第13話 超能力者とカンフーマン
ザグロブと蛇骨達が研究棟に飛び立った後、カールマンと烈、そしてリョウとシャオロンはお互いに睨み合ったまま動かなかった。
いや、動けなかったのはリョウだけだった。
理由としては、この場の雰囲気とカールマンのその不気味さに圧倒され、立ち尽くすしか無かったのだ。
そして、そんな時カールマンがまず口を開いた。
「フフフ、しかし久しぶりだねぇシャオロンくん…君ほどのエリートがあんな掃き溜めに行ったのは残念だよ」
カールマンは嫌味たっぷりに言うと、シャオロンの目つきは非常に怒りを伴った物に変化する。
どうやらただならぬ因縁があるようだ。
「…よくもヌケヌケと、全てはアンタ達とその親玉が仕組んだ事だ」
「そうかなぁ? 僕はただ強い者に従っただけ、君の仲間が深く知りすぎたのが一番悪いと思うけどね」
何やら意味深なやり取りに、リョウは一人だけ置いてけぼりにされ、声も出せなかった。
そんな様子のリョウを面白がったのか、カールマンは烈と共に彼にある事を明かそうとした。
シャオロンの過去を…
「いい事を教えてあげるよ、そこのシャオロンは昔大倉様の事を調べあげようとして消された仲間を未だに引き摺ってるのさ!」
「ククク、馬鹿な奴よなぁ…我々の力の事とあの方のやろうとしている事を邪魔しようとしなければ…」
と、続々と侮辱の言葉を投げている中、シャオロンが叫ぶ。
「先輩の事をバカにするんじゃない!!」
あのシャオロンがここまでムキになって叫ぶとは、リョウはついつい驚かされた。
それと同時に、彼もシャオロンの過去が気になり戦いが今にも始まろうとする中、ついつい彼に質問してしまった。
「な、なぁ一体何があったんだ…?」
「…いいでしょう、いずれは話そうと思ってましたし」
彼は怒られると思ったが、シャオロンはやけに素直に、自分の事を、敵の目の前というのもあり少し掻い摘んで打ち明け始める。
「私は元々公安の人間ではなかったのです、私は…あの課長の元で刑事をやっていたんですよ…とある先輩と共にね」
先輩と言った彼の表情は、どことなく悲しげな雰囲気だったが、彼は言葉を止めること無く話し続ける。
「しかしある時、とある半グレ組織が仕事があるとパンデミックによる失業者を騙して危険な仕事をさせているという情報を掴んだ私達は、その半グレ組織を逮捕したのですが…その時、我々は恐るべき物を見たのです…」
「まさか…実験施設…?」
彼らはまだ規模は小さかったものの、改造人間の実験施設を偶然発見し、その事を上に報告した、のだが…
何故かその施設の事は口止めされた上に、半グレ達は無罪放免となり事件はなかったことになったのである。
「そんな馬鹿な…!」
「ふっふっふ、そこで止まってれば良かったものを…その先輩とやらが諦め悪くてさぁ…大倉様の事突き止めちゃったんだよねぇ」
「そして、先輩は帰らぬ人となり…我々は公安特殊部隊なんて言う場所に追いやられた…クビにすれば、我々が調べあげると思ったんでしょう…ずっと飼い殺しにされていたんですよ、我々は」
しかし、彼は強気眼差しをリョウに向けると、意外な言葉を語り出す。
「しかし希望が現れた、貴方とザグロブという当事者が…だから貴方達を利用しようと思い、接近したのです…例え監視されたとしても、貴方達を使えば真相にたどり着けると思ってね…酷い話ですよね」
と自虐的に言うと、リョウはそんな彼に怒る事無く、静かに近づいてその肩を軽く叩いた。
「いや、俺だって利用できるもんはなんだって利用しようとしたさ…むしろ俺はアンタと組んだ事を嬉しいと思ってるぜ、俺以外にも酷い目に合わされた奴がいたなんてな」
すると彼の体から煙が吹き出し、変身しながら彼は力いっぱい叫んだ。
「俺は、あいつらみてぇな自分の手を汚さねぇ奴らが一番気に食わねぇ!!」
そして変身が完了するや否や、リョウはすぐさまカールマンに飛びかかった。
しかし、すぐそこまで怪物が迫っているというのに彼は嫌に冷静で、リョウを見上げたままニヤリと笑うと、
「ハハッ、とんだ甘ちゃんと組んだんですねぇ…」
と言った後彼が目を見開いた瞬間、リョウは突然後ろへと吹き飛ばされた。
