第15話 決戦に向けて…

東京のどこかにある小さな刑務所…

そこはパンデミック中、そしてパンデミック後に急増した犯罪者達を収容する為に近年新しく建設された場所である。

しかしこの施設の囚人達はほとんどが実験の為に駆り出され、残っているのは少数だけ。

更にそこにはとある人間達がここへ無理やり押し込められていた。


「なぁ、公安の奴らって何で急にここにぶち込まれたんだ? 飼い殺し同然にしてたんだろ?」

「それが監視の目を掻い潜って警察内部の情報を外部に漏らしてたらしいんだよ…よりにもよって手配されてるテロリストにだぜ!?」


この牢獄の看守達の言う通り、明光院とその部下である公安特殊部隊は無理やり逮捕され、この牢獄に閉じ込められていた。

今はまだ何も動きはなく、尋問だけしか行われていないがいずれは…

それに看守達の装備も重装備で、大型のライフルにショットガン、そして最新式の強化スーツに身を包み、まるで軍隊の兵士のような装いであった。


「しかし俺達こんな格好する必要あるのか?」

「一人逃げた奴が部隊の救出に来る可能性があるんだってよ、もしかしたら他のテロリストを引き連れてくるかもしれないらしいぜ」

「へへ、まぁこんだけいい装備してりゃ負ける気しねぇけどな」


なんとも呑気な雑談と、驕り高ぶった言葉を言い放つ二人の看守。

それもそのはず、この刑務所にはかなりの数の兵士が警備を行い、敵の襲撃に備えていたのだ。

その数は百人以上。普通ならばかなりの数だが…残念ながら彼らは知らなかった、これから戦う敵の恐ろしさを。

そして、その時はすぐに訪れる。

突如この施設の何処からか、大きな爆発音が響き渡ったのだ。


「な、なんだよ!?」

「爆発か!? 」


突然凄まじい音と揺れに驚いた二人は何があったのかすぐに無線を使い、情報を求めようとする。


「おい! 何があった!?」

「この無線機壊れてる!!」


しかし彼らが無線を使う機会はもうない…なぜなら、


「こんにちハ!」


既に彼等の後ろに一人の男が立っているのだから。


「うわぁ!! なんだこ───」


看守の一人が驚く頃には既に彼の首元に綺麗な回し蹴りが炸裂し、言葉を言い切る前には綺麗な一回転をしながらその場に倒れ込んだ。


「ひっ、ひぃぃ!!」


もう一人もすぐに銃を構えて撃とうとするが襲撃者の方が速かった。

彼は手刀で銃を破壊すると、看守の顔面にパンチを一発放って何も言わさずに倒してしまった。


「ハハハ、我ながら鮮やか」

「流石シャオロン、一分も掛からない内にこんな早く片付けるなんて」


襲撃者はシャオロンだった。そしてその後を追うようにリョウも現れる。

何故彼等がここにいるのか、その理由はただ一つ。


「確かここらへんだったよな?」

「えぇ、ザグロブさンが誘導してくれたお陰で救出も簡単でしょウ…待っててください、皆さン!」


彼等は囚われた部隊を救う為、手筈通りこの施設を強襲したのである。

作戦は至って単純、ザグロブが囮になっている間にシャオロンとリョウで救出するという流れなのだが…


「しかしザグロブのヤツ! いくら新しく装備一新したからって張り切りすぎじゃねぇか!?」


とリョウは呆れながら明光院達の元へと駆けて行った。

ではそのザグロブ本人の活躍はというと、それはそれは凄まじかった。

刑務所の兵士が集まっている場所を手当り次第に爆破し、多大な損害を与えていたのだ。


「クソッ! テロリストめ…まさかここを嗅ぎつけるとは…だがッ!」


おそらく看守達の指揮官のような兵士が指を鳴らすと、大きな警報音と共に鉄の隔壁が降りて来る。

恐らく他のエリアもこの隔壁で閉じられ、敵の侵入を防ぐ事が期待出来るだろう。


「例えサイボーグでもこの隔壁を破壊する事は出来ない! さぁこの間に例のブツを持ってこい!!」


指揮官の男は部下に命令を下すと、何やら怪しげな箱を持ってこさせ、開けさせる。

中にはかなり大型の対物ライフルが格納されていた。


