第10話 変える日2

 次の日も正輝は学校を休んだ。

 代り映えのしない簡単な授業を聞き流し、昼休みは終ってなかった塾の宿題をする。受験組の人達にはよくある光景だ。

 色紙についてはもう俺が渡すみたいな雰囲気で授業の間皆がこっそりと書き始めているようだった。


 放課後、俺の手元に色紙が渡ってきたのは皆が書き終わってからだったようで二つスペースが空いている。

 一つは俺で、もう一つが正輝。

 渡してくれた三波さんが正輝が書いたらその日の当日には渡そうと言っていて、「渡すの楽しみだね」なんて嬉しそうな顔をして話してくれた。


 今日の授業は歴史の授業でしっかりと聞かなければならない

 けれど俺はさっきのことで頭がいっぱいだった。

 正直焦りと不安で彼女の話を聞けていたかあまり覚えてない。


 そんな時だった。

 俺は声をかけられた。


「こんにちは、翼君」

「あ、ああ」

「どうしたのそんな不安そうな顔して?」


 美咲が心配そうにこっちをのぞき込んでくる。


「あ、いや歴史がちょっとな」

「え、翼君って歴史苦手なんだー」

「そうなんだよ。ちょっと覚えることが苦手でさ」


 美咲から声をかけられ、話し始める。

 さっきまでの不安や焦りが話すごとになくなっていく。


「でさーあれ、どうやって覚えるのかわからなくなって」

「あーあれの覚え方はねー…」


 俺はふと気づく。あれだけの不安がなくなっているのだ。忘れたわけではない。覚えているが何とかなるだろという気がしているのだ。


 思い出すのはあの日の光景。

 それはの殴り合いではなく、が泣いているあの日。


 俺は受験に失敗した後悔をもう一度味わいたくない。

 今のままだとあの運命を辿るかもしれない。


 絶対にそれは嫌だ。


 だから、俺がまずはあの喧嘩の日を乗り越えなければならない。


「なあ美咲」

「どうしたの翼君」

「ありがとう」

「え、急にどうしたの?なんかあった?そんなに教え方良かった?」


 急に言われた言葉にあたふたとしながら聞いてくるそんな彼女に俺はこう答えた。


「さあな、ほら教室いくぞ」


 歴史の授業を何とか乗り越えくたくたになりながら家に帰る。

 夢を思い出しながら俺は持って帰ってきた色紙を見返す。


(あの喧嘩がいつ起こったのかは正直覚えてない。だけど明日は金曜日だし多分風邪だろうから大事を取って月曜日に来るだろうな)


 それに俺の手元に色紙があるということはあいつに渡すときに言えば何とかなるだろう。それに皆には驚かれるだろうけどまああいつも人気者だから大丈夫だろ。

 だが問題は俺が渡さない言い訳だ。あいつにただ何も言わずに頼んだり、押し付けるような形になればそれはそれで喧嘩になりそうで怖い。ましてや俺が正輝の好きな子を知っているように考えられるのもまずい。


「はあーどーすっかな」


 正直こんなこと考えるよりも勉強した方がいいはずだが自分のこれからの運命がかかっているかもしれないと思うとそうも言ってられない。


「まあ土日に考えるかー」


 いつものストレッチをして、風呂に入って就寝する。

 夢は見なかった。


 次の日の教室で…


「おーす、翼。いやー風邪ひいてさあ、でも昨日はもうよくなってたんだぜ。まあ大事取って休まされたって感じ」

「っ…おはよう、


 運命とは残酷だ

 いつかは突然やってくる


 まだまだ先だなんて思っていても

 やっとけばよかったなんて後悔はいつも後


 俺はそう夢で忠告されていたはずなのに

 今日は来ないって勝手に思ってた


 俺は窓の外を見る。見上げればどんよりとした雲が流れているのが見える。寒々しい冬の日だ。


 結局さ

 それが未来の話なら、それがいつ起こるかなんて俺には


 でも、それでも俺は向き合う。



 あの日の今日を変えるために






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る