一瞬、何をされたのか分からずリョウは混乱する。
「なっ…!?」
「リョウさん!!」
吹き飛ばされたリョウに駆け寄ろうとしたその時、目の前に烈が立ち塞がる。
彼は蛇骨、立花に比べて小柄で細い体ではあるが、左腕が肥大化し足はまるでバッタのように変貌していた。
「お前の相手はこの私だ! 貴様もその後を追わせてやるよ…!」
と薄ら笑いを浮かべ、その肥大化した左腕を振り上げる。
リョウともザグロブとも違い、彼は生身。このままでは殺されてしまう。
「シャオロン!! 避けろ!!」
時すでに遅し、烈の左腕は彼の頭目掛けて振り下ろされた。
凄まじい轟音が、辺りに響く。
リョウはついつい目をつぶってしまうが、何やら様子がおかしい。何が起こったのかと、彼は目を開くと…
「えっ!?」
なんと、彼は片腕だけで彼の大きな左腕を受け止めていたのだ。
「フフ、どうやらアンタにはもう遠慮しなくていいようだ…」
困惑する烈を睨むとシャオロンは隙だらけなその腹に掌底を喰らわせる。
そして彼はリネン業者の服を脱ぎ捨てると、中から現れたのは腕や足に光る線が走る強化スーツだった。
「こ、これは警視庁が開発中の新型マッスルスーツ!! 貴様どうやって…」
「隅っこに追いやられている部署というのは意外と便利でね、こういうスーツをちょろまかしても何気にバレないんですよねッ!」
そう言いながら、もう一発腹に寸勁を喰らわせると烈は宙に浮いた。
まさか彼がそんな隠し球を持っているとは思わなかっただろうが、彼はすぐさま空中で回転し受身を取った。
「フン! だが所詮人間! 中身から根本的に違う我々に勝てるものか!」
と言うと、リョウは頭にハテナが浮かぶ。
我等という事は、カールマンも強化されているのか?
と考えていると、再びカールマンの目がカッと開く。
今度はリョウの身体に凄まじい圧力が加わり、床が抜ける程の衝撃が襲った。
「うおおおーッ!?」
彼が叫びながら落下する中、烈とシャオロンは一進一退の攻防を続けていた。
烈は見た目通りの機動性を見せるが、シャオロンもスーツの力により超人的な力を発揮し、異次元の戦いを見せていたのだ。
「くっ、クソッ…なんで俺の動きについてこれるんだ!?」
「フッ、例え怪物になっても、その力を過信して活かせてないのならばいくらでもチャンスはある…って事ですよ」
悪い顔を浮かべつつ、シャオロンは烈の顔へ踵を振り下ろすが、寸前の所で躱された。
「な、舐めるなーッ!! 」
と彼は右腕の細腕を伸ばす、こちらは機械になっており、変身する直前に懐に忍ばせていたメカニックアームを後付けで装備したようだ。
すると右手が大きくぱっくり割れると、中から金属の甲高い音ともに、ワイヤーが発射され、シャオロンの身体を巻き付ける。
「ぬうっ!」
流石に鉄のワイヤーをすぐに引きちぎる事が出来ず、シャオロンは力を込める。
そのさまを見て、烈は笑う。
「ふっふっふ、やはり人間だな! 我々のように強い人間に力を授かっておけば良いものを!!」
烈はシャオロン目掛けて走るように跳ね、左腕を振りかざす。
しかし、シャオロンは冷静だった。
「俺は復讐のために今日まで訓練や汚い事をやってここまで来れた…」
するとワイヤーが一本プツリと切れ、次第にその本数が増えていく。
「こんな所で終わったら先輩にあの世で顔向け出来ねぇ!!」
力強い咆哮と共に、彼はワイヤーを引きちぎるとそのまま顔面に素早い寸勁を叩き込む。
流石にこれで頭を潰す事は出来なかったが、烈には凄まじい痛みが走る。
「ひ、ひいいぃっ! な、何故だ! 我々はテロリスト共を駆逐する為に今日まで訓練して体まで改造したのにぃいいい!!」
シャオロンは腰に装備したソードオフ仕様に改造したライアットガンを構え、烈の頭に押し付ける。
「言ったでしょう…私も今日まで色々やって来たんだって」
と言い切ると、彼は躊躇いなく引き金を引いて烈の頭をぶち抜いた。
彼の執念が勝った。
「さて…リョウさんの方は…」
───────────────────
一方、リョウは大苦戦を強いられていた。
(こ、攻撃が見えねぇ!! どうなってやがる!!)