「クックック、この対物ライフルはその気になれば戦車も破壊できる優れモノ…もし壁をぶち破ったりした所でこいつで迎え撃つという寸法よ!」


男はその大きなライフルを構えると、部下達も一斉に武器を構えてザグロブを待ち構える。


「隔壁に何かあればすぐ撃て!」

「了解であります!」


彼等はまだかまだかと銃を隔壁の方へ向けたまま、しばらく待つ。

しかし一向に隔壁も、敵が来る気配もない。

指揮官はついつい武器を下ろし、部下を叱咤する。


「おい! 来ないぞ!!」

「は、はぁ…でも来ないなら来ないでいいのでは…」


と変なやり取りをしていた、次の瞬間。

彼等がいた横の壁が突然大きな音を立て、何かが突き破ってくる。

あまりにも大きな衝撃と音が兵士達を大きくよろめかせ、彼等はパニックに陥った。


「な、何だ!! なにがどうなって…」


指揮官の男は体勢を整え、大きな音が鳴った方向へと顔を向ける。

そこに立っていたのは…


「あ、あ、あ…あああ!! 」


更なる改造を済ませ、パワーアップを果たしたザグロブが煙の中から姿を表す。

以前は比較的軽装だったのが、前回の再改造によって重装甲と重装備を兼ね備えた形態へと変貌した。


「フッ、中々いい仕事するじゃねぇか。 あのジジイ…」


彼はフランシスの手腕を褒め、敵の方へ顔を向け、品定めをするかのごとく見回す。


「さて、どいつからやられたいかな…?」


彼の腕には見覚えのない大型のユニットが装着されていた。

両前腕部に新たに装着されたそれは、大きさからして更に武器や機能が追加されているに違いない。


「え、ええい!! 舐めるなテロリストめッ!! こいつを喰らえ!!」


と指揮官の男は敵を見回すザグロブへ一発、対物ライフルを発射する。

戦車ですら破壊するというその威力は確かに凄いのだろう。

しかしザグロブは腕を軽く振るい、弾丸を叩き落としてしまった。


「え…?」


これには彼も唖然とし、兵士達は時間が止まったかのようにピタリと動きを止める。


「じゃあ今度は俺から行くぜッ!」


ザグロブは拳を振るう瞬間、腕のユニットの後部が展開して火が吹いた。なんとバーニアが増設され、加速を付けて指揮官の男へストレートパンチ一閃。

男はものすごい勢いで遠くへぶっ飛び、壁に穴を開けて動かなくなった。


「ひ、ひいいいい!! 化け物だァァァ!!」


兵士達は悲鳴を上げながら大慌てで隔壁のロックを解除し、脱出を図ろうとするが、壁は彼らの意思に反してゆっくりと少しづつ上がって行く。


「は、早く上がれよ!!」

「うわぁ来たぁ!!」


兵士達の数名は持っていた銃をザグロブに対して撃ちまくるが、彼は物ともせず前進する。

すると前進しながら彼は腕を前に構えた。


「俺が出られるようにしてやるよ」


と呟くと、彼の腕から勢いよく炎が吹き出る。改造以前から火炎放射器は装備していたが今回の改造で更に出力が上がり、広範囲に炎が広がるようになっていた。


「ひ、ひゃっ─」


兵士達は叫び声を上げる暇も無いまま炎に飲まれ、 隔壁の壁も小さいが穴を開けるほどの威力を発揮した。


「なんだ、通るの俺だけかよ…」


小さな穴を力でこじ開け、まるで玄関から出るかの如く優雅に堂々と多数の牢屋があるフロアへと出る。

見回すと案の定、真正面に一人、一際大きな男が仁王立ちでザグロブを待ち構えていた。

男を観察すると、何処か見覚えがあるその装備に身を包んでおり、すぐさまこの仁王立ちの男が何者なのかを察してザグロブは面倒くさそうに溜息をついた。


「警視庁の特殊テロ部隊の奴らか…」

「その通り!!」


彼が一言つぶやくと、大きな声で返事をし、ズシズシと音を立てながらこちらへ段々近付いてくる。

彼はこちらに向かいながら聞き覚えのある名前の数々をザグロブへ投げ掛ける。


「貴様は...蛇骨立花烈カールマンを覚えているか?」

「あぁ? 一応覚えてるが…?」

「そうか...仇を取らせてもらおう!! 」


すると彼が歩きながら体から煙を噴出し始めるのを見て、ザグロブは面倒くさそうな態度のまま、身構えた。


