第18話 混沌こそが俺の生き甲斐(2)

戦場と化した空港…

叫びと銃声、そして爆音が流れ、大勢の人間が戦う中一人だけ、戦いの激しさに身を隠すように逃げ回る人間が一人だけいた。


「おい! いつ搭乗口に着くんだ!」

「慌てないでください、まだ敵はこちらには来ないでしょうし、何よりローグ隊長がいます!」


VIPルームから飛行機へ乗る為に、強化スーツを身に纏った兵士に警護される形で搭乗口まで急ぎ足で向かう大倉の姿があった。

脇には銀色のジュラルミンケースを大事そうに抱えており、その中には彼の命よりも大切なウイルスのサンプルが入っていた。

ジュラルミンケースに入る程度の大きさのそのサンプルは、まだ世界中でパンデミックを起こせる程の強さは無い。

しかし、それでもひとたびそのウイルスを封じ込めてるカプセルを開けたり、破損させたりすればその一帯は数日もせず汚染されるだろう。


(これさえあれば私は何度でもやり直せる…!)


そんな危険な物を持ち出したのも、他人に触らせたくないという彼の傲慢な考えからだった。そして、いよいよ警護の兵士に連れられて搭乗口に到着し、いよいよ飛行機へと乗り込もうと言う所まで来た。


「操縦士、発信準備はどうか」

『問題ない! いつでも行けるぞ!』


兵士達は自分達の乗る機体の確認を行い、問題なくフライトが出来る事を確認し、いよいよ搭乗の時が迫った。


(ふっ、フフフ…勝ったぞ! 私は勝った! 天は私を許したのだ!! )


彼は心の中でほくそ笑み、逃げ切れると思い歓喜していた。もしも神がいるならこのような男でも許してやろうという慈悲の元に、天罰を下さずにただその行く末を見つめているのだろう。