「ははは! 何故丸腰の僕が何も使わずに君を攻撃できると思う?」
カールマンの攻撃の正体が見切れず、一方的にやられていた。
彼が未だに倒れないのは彼の耐久性…つまりあの対テロ部隊の四人よりも早くに改造された為に肉体が適応しているお陰だった。
苦戦の中、リョウはある可能性を思いついた。化け物やサイボーグが存在するのだ、どんなむちゃくちゃな考えでももしかしたらと、ひとつの可能性に賭けた。
「まさ念動力とかそんなんじゃねぇだろうな…」
と苦し紛れに言うと、カールマンは、
「おぉ〜日本人の勘の良さは流石だねぇ、まぁ正解って事にしようか」
と薄気味悪い笑みを浮かべて拍手をしながら、どうせ破れないだろうと思ったのか自身の能力を語り始める。
「僕は君達みたいに化け物に変身するのは嫌だったからさ、新しく考案された強化手術を受けたんだよ…脳内に電磁波発生装置を埋め込んだ上で、その脳波を強力なものにするという全く新しいものをね!」
彼は目を見開き、その力を早速リョウの腕をねじ曲げる事で披露する。
「ぐああーっ!!」
しかしねじ曲げられた腕はすぐさま再生し始め、彼はカールマンを睨みながら立ち上がる。
「く、クソが…そんな段階まで来たのか…」
「僕からしたら、君達のように怪物に変身するのが時代遅れまであるよ…まぁ怪物の兵士とサイコソルジャーの力で戦争は大きく変わるだろうね…」
「戦争…? パンデミックも終わって、どこの国も疲れ果ててるのに戦争だと?」
リョウは彼の言葉に懐疑的になると、カールマンは笑いながらどういう事かを語り始める。
「ハハハ! そうさ! 大倉様は再び戦争を始めるのさ!! 彼は世界を束ねるお方なんだよ!!」
どことなく狂気的な彼の様子を見て、リョウは恐怖すら感じた。
一体自分は何と戦おうとしているのか、人を狂わせる程、その男は凄いのか…
しかしそれでも彼は怯む訳には行かない。
「へっ宗教じみた事言いやがって、結局はてめーの為に他人をこき使うカス野郎じゃねぇか!」
「なにぃ…?」
「俺と同じで化け物みてぇな力を貰ってはいるが、お前はその力を好き勝手に気持ちよくなる為だけに使ってるだけだろうが!」
リョウは挑発するように吼えると、それを返すようにカールマンもまた大きく吼える。
それはもう先程の余裕そうな態度が嘘のように見えるくらい、凄い形相で、
「一緒にするな化け物風情がァ!! 」
と能力を使おうとしたその時、異変が起こった。
「っ痛ッ…」
彼は頭を片手で軽く抑え、軽くよろめく。
様子が変な彼を、リョウは眺めているとある事に気が付く。
「お、お前耳から血が…」
「う、うるさい! 黙れぇ!!」
彼は再び目をカッと開くと、リョウは衝撃波を直撃しただけでなく、壁に押し付けられるようにどんどん力が増して行くのを感じていた。
(こ、こいつ! このまま俺を押し潰す気だ…!)
「ひゃははは!! お前は新しい時代の礎になるんだよォ!!」
とどんどん念を強くすると、その度に彼は鼻や目から血を吹き出す。
もはや狂気的な彼の執念を目の当たりにしても、リョウはどうにかして抜け出せないか考えていた。
(そ、そうだ! 俺は念じれば刃が作れるんだから、その刃を伸ばせる事だって出来るだろ…!!)
そして彼は頭の中に刃を伸ばすイメージを浮かべ、腕をなんとか曲げてカールマンへと向ける。
次第にそのイメージを強く連想していくと、腕の甲殻が変形を始める。
(伸びろ…伸びろ…伸びろォーッ!!)
「潰れろーッ!!」
そしてカールマンがもう一度目を大きくかっ開いた時、勝負がついた。
彼の心臓に、伸びたアームブレイドの刃が突き刺さったのだ。
「…ゴハッ!」
力を使おうとした反動と、心臓に突き刺さった刃によるダメージにより彼は大きく吐血した。
もはや再起不能レベルの出血だったが、彼は…
「ふっ、フフフ…こんなチンケな技で死ぬ僕じゃないよ…」
すると彼はまた力をカッと開く。今度は衝撃波ではなく別の念をリョウに向けて解き放った。
「あいつまだ…ッ!?」
リョウは突然体の動きを止め、力無く膝を着く。一体何をされたというのか?
