあの日を乗り越えられた。だからこそ、俺は進む道をしっかりと心に決め、前へ進むと決意する。


「正輝は受験大丈夫なの?前にまだ行きたいとこ決めらんねーって言ってたし」

「俺はまあ、第一志望はこれかなってのはあるけど、それも偏差値で決めたし。だから俺は受かった学校に通うかなー。」

「まあ、そうだよな。」


 結局のところ中学受験に関しては高校や大学とは違って、その年のクラスで自分の周りにどれくらい受験する人がいるのかという環境が影響していると思う。

 俺たちの学校のクラスは低学年の頃から塾に通いだす子が多かった。それを知って、親が自分の子供も周りに置いて行かれないようにと通わせることもあった。

 たまたま塾に通わせられるほどの裕福な家庭が少なくなかったのもあるのだろう。

 こうして、そのまま中学受験に進むような環境が広がっていた。だからこそ受験する理由は人それぞれだ。

 俺みたいにどうしても英照に行きたいと決めてる人もいれば、特になくて学力の高い学校を選ぶ人もいる。正輝は後者だ。


「あと少しで一週間だ。ラストスパートだな。」

「やばいけど、お互い頑張ろう。またな。」

「おう、また来週。学校で。」


 俺たちはアパートのロビーで別れ家に帰って、各々が通う塾に向かうのだった。


 塾に着くと早速美咲に話しかけられた。しっかりと話すようになってまだ一週間もたっていないのに昔からの友達と同じくらい仲が良くなっていた。


「こんにちは、翼君」

「おう、美咲。さっきのメールのとこ教えるよ。」


 バスに乗っているときに美咲からわからなかった問題を後で教えてほしいとメールで書かれていたのだ。美咲の中では俺は頭がいいと思われているようで嬉しい。

 顔がにやけそうになるのを抑えながら教えていると美咲は突然言った。


「よかった。翼君」

「うん?」

「昨日よりもなんか元気そうで。」

「えっ」

「昨日は私と話してた時ちょっと上の空って感じだったからさ。だから安心したんだ。」


 そうだった。正輝が学校を休んで、あの日が近づいていることを実感し、俺は焦ってた。でも、その日に美咲と話して気持ちが落ち着けたけど、顔には出てたようだ。

 まさか今日があの日なんて思ってなかったから大変だったけど、今は乗り越えた達成感があってかテンションも高くなっていた。


「あー、ちょっと心配事あったけど、解決したんだ。」

「そっかー。ならよかったよ。」

「昨日も言ったけどさ、ありがとう。」


 美咲は俺の顔をもう一度見てふふっ、と笑い言った。


「翼君は笑顔が一番似合うね!」


 その時の俺は顔が真っ赤になっていたんじゃないかな。


 塾から帰って夜ご飯を食べる。

 歴史の勉強をしてお風呂に入る。

 お風呂から上がった頃には既に光は寝ていて、父さんはお酒を飲んでいる。

 母さんはドラマを見ていて、俺はそれを横目に軽い筋トレ。

 ドラマが終わってから左の指に軟膏を塗ってガーゼを張ってもらう。

 歯も磨き部屋に戻り寝る。

 指の怪我以外は今の学年になってからの一年で変わらない光景だ。


 部屋に戻った俺はふと机の上を見る。そこには今年度に出た英照の過去問が見える。

 机の棚には年度の異なる過去問やノートが並んでいる。俺が一年解いてきた証だ。


(絶対に英照に受かってみせる。美咲と一緒に。)


 美咲ともっと話してみたい、そう今日思った。


(寝るか)


 俺は布団にもぐりこむ。来週の月曜日で受験まで残り一週間になる。


(明日は去年の問題やるか)


 俺は目をつぶると今日の疲れからか、深い眠りに付く………はずだった。




 笑い声が聞こえた。

 この声は知っている。

 俺の声だった。



 **129374027**如月翼**β-Xで心意を確認**最終バックアップデータを抽出**運命**


 夢を見始める。





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