第11話 色紙と花束、そして……

 あと五分で朝のホームルームが始まる。


「正輝、これ」

「ん、なんだ。色紙?」


(まだ間に合う)


「ああ、田中先生にな」

「なるほど、オッケー書いとくわ」


(大丈夫だ、落ち着け俺)


 一度深呼吸する。早めに言えば何とかなるはず。


「あと、正輝に頼みが…」

「おーい席に着けー。今日はちょっとプリント渡さなきゃなんないのとそれの説明あるから」

「あれ、先生もう来た。ごめん翼なんか言いかけてたか?」

「い、いや、何でもないよ。それよりもそれ先生に見つからないようにな。」


 俺は色紙の受け渡しについて交代してもらおうと話したかったが田中先生が入ってきたためそれは叶わなかった。



 ****


 一時間目が終わる寸前に横の席から色紙が戻ってきた。

 全員分書かれた色紙が俺のところにある。


(どうする、次の合間の時間に話すか)


 この時の俺は別の問題にも直面していた。

 交代してもらうための言い訳がない。

 始めは左手が怪我してるから渡せないなんて言おうと考えていたけど、冷静に考えると別にそんなことないと気づいてしまった。


(いや、てか無理ありすぎだろ。さっき俺、普通にプリント持ってたし。)


 チャイムが鳴る。先生が職員室に戻っていったのでノートをしまい込み正輝の席に行こうと決意する。


(取り合えず交代の話だけでも通しとくか。)


「まさ…」「如月君、色紙どうなったの?」

「お、全部埋まってる」

「お前、右に同じって書いてんのやば」

「うるせー、ってお前もじゃん」

「見せて、見せて」


 どうやら色紙が俺のところに戻るのを見ていたようでクラスメイトが集まってくる。

 みんな友達の書いた内容が気になるみたいだ。


「俺は最後だったからみんなの見て書いたぜ」

「うわー恥ずかしい」


 正輝が三波さんに声をかけてる。話しかけた正輝の方が耳赤いな。

 どうにもこの時間に話すことはできないと悟り、俺は皆が色紙を見ながら話すのを静かに聞いていることしかできなかった。



 ****


 二時間目の授業中


(まずいな、たぶん次の合間の時間もさっき見てなかった人が集まってくる。)


 俺はまた手元に戻ってきている色紙を見て項垂れる。

 もう正輝に話しかけることは難しいと薄々感じていた。

 昼休みに学級代表者のあいつが先生を呼びに行ってるときに喧嘩はおこる。


(喧嘩が始まる直前に交代を頼むしかない、だけど説得できる何かがないと)


 ひたすら考える。俺が出来ること。色紙。花束。プレゼント。左手。


(だめだ、わかんなくなってきた)


 二時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 俺は机の上に色紙を出し、隣の席の人に「自由に見ていいって言ってたと伝えて」と頼み自分のカバンの中身をあさる。


(何かないか、何か)


 入ってるものは教科書、ノート、そしてプリントの詰まったファイル。

 そういや貰ったら大切なの以外は入れっぱなしだったなと思い出す。

 ファイルを開くと母さんに渡してない大量の保険だよりやらテスト用紙が……。


(あれ、あー、こんなの貰ったっけ)


 一つの紙を引き抜く。

 確かマラソン大会の賞状だ。

 毎年しっかり校庭を走って、走った距離だけ色ペンで塗って、ゴールにたどり着いた人がもらえる簡単な賞状だ。


(でももらったらうれしいんだよな)


 その時だ。

 俺は色紙を渡そうと話に上がったあの日が頭によぎる。


 学級代表者の奴が色紙を渡す提案をして、皆賛成して男子は色紙を

 そして…ってなった。


 そうだ、女子は流れで花束を渡すことになったから男女二人で渡すことになった。


(なら俺はサプライズで先生に賞状を渡すことにすれば…)




 三時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。


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