第2話 始まりは突然

 遡ること3週間前


 如月翼はあと少しに迫った中学受験に備えラストスパートをかけていた。


 もともと同じアパートに住んでいる友達が小学三年生の頃から塾に行きだしたのをきっかけに、友達からおいて行かれるのが嫌だった俺は同じように通いだし、そのまま中学受験をすることになったのだ。


 もっとも実際に勉強は嫌いじゃなかったし、塾で出会ったとある女の子が好きになり、その子と同じ学校に通いたいと思ったのが大きな理由だが。

 その第一志望校である私立英照えいしょう中学高等学校は都内にあり、家から電車で一時間の距離で通えなくはない場所で大学への進学実績も良いようで親からも進められた。

 しかし偏差値もそれなりに高いため今の学力では合格できるか割と怪しいので今も机に向かって必死に過去問を解いていた。


 お昼ご飯を食べた後の日差しの良い土曜日、妹のひかりは部屋でピアノを引き、母さんはテレビを見ながら洗濯物をたたみ、父さんは布団で爆睡しているなか、俺の部屋で事件は起こった。


(あーわからん)


 タイマーをちらっとみて残り20分あるのを確認し国語の問題を解く。

 なんで記述式ってこうも面倒くさいんだろう、作者の気持ちって難しいな、なんて思いながら白いスペースを埋めていく。


(あ、シャー芯切れた)


 何度カチカチと押しても芯が出なくなったので近くにあったケースから予備を取り出した。

 3本取り出し入れようとしたときにふと目の前の机についてるコンセントが見える。

 このときの俺はどうかしていたのだろう。

 国語という頭がボーとする教科を解いていたからかもしれない。

 無意識にそのシャーペンの芯を俺はコンセントに突っ込んだ。


 今でも覚えている。

 数秒後に俺の左手に痛みが走り目の前が真っ白になったんだ。

 そして意識が一瞬遠のく中こんな音声が聞こえた気がした。


 **129374027**如月翼**β-Gからβ-Xへの移行を確認


 ハッとして焦点があってくると恐る恐る左手を見る。すると黒くなった指が見えて恐怖し、急いでリビングに行き大声で言った。


「やばい、やばい、手が燃えた」


 バクバクと鳴る心臓をどうにか押さえつけながらどうにか今起こったことを話そうとするがパニックになっているからか口から言葉が出で来ない。

 急に走ってきた俺に驚いてこっちを見る母さん、何事かと起きてくる父さん、ピアノを引き続ける光…ってなんでだよ。

 後々聞いたところヘッドホンをして引いてたから聞こえなかったらしい。


「どうしたの急に」

「はぁ、はぁ、なんか燃えた、黒くなってない?」

「別に大丈夫だけど、何があったの?」


 心配そうに母親は問いかける。


 どうやら急にコンセント部分の光に眼が一瞬やられて手が黒く見えただけだったらしい。

 さっきまでの出来事をゆっくりとだが話すと今度は顔色を変えてとりあえず氷水で手を冷やすことになった。


 30分ほど経つと皆冷静になり、少し痛みがあったしなんか爪も溶けてたので病院に行くことにする。

 土曜日で大きな病院しか空いていなかったし夕方近くになっていたが父さんが調べて診療の予約を取ってくれたので母親とタクシーに乗り込み病院へ行った。


「あーまーやるよねー、僕も昔似たようなことしたもん」

「そうなんですか」

「一歩間違えれば普通に感電死したりするからもうやっちゃだめだよー」


 俺の左手の指に軟膏を塗りたくりながらお医者さんの先生は話す。


「まあ2週間くらい塗ってれば治ると思うからお大事にね、あんまり勉強で根を詰めすぎないようにねー」

「はい、ありがとうございます」


 帰りのタクシーの中で母さんはあんまり心配させないで、受験も大事だけど翼が一番大切なんだからと言われ、少しだけ泣きそうになりながらもしっかりとその言葉を受け止め家に帰った。


 帰ったら俺の机にあるコンセントに絶縁テープがしっかりと貼られ、使えなくなっていた。(南無)












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る