だが天が許しても一人の男は許さなかったのだ。


「ん…? なんだ…?」


警護していた兵士の一人の足元が暗くなり、何事かと上を向く。

そして上を向いた瞬間、彼は頭から何か黒い物に押し潰された。


「ぷぎっ…!」


彼は間の抜けた断末魔を上げ、潰れたトマトの様になる。落ちて来た謎の黒い物の衝撃でその場にいた人間達は軽く後ろへ吹っ飛び、搭乗口に土煙が立ち込める。


「ひっ、ひっ…なんだ!? 」


突然の事に警護していた兵士も、大倉もパニックを起こし、体を震わせた。

特に大倉は驚きのあまりに腰を抜かし、立ち上がる事さえ出来ずにいた。

そんな様子を見て、何者かが不気味な笑い声を上げた。


「はははは…! 情けない姿だなぁオイ!」


大倉は笑い声に更に恐怖し、体の震えを加速させる。何故だか、彼はその声に何処と無く見覚えがあったのだ。

すると土煙の中に誰かが立っているのを、彼は見た。


「フフ、まさかこの俺を忘れたとは言わせんぞ…大倉さんよ!」


ついに土煙が晴れ、中から黒衣の死神が姿を現す。全身を黒ずくめの装甲に身を包んだ彼を見て大倉は絶叫した。


「あ、あぁーっ!! お前は…」


土煙から現れた黒衣の死神改め、ザグロブが仁王立ちで目をカッと開きながら大倉を強く睨みつけていた。

その様に、彼は鬼を見た。


「会いたかったぜ…お宝まで抱えてよ…」


先程潰した兵士の返り血がべっとりと付いた彼は更に恐怖を加速させる。

彼は兵士の死体から足を動かし、どんどん大倉へとにじり寄り始める。

その様子はまさに悪魔としか言いようがなかった。


「く、クソ! 大倉様に近づくな!!」


警護していた兵士の片割れが、拳銃をザグロブに撃って動きを止めようとするが重装甲になった彼の装甲に拳銃程度の弾丸が通用するはずもない。

するとザグロブの進路は大倉から一度、銃を撃った兵士へと変わる。


「く、来るな!! 来るなぁあああッ!!」


いくら撃ってもビクともしない敵に、兵士は狂乱して全弾撃ち尽くしてしまう。ついにやって来たザグロブを前にして兵士は涙声で大倉の方へと顔を向ける。


「大倉様、助け──」


大倉に助けを求めを求める声を出す前に、ザグロブの拳が兵士の頭を潰していた。

あまりにも無慈悲な一撃に、大倉は抜けた腰のまま体を反転させ、這いずってその場を逃げ出そうとする。

飛行機の操縦士は助け出そうとしたが殺された兵士を見て足がすくみ、その場を動けなかった。


「な、なんで誰も助けないのだ!! ろ、ローグの奴はどこへ行ったんだ!!」


ローグは先程、気絶から瞬時に立ち直ってザグロブを追って飛んだはずなのだが、まだ来る気配はない。さらに言えば彼を守るべく呼び出された兵士達もそのほとんどがリョウとシャオロンにより倒されていたのだが、コソコソと隠れていた大倉にはその事を知る由はない。

ついにザグロブの足は這いずり回る大倉の横へ到達し、歩く為に一歩一歩動いていた足の動きは這いずり回る標的の脇腹を蹴る動作へと変わっていた。


「があっ!!」

「さぁて…どうやって殺してやろうかな…」


殺してやろうかな…

大倉にとって殺す等の言葉は生涯で何度も口にした言葉のはずだった。

しかしザグロブが見下ろしながら自身に向けたこの言葉はまるで人生で初めて言われた言葉かのように聞こえたのだった…!


「た、頼む…殺さないで…!!」

「ダメだ、俺は殺し屋だって事を忘れたか?」

「君を選んだ理由を話してやるから!!」


大倉の言葉に、ザグロブの動きはピタッと止まる。

短い間ではあったが、ずっと自分がなぜハメられたのかを知る為に戦ってきた為にようやく真相を掴めるチャンスだと考えたザグロブは、背中のアタッチメントに装着していたショットガンに手を出さず、彼を見下ろしたまま腕を組んで彼の話に耳を傾けた。


「…話してみろ」


彼はばっと顔を上げ、首の皮一枚繋がった命を無駄にしないように早口で彼を選んだ理由を語り始める。

その理由というのも、かなり身勝手なものだったのだが。


「き、君を選んだのは…君がサイボーグの殺し屋だったからだ! 生身の人間ではない…!! パンデミックで肉体を失った兵士が情報を嗅ぎつけて政治家を襲撃し、徒党を組んでテロ組織を結成した…という事なんだ!! 凄腕の殺し屋の君なら、益々説得力も上がるし、何より君は基本どんな依頼も断らない!! それだけなんだ!!」


