第5話 親友と女の子と俺

 **129374027**如月翼**β-Gからβ-Xへの完全移行と追憶を確認


 夢を見ていた。

 同じアパートに住んでいる友達との思い出のはずだ。

 その日は卒業と同時に学校を退職するクラス担任の先生に色紙を渡す直前に俺とあいつは喧嘩した。


 あいつはずっと仲が良かった友達で俺の親友でありライバルだった。

 勉強からゲーム、スポーツと何から何まで一緒にやってきた。

 俺たちは勉強が出来てクラスの代表みたいな感じでいつも競っていた。まあ学級代表者は別にいたけど。


 それで学級代表者の奴が色紙を渡す提案をしたんだ。皆賛成して男子は色紙を女子は花束を渡そうってなったんだ。

 ちょうどあいつが風邪で休んでいて、ラッキーと思いつつ目立ちたがりでもあった俺は手を挙げた。もう一人はとある女の子だった。


「絶対に思い出に残るねー」とか「先生泣いちゃうかもねー」とか皆楽しみにしていた。


 そんなこんなでいざ色紙を渡すという当日のお昼休みに喧嘩は起きた。


「は、なんだそれ、聞いてねーよ」

「おい翼てめーいい加減にしろよ」


 急にあいつに殴られた。


 とにかくビックリした。女子の悲鳴が上がる。

 なんで急に殴られたかわからなくて俺も頭にきて殴り返した。喧嘩は先生が来る前には他の友達に二人とも抑えられて何とかなったが、俺は少し殴られたせいでかすり傷が出来ていたので保健室に行く羽目になった。


 とりあえず保険の先生には顔からこけたと言って絆創膏を張ってもらった。殴られたなんて素直に言いたくなかったんだ。


 戻ってきたときには色紙と花束を持った先生とすれ違った。一度職員室においてから授業を始めるらしい。

 俺にも「色紙ありがとう」と声をかけてくれた。結局女の子と俺の代わりに学級代表者の奴が渡したらしい。


 絆創膏については俺が保健室に行くってことで上手いことクラスの友達が話しを合わせてくれたみたいだった。

 教室に戻るとあいつは自分の席に座っていたが完全に周りから避けられていた。


 その日を境に話さなくなり、そのまま一か月が過ぎ去り俺たちは卒業した。

 あいつは別の県の中学校に行ったらしい。同じアパートに住んでいたはずだけど会うことは俺が死ぬまでにはなかった。


 後々になってあの時の何が悪かったのかわからなかったが他の友達から聞いて知った。

 もともと俺にとってはよく話す女友達くらいしか思ってなかったその女の子というのはあいつが好きな子だったらしい。

 あいつに理由くらい聞けばよかったなとか色紙を渡すのがあるって伝えれば何とかなったんじゃないかとか。


 そんな夢を俺ははっきりと見た。


 月曜日の朝、学校へ向かって歩いていると声をかけられた。


「おっす、翼」

「おう、正輝」


 こいつの名前は柳田正輝やなぎだまさき

 俺の親友の名前だ。


 今日の夢を思い出しながら隣を歩く。


「それで志望校の学校がさぁ…ってどうしたその左手、先週までなかったじゃんか」

「あーちょっとな、まあ二週間あれば治るって」

「受験大丈夫かよw、なんかあれば手伝うぜ」

「おう、頼むわ」


 にかっと笑いながらとりあえず俺が持っていた手提げを持つ。

 そう、こいつはいいやつなんだ。

 確かに勝負ごとに熱くなるのはあるが殴り合いの喧嘩は今までなかった。

 だから夢でみたように、あんなに怒るとは思っていなかったし最初は驚いていた。


「おはよー翼君に正輝くん」

「お、おはよう三波さん」

「おはよう」


 今になってやっとこいつが照れてることに気づく。先週までだったら俺は絶対に気づかなかった。

 そう彼女が正輝の好きな相手で三波優衣みなみゆい

 彼女は長めの髪を後ろで結びポニーテールにしていて、美人系の女の子だ。


「って翼君左手どうしたの」

「そうなんだよ翼原因教えてくれよー」

「あーまた後で学校ついたらみんなに話すよ」


 まあ、こういうのって一人ずつ聞かれていったらきりがないから学校で皆に話した方が早い。

 それと、お二人さん真っ先に左手に目がいくと思ってたのにワンテンポあるってどゆこと…


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