「くっくっく…お前の精神も道連れさ…一緒に死ね…!」
彼はリョウの精神に強力な念を放って、崩壊させようとしたのだ。
最後まで彼を殺そうとする彼の執念には驚かされる。
しかし、彼は甘く見ていた…リョウは強い殺意や怒りを持ってある種のスイッチを押して変身をする。
そんな彼の精神を攻撃しようとしたら、どうなるか、カールマンは分かっていなかった。
「…ひっ! な、なんだこれは…」
精神波の流れが逆流するのを感じ、カールマンは怯える。
彼の怒りと殺意が上乗せされた非常に強い精神波が彼の脳内を支配すると彼は苦しみ悶え、遂に耐えきれず助けを求める。
「た、助けてくれ!! こんな強い念は僕には耐えられない!! 助け…」
全てを言い切る前に、カールマンは更に血を吐いてついに動かなくなった。
その壮絶な死に様を披露した後、リョウは目を覚ました。
「…あ、あれ? なんで俺膝を…」
彼は精神に攻撃を受けた事すら分からないまま、そのまま立ち上がるとそこへシャオロンがやって来た。
「リョウさん! ご無事で…」
「そっちも無事みたいだな…早くザグロブの奴と合流しよう!」
そして二人は連絡通路以外に研究棟へと向かうルートを探し、ザグロブの元へと急いだ。
研究棟に着くや否や、彼らは凄まじい光景を目の当たりにする。
「なんだ、この死体の山…」
「これ全部ザグロブさんが…」
夥しい殺戮の後が広がり、二人はここで恐ろしい殺戮ショーが繰り広げられたであろう事を察知するとそこへ…
「遅かったじゃねぇか…」
白衣を着た男を脇に抱え、かなりボロボロではあるがザグロブが二人の前へと現れた。
ボロボロと言っても五体満足なのは流石と言うべきか…
「それにしてもコイツら手応えがあんまり無くてよ…倒しながら研究室っぽい所に入ったら、これだ」
と言いながら彼は白衣の男を投げ捨てる。
その白衣のネームプレートには大塚と書かれていたが、その姿は変わり果てた物だった。
「これは…」
大塚の顔は蒼白で、目が血走り、苦しみ抜いたような、そんな壮絶な形相で死んでいた。
追い詰められて自殺したのか? と思っているとシャオロンはある奇妙な点に気が付く。
「この男…自殺でなく他殺ですネ…」
「えっ!?」
「首元…妙な蜘蛛型の模様が浮いてます、恐らくここに針か何かを刺されたのでしょウ…」
リョウは目を丸くして、流石は警官の端くれだと心の中で感激する。
そしてザグロブはここを守っていた敵と、ここで何があったのかについて自分の考えを述べる。
「思うに…ここを守ってたヤツら、全員捨て駒だったと思うぜ。能力を把握しきってないし、コイツは始末されたようだし、データも全部消されてたぜ」
「つまり…ここは囮だったって事ですネ」
目当ての物も、探していた人物も殺されていた…また振り出しに戻ってしまったのかとシャオロンとリョウが肩を落とすと、ザグロブは、
「落ち込むのはまだ早いぜ」
彼は手のひらに何か物を出し、二人に見せる。
それは血まみれのUSBメモリだった。
「こいつ、口の中に隠してやがった…恐らく殺したヤツもここにデータがあるとは思わなかったか、あるいはあえて残したか…」
ザグロブはとりあえずこのメモリをシャオロンに渡した時、突然無線機に連絡が入る。
相手は明光院だった。
『シャオロン! 早くそこから逃げなさい! 自衛隊が向かってます!』
「自衛隊ィッ!?」
「なんでもありかよ…」
と、三人は大急ぎで逃げ出す準備をしようとした時、リョウは不意にザグロブを見る。
(そういえば…シャオロンは自分の過去を明かしたけど、ザグロブは一体何者なんだろう)
あまりにもやりすぎというレベルで改造されたその機械の体、そしてその戦闘能力の高さ…彼は果たして何者なのか?
様々な謎を残しながら三人は施設から急いで逃げ出すのだった…
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