早口で語った為に、息も絶え絶えになる大倉。そしてそれを黙って全てを聞き終えたザグロブもまた、ため息をついて腕を組むのを止めた。

あまりにもしょうもない理由で自分が魂の拠り所にしていたアパートを破壊する羽目になり、殺しの中での日常だった平穏を奪われた事に、彼はついに沈黙を破った。


「ぷっ、はっはっはっは!!」

「え…?」


いきなり笑い出す彼に再び恐怖する大倉。

彼にはなぜ、ザグロブが笑いだしたのかが分からなかった。

ツボにハマったのか、ずっと笑い続ける彼。ただでさえ恐ろしいその風貌に、狂ったように笑う彼を見て恐怖はますます増大する。


「はっはっは…はぁ、中々おもしれぇ話だったな。凄腕の殺し屋って褒められたのはまぁまぁよかった…ぜッ!! 」


彼はようやく笑いを止めたかと思いきや、いきなり蹴りを一発大倉の腹へとぶち込んだ。

生身の人間ならこの蹴りだけであの世行きが確定するのだが彼は敢えて手加減し、死なない程度に、しかし苦しむように考えて蹴りを叩き込んだのだ。


「げっ!! げほっ!! げほぉっ!!」


手加減されたとはいえサイボーグの蹴りだ、相当な痛みが彼を襲ったに違いない。

大倉は痛みに咳き込み、その衝撃に涙まで流した。

その様をザグロブはゴミを見る目で再び見下し始める。


「へっ、ざまぁねぇな…んじゃ、やりますか」


彼は背中のショットガンを外し、片手で構えて大倉の頭へと狙いを付けた。

とうとう、大倉の最期がやって来たのである。


「ひっ!? まっ、待って…」

「いや、待たねぇ」


命乞いをする大倉を無視し、引き金に指をかける。

ついに長かった戦いも終わる。そう思っていたその時、


「やめろぉおおおお!!」


叫びながら何かがこちらへ急接して来たのだ、ローグだ。

彼はようやくが追いつき、ザグロブにブースターで勢いをつけたタックルを叩き込み、乱入してきたのだ。


「はははは!! お寝坊さんがようやく来やがったか!! 」

「ザグロブ!! 大倉様には手出させんぞ!!」


突然のローグの乱入に、大倉は驚いたが殺される寸前に駆け付けた彼を見て、再び天に感謝する。

まさに彼は救世主そのものだった。


「ろ、ローグぅ!! 助かったぞ!!」


感極まった声でローグに感謝を伝えるが、がっしりと手を組んで手四つの体勢になり、お互い負けじと力を込めている状況では声が届くはずもなかった。


「力比べで勝とうなど、甘いわッ!!」


そしてローグは手四つの体勢を力で解き、ザグロブの前腕部を掴んで外へとぶん投げた。

その方向には飛行機があるのだが、もはや彼らには関係ない。

ザグロブは飛行機へとぶつかり、その衝撃と彼自身の重量で機体は真っ二つに折れた。


「うぐああーッ!!」

「うわわっ!!」


機体が真っ二つになった衝撃に、中でじっとしていた操縦士は驚きの声を上げつつ体勢を崩す。そして、機体に大きく出来た隙間から彼は転げ落ちて地面に伏する。

そして、倒れたまま彼は二人の戦いっぷりを見てその凄まじさに一言。


「…化け物共め!!」


確かに彼の言葉は間違っていない。

その戦いはまるでサイボーグとサイボーグというよりは、何か別の恐ろしい者の戦いだったからだ。


「ウォオオオーッ!!」


そしてローグは叫び声を上げながら走り、ザグロブの元へ駆け寄って彼の頭を掴みあげる。

そのまま彼は勢いのままザグロブの頭を滑走路に叩きつけると、コンクリートの地面にぽっかりと穴とヒビが入った。


「がっ…!! ッのヤロォ!!」


ザグロブは頭を掴んでる腕に両腕を伸ばして力強く握ると、背負い投げの要領でローグを投げる。

そして再び、滑走路のコンクリートは人型の穴を空け、大きくヒビを入れた。


「ええい…!!」


彼はバーニアを起動させ、埋もれた体を浮き上がらせてそこから脱出する。

しかし脱出した瞬間、彼の視界に炎が迫った。


「何っ!?」


ザグロブの火炎放射器が見事にローグに命中率し、彼は炎に包まれた。

彼の火炎放射器はまさに必殺武器と呼んでも過言ではない威力を誇る。

しかしローグは火達磨になっているにも関わらず、炎など関係ないと言わんばかりにザグロブの顔に正拳突きを叩き込んだ。

火炎放射器を使って数瞬もしない内に叩き込まれた為に、ザグロブも反応が出来なかったのだ。


「あぐっ…!!」

「この程度の火など、私には通用せんわ!!」


そして顔に拳を叩き込まれてよろけたザグロブの腕を自身の燃え盛る手で掴むと、再び空港内の搭乗口へ投げ飛ばし、壁へと叩きつける。

壁は大きく凹み、ザグロブは地面に倒れ込む。

一方で搭乗口の隅の方に隠れていた大倉は突然飛んで来たザグロブに驚愕の声を出していたが、既に彼の存在など二人の中ではどうでも良くなっていた。


(クソッ…あの野郎無敵か…!?)


そして、いくら殴っても倒れる素振りを見せない敵を前に、ついにザグロブは相手を無敵だと思い始める。

何とか上体を起こし外を見ると、炎に包まれたままローグがこちらへずんずんと歩いていた。

そして彼が搭乗口の出口から空港に入ると、すぐさまスプリンクラーが起動した。


「どうやらここまでのようだな」


消化された事に身体中から煙が立つローグはザグロブを見て一言呟くと、彼の目の前に立った。


「どうやらもう打つ手はないようだな…」

「あぁ、ご名答さ」


ザグロブは彼の言葉に答えると、ローグは彼の頭を掴んで持ち上げる。

ローグの頭よりちょっと上まで持ち上げられたザグロブは腕と足を伸ばし切って宙に浮いた。


「これで終わる…これで秩序が戻るのだ! 大倉様の手によって!!」


彼は拳に力を込め、腕を後ろに引く。

いよいよザグロブへトドメの一撃がぶち込まれるだろう。

彼はググッと力を込めて、拳をザグロブの顔面に振るった。


「新しい世には貴様は必要ないのだッ!!」


彼は絶叫すると、勢いよく拳がザグロブの顔へと飛ぶ。ついに戦いに決着が付いてしまうのか、そしてザグロブはこのまま負けてしまうのか?