「どいつもこいつも体弄りすぎだろ...」


と呟いた瞬間、煙の中から勢いよく岩の塊のような拳がザグロブ目掛けて飛んでくる。これを彼はバク転で回避し、立膝を着いて着地した。

男は自身の攻撃が回避されるのを見ると感心しつつ、煙からまるで岩のようにゴツゴツとした肌と頑強な太い体を持った彼が姿を現す。

まるでゴーレムのような姿の怪人は、不意打ちを避けた彼に大声で話しかける。


「私の不意打ちを避けるとは、サイボーグとは言え見事。貴様が本当の戦士だと見込んで名乗らせてもらおう! 私の名は神沼!! 貴様は!? 」


彼はザグロブを褒めつつ自身の名前を彼に告げると、ザグロブにも名を名乗るように促す。

時代錯誤的な彼に面倒くさいという感情が更に大きくなりつつも、促されてしまっては応えない訳にもいかず、仕方なく彼は名乗りを上げた。


「俺はザグロブ! 元兵士!! お前を殺す!! 以上!!」


と名乗り終わった瞬間、彼は背中のブースターと前腕部のバーニアユニットを起動させ、猛スピードで神沼に急速接近する。

その加速は凄まじく、瞬時に神沼の目の前に立つと、加速をつけたまま両方の拳をその岩のような胸に叩きつける。

だが…


「いい拳だ、どうやら機械の体に頼り切りではない。計算して俺に攻撃したようだな…」


ザグロブの計算では、勢いよく加速させた拳は彼の胸を貫くハズだったが、大きな音を立てただけで受け止められてしまった。

攻撃は通用しなかったが、特に慌てる事なく彼は後ろに飛んで距離を取る。


「へっ、なんて硬さだい…」

「フフフ…俺のこの岩のような肌は改造によって高密度に発達した、言わば骨の鎧…並大抵の攻撃ではビクともせん!」


神沼は胸を叩き、自身の頑強さをアピールする。

そのアピールを無視して、ザグロブが次の攻撃へ移ろうとした時、驚くべき事が起こる。


「フン、遅いわッ!」


神沼は少し前傾姿勢になると、次の瞬間凄まじい瞬発力でザグロブに先程のお返しと言わんばかりの急速接近を見せる。


「速いッ...!」


ザグロブはすぐに腕をクロスさせ、攻撃に備える。

しかし彼の予測は裏切られる事となる、神沼は目の前から音もなく消えたと思いきや、背後からに気配を感じすぐさま振り向こうとするが、


「遅いぞッ! 後ろだッ!」


振り向こうとする前に後頭部へ鋭い蹴りを喰らい、軽く数メートルは吹き飛んだ。

そして地面に顔から落ちる寸前に宙返りをして着地する。


「見かけの割になんてスピード…!?」


とザグロブは言い切る前に、既に神沼が目の前に迫っていた。

あまりのスピードに彼は、


「嘘だろ!?」


と叫んでしまった。

そしてそのまま急接近して来た神沼はザグロブの肩に掴み掛かり、頭突きを一発叩き込んだ。


「がっ…!」

「いくら重装甲と言えど、顔面は限界がある!」


そう言いつつ、再び頭突きを叩き込もうと肩にグッと力を加えるが流石にもう一発喰らうまいとザグロブも力を込める。


「離しやがれ!!」


肩から手を引き剥がし、すぐさま勢いよく弾かれた手を掴んで手四つの体勢になり、力比べに移行する。


「フッ、力比べか…! 負けんぞッ!」

「ふぬぅぉおお…!!」


骨の鎧に包まれた怪物と機械仕掛けの大男の力比べは、それはそれは圧巻の一言だった。

骨と鉄が軋む音が辺りに響き、どんどん力も加わり次第に彼等の足元にまでその力の余波が広がっているのか、細かなヒビが広がって行った。


「ぐ…おおお…!!」

「ぬぎぎぎぎ…!!」


ザグロブが彼と互角に力比べが出来ているのは、腕に新しく内蔵された人工筋肉パワーシリンダーのお陰だったが、それでも尚神沼の力を破る事が出来ないでいた。

このままでは埒が明かないと感じたザグロブは小細工を使う事にした。


「ぐ、おおおおっ…おぉッ!!」

「何っ!?」


ザグロブは思いっきり手四つの体勢をぶっちぎって神沼を驚かせた。

そして彼は再びバク転、距離をとって膝を立てる。


「その鎧、少しぶっ壊すぞ」


彼がそう言った瞬間、膝から火が吹く。彼の膝から発射された物、それは小型のミサイルで先端が鋭くなっていた物だった。