とうとう、彼の拳は命中し、大きな金属音を立てた。

果たして、ザグロブはどうなってしまったのだろうか…

すると、ローグに異変が起こった。


「な、な、な…」


彼はトドメを刺したはずなのに何故かとんでもない事をしてしまったかのような声を出し、ザグロブを離してしまった。

再び地面に倒れたザグロブ。すると彼は何故か笑っていた。


「へへへ…秩序ね…その秩序をてめぇで壊してたら世話ねぇな」


彼は何やら意味深な言葉を呟きながら立ち上がり、何かを手に握っている。

手に握られた何かは白い煙のようなものを勢いよく噴出させ、雫が垂れていた。

一体、何を持っているのだろうか?

その答えは、大倉とローグの絶望的な反応にあった。


「き、貴様…貴様ァ…!! なんと言う事を…!!


何と、ザグロブが手にしていたのは大倉が大事に持っていたウイルスのサンプルだったのだ。

冷凍保存用のケースにしまわれたそのサンプルが何故彼の手にあるのか、それはローグが来る前に遡る───


大倉が這いずってザグロブから逃げている時、彼は偶然ジュラルミンケースを目にしていたのだ。

ザグロブは必死に逃げる大倉を他所にジュラルミンケースを無理やりこじ開け、中にあった物を手に入れ、腰に取り付けられたポーチへとしまっていたのだ。

だが何故戦っている最中にケースとサンプルの入ったカプセルが破損しなかったのか、その答えはケースにある。

万が一運んでいる最中に破損したり、破壊されたりしないよう新型複合チタンによって頑丈に仕上げられ、更に冷却保存の為に冷却装置まで装備させられた。そう、煙が吹き出ているのは冷却ガスが漏れているためである。

しかしどうやらローグのパンチは想定外だったのか、ケースは彼の拳に耐える事が出来ず破損してしまったのだ。


「残念だったなお二人さん、だがこれで分かったろ? 平穏を奪われるってのがどんだけ辛いかがよ!」


ザグロブはケースの底を持って力を込め始める。ローグの力を持ってしても完全には破壊出来なかったようで、ウイルスは少ししか漏れてなかったのだが、もはや少し強烈な力を込めればケースごとサンプルを破壊可能なくらいには破損していた。


「や、やめろ!! そのカプセルを破壊したら今度こそお前は罪に問われるんだぞ!! そんなの嫌だろう!? な、なんなら金だってやる! だからそのカプセルを返せ! 今ならまだ…」

「金で俺の平穏は返らねぇよ」


必死の説得も虚しく、ザグロブはカプセルをそのまま握りつぶした。


────────────────────


「うおおお!! まだ来るぜこいつら!!」

「この空港の何処ニこれだけの数を配置したんですかネ!!」


場面は変わり、VIPルームから離れた別のターミナルでは相変わらずリョウとシャオロンは残った兵士と激戦を繰り広げていた。

数は決して多くは無いが、それでも数十人はいるようで流石のリョウも戦いに疲れはじめ、シャオロンも弾薬が底をつき始めて、ついには受付カウンターの後ろに隠れていた。


「奴らを追い詰めろ!! テロリストを生かして帰すな!!」


兵士達もリョウ達が疲れ果てたのを見て、ぞろぞろとカウンターへと距離を詰める。

敵の足音が段々近くなっていくのを感じ、リョウは覚悟を決めた。


「こうなったら俺が突っ込んで時間を稼ぐしか…」

「ダメです! これ以上やったらいくら再生するとはいえ限界を迎えてしまいまいよ!!」

「じゃあどうすりゃいいってんだクソッタレ!」


ついに兵士達の歩みが止まり、いよいよ終わりが近付いてきたと思ったリョウはシャオロンの制止も気にもせずカウンターから飛び出ようとする。


「俺は行くぜ! お前は俺が暴れてるうちに逃げろ!!」

「リョウさん!!」


そして、リョウがカウンターから身を乗り出そうとしたその瞬間、


『緊急警報緊急警報、サンプルが破損。 バイオハザード発生の危険性があります、直ちにその場を離れてください』


突如一斉に敵の無線機から、警報音とシステム音声が流れ始めると兵士達の間でざわめきが起こる。

そして、彼らはしばらく黙った後…


「に、逃げろー!!」


と一人の兵士が叫んだ後に蜘蛛の子を散らすように他の兵士達も叫びながら武器を捨て、一斉に逃げていった。


「…助かったのか? 俺たち」

「多分…それにしても…」


リョウ達は一体何が起こったのか理解出来ず、その場で立ち尽くすが彼らもまた嫌な予感を感じていた。


「…とりあえず我々も逃げましょう! 貴方は大丈夫でしょうけど、私がマズイですからネ! 手遅れかもしれませんけド!」


そして彼らは急いで空港の出口目指して全力疾走を始めたのだった。


────────────────────


「な、なんと言う…なんと言う事を…」


ローグはサンプルが入っていたカプセルだった物を見て、悲嘆に暮れていた。

ローグはサイボーグなのでウイルスには感染しないだろうが大倉だけは違う。

彼は目の前で黒いサイボーグ…ザグロブがカプセルが破壊する所を目撃してしまったので、恐らく感染してしまっただろう。

そしてローグは悲嘆から一変、怒りの炎を爆発させた。


「…うおおおーッ!! ザグロブめェーッ!! 」


ローグは怒りのままザグロブへと飛び掛る。

これで主を守るという使命も果たせず、再び訪れるはずだった秩序も取り戻す事に失敗した彼は半ばヤケクソ気味にザグロブに連続で拳を叩き込み始める。


「貴様ッ!! 貴様貴様ッ!!」


怒りの籠った拳の連打がザグロブに襲い掛かる。しかし、当のザグロブは次々に襲い来る質量を物ともしていない。

先程の計算され尽くした攻撃と違い、怒りに任せて拳を連打するだけの攻撃では、全然違うという事だ。


「…もう終わりだな」


まるでガッカリしたかのような反応を見せ、彼は呟く。

そして殴られる瞬間、彼の両腕を掴んで脇に抱えた。


「ぬっ!くっ!」


怒りに任せて拳を振るっていた事により、不意に腕を掴まれて彼は必死にザグロブの脇から腕を抜こうとするが全く抜ける気配がない。

次第にザグロブの足へ何度も何度も蹴りを入れ始めるが、必死になって蹴りを連打しているだけなのでザグロブの足にダメージが行く事はない。


「さっきみたいに冷静になってりゃ勝ってたかもしんないのに…な!」


ザグロブは掴んでいた腕を外側へと力を込める。ミチミチと嫌な音が鳴りながらどんどん腕は本来曲がる方向とは別の方向へ曲がり始める。ローグはこの後自分の腕がどうなるのかが分かっているので拘束を解くために必死になって蹴っていた足を更に早いスピードで蹴り始めるが、腕が曲がっていくのを止められない。


「こ、この!! 離せ!! 離せ!!」

「言われなくてももう終わるぜ!!」


ザグロブの言葉通りだった。ローグが離せと言った直後に彼の腕は金属が折れる凄まじい音を発しながら、腕が裂けて真っ二つになった。

その際ローグは体勢を崩して大きくよろめくと、ザグロブはそのよろめいた瞬間を逃さず脇に抱えた彼の腕を投げ捨て、膝を曲げた


「じゃあな!!」


別れの言葉をローグに告げ、膝のロケット砲をだいぶ前、飛行機へと吹き飛ばす為に思いっ切りぶん殴って出来た胸の凹みに砲弾を発射した。

殴られたせいで耐久性がガタ落ちしていた胸の装甲は、鋭く尖った砲弾を防げるはずもない。そのまま弾く事も無く弾は突き刺さった。


「…この、悪魔────!!」


‪”‬この悪魔が‪”‬

この言葉を言い切る前に胸に突き刺さった砲弾は爆発し、彼は胸に大穴を空けてそのまま倒れた。もう二度と起き上がる事は無い。

これで大倉を守る者は本格的に誰もいなくなった。

と言っても、ウイルスに感染しているかもしれない人間を守りたいなどという者はいないだろうが。


「ひ、ひぃいい!! そ、そんな‪…!!」


虎の子のローグがやられ、大きく狼狽える大倉。

そして、その目の前にザグロブが再び立ち、彼を見下ろしていた。


「さて…じゃあ終わりにするか」


いよいよ、全てが終わろうとしていた。







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