不意を付かれた形で追撃を許してしまった神沼のその胸に鋭く尖った砲弾が突き刺さる。


「しまっ─」


次の瞬間砲弾は大きな光を放ち、彼の上半身は爆炎に包まれた。

辺りに彼の鎧の破片が転がり、無事では済まないと思われていたが…


「くっ、くっくっく…」

「な、何ッ…!?」


なんと神沼は生きていた。彼はすぐさま骨格を更に変形させ、高密度の鎧を形成し爆風を防いだのだ。

だがそれでもミサイルの爆発に間に合わず、頭の半分が吹き飛び、上半身はボロボロで筋肉が見える程の損傷を負っていた。

頭部の損傷のせいか再生速度も著しく落ちているもののそれでも再生している為、彼は何とか立つ事も喋る事も出来ていた。

その恐るべき根性に、ザグロブは感服していた。


「凄い男だ…今まで色んなヤツと戦ってきたがお前みたいにガッツのある奴はリョウ以来…いやそれ以上かもしれん」

「ふ、ふふふ…わ、私もお前ほどの男とは会った事がない…機転を効かせて武器を使うタイミングを見極めるとは…」


そして鹿沼は拳を構える。まだ闘志は消えず、最後まで戦おうとするその姿勢に報いる為、ザグロブも構えを取った。


「「うおおおおお────ッ!!」」


二人はお互いに拳をお互いの顔面目掛けて振りかぶる。

拳は止まる事なく、やがてクロスカウンターの形でお互いの拳が交差し、顔面に突き刺さった。

そのまま、二人は地面に倒れ込んだ。


「くっ、くくく…強いな…お前ほどの男が…警察にいれば…この狂った世を正してくれただろうに…」

「冗談じゃねぇ、縛られるのはゴメンだぜ」


恐らく頭部への攻撃が致命的だったのだろう、彼の体は再生しなくなった。

そして僅かな命を使い、彼はザグロブに語り掛ける。


「…今思うと私はあの男の口車に乗せられたのかもしれんな。あんな男がこの世を正しく導くなんて有り得ないなんて、分かって…いたのに…」


やがて神沼の喋りから力が抜け、彼はこれ以降喋る事は無かった。

ザグロブも殴られたショックが抜け、即座に立ち上がると、調度良いタイミングで無線が入った。


『ザグロブさン! 課長達を無事救出しましタ! 刑務所の門で落ち合いましょウ!』

「あぁ、分かった…」


ザグロブは無線を切ると、神沼の方へ顔を向け、少しだけ見つめる。


「…まぁ、お前は強かったぜ」


と賛辞の言葉を述べてその場を後にした。


────────────────────


場面は変わり、フランシスの店へと身を隠した一行は次の計画を練っていた。


「これで戦力は無事揃った訳だ」

「ふふ、助けられたと思ったら早速働かされる訳ね。まぁ助かったわ、ありがとうシャオロン、そして皆さん」


明光院は救出への礼を述べると、早速話し合いが始まった。


「確かデータの方を各方面に送ったのよね?」

「えぇ、シオリちゃんとシャオロンのお陰です。今頃大慌てですよ」


救出後、ウォルス達は解析したデータを各方面、つまり週刊誌や大倉と対立する政治家、それはもう様々な場所へ送ったのである。

そのデータには違法な地上げの実態や、病院に見せかけた実験施設の事まで事細かな事もぶち込んでいた。


「私も上の連中を不当逮捕の事を脅したから、これで大倉をしょっぴけるわ。これで奴をどん底に叩き落とせる、リョウくんが証人になれば尚更ね」


しかし、懸念もあった。

彼はこの混沌の世を利用し、権力に物を言わせて好き勝手やってきた男だ。

逮捕してもただ罪を認めるはずがない。

リョウはその事について、明光院に問い掛ける。


「でも奴が何かしたらどうすんだよ、絶対何か仕掛けてくるだろ」

「そん時は大丈夫よ、こっちだってマトモな手は使わないわ。イカれた時代よ、好き勝手にやりましょう」


大倉とザグロブ達が邂逅する時は近い。

果たして、ザグロブをハメた理由はなんなのか、そしてこの戦いの行く末は?

次回、最終決戦!
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る