第12話 大乱闘!

神奈川県大和市、その街の外れにそれはあった。

それは見てくれは本当に大型の介護施設のようだったが、実際には黒い噂の耐えない実験を行う施設という情報を手にしたザグロブとリョウは、公安…つまり警察の人間であるシャオロンと共に今回のターゲットである実験の責任者、大塚を捕まえる為張り込みをしていた。


「立派な施設だな…」

「えぇ、2年前には既に建設された施設らしいのですが、パンデミックで捨てられたとの事です」

「それが悪どい奴らに利用されて隠れ蓑にされてるって訳だ、サツの奴らもだらしねぇ」


ザグロブが悪態をつくと二人は、


(殺し屋がそれを言うのか…)


と心の中でツッコミを入れる。

だが、警察組織がだらしない…というより、機能していないというのは事実なようで、


「まぁ、実際あの施設は何年も前から入居者の方の不審死、職員と近隣住民の失踪が相次いでいるのに見過ごされてますからねェ」

「…圧力を掛けられたのか」


とリョウが言うと、シャオロンは苦い顔をしながら彼の言葉に返答する。


「えぇ、なので我々は前々から独自で調査を行って来たのでス…」

「独自にって…あんた達は何も言われなかったのか」

「我々は警察…正義を実行する人間です、圧力を掛けられたからと言ってその正義を行えないのなら存在価値など無いのですよ」


とシャオロンは返すと、続けて語り続ける。


「それにこんな世の中だからこそ、力を持った我々で分からせてやるのが筋って物ですよ…フフフ」


とにっこりと笑いながら言われ、リョウは無言で頭を抱えて深くため息をついた。

片方は常識の通用しない殺し屋、もう片方は何を考えているのか分からない警察の人間。

そして自分は改造され修羅場を何度か潜り抜けているとはいえ所詮素人、そんな素人がよく分からない二人に挟まれてしまっては心労も耐えないというものだ。


「やれやれ…」


頭を抱えるリョウを見て、ザグロブは呆れた表情になるが、その表情はすぐ一変した。


「おい! あれ…」


ザグロブの指差す方向には目当ての男、大塚鈴尾がワゴン車から降りているのが見えた。

早速三人は潜入する準備を進めようとしたその時、ザグロブは再び声を上げる。


「おい! 何人か降りてくるぞッ!」


彼は珍しく声を荒らげ、その方向に注視するとワゴン車から四人のスーツを着た何者かがまるで大塚を警護するかのように周囲を警戒しながら降り、彼の周りをガッチリと固めていた。


「ボディガードがいるなんて、どうやら俺達があと少しで届きそうなのを恐れているようだな」

「しかし困りましたね、施設に潜入するしかないみたいですネ」

「じゃあプランBで行くぞ!」


と三人は一斉に車に予め積んでおいたカバンから、何やら緑色のツナギを取り出した。

そう、プランBとはリネン業者に化けて内部へ潜入するという前時代的で行き当たりばったり感の強い作戦だったのだ!


「それじゃ、プランB行きますカ!」


そしてそれから一時間後…三人は施設へ辿り着き、車を地下駐車場へと走らせていた。

何故ならばそこにリネンや様々な物を運ぶ為の搬入口があると、シャオロンは言う。

そうこうしている内に、三人は搬入口のエレベーターから施設への侵入に成功した。


「ちなみに奴が居そうな場所は?」

「うーん、これを見る限りだとこの個室のフロアの先にあるみたいですネ…」


シャオロンはこの施設の見取り図を取り出してそれらしい場所を探す。

見取り図によると入居者のいる棟と研究棟という物があり、連絡通路があるようだ。

搬入口から入居者のいる棟を抜け、その連絡通路をひとまず目指すことにした。

もちろん色々と事前に手回しがされ、内部を探索する際に怪しまれぬようある装置をザグロブに持たせていた。


「装置もきちんと機能している、エレベーターから降りる頃には監視カメラは全部嘘っぱちの映像が流れている事だろうよ」


映像をジャックしつつ妨害する新型のジャミング装置により、安全に施設内を探索できるという訳なので、三人はどことなく余裕な様子。

しかし、ある衝撃的な光景により彼らの余裕さは大きく崩れ去る事となる。

その光景は、エレベーターの扉が開いた瞬間に訪れた…


「なっ…」


そこには人を介護し、和やかに守っていこうという雰囲気はなく、言ってしまえばまるで刑務所のように冷たく暗い雰囲気で包まれていた。

そんな殺伐とした雰囲気に一番驚きを隠せなかったのは、リョウだった。


「こ、これは…同じだ! 俺がいたあの病院と…」


リョウは声を荒らげ、周りを見渡す。

そこには職員の姿もなく、あるのは頑丈な鉄の扉とまるで誰かを管理するように扉の前に監視カメラが設置されていた。


「なるほど、あくまで人間はモルモットって訳か…刑務所よりタチが悪いな」


とりあえず、怒りを露わにするリョウを窘めながらザグロブ達は見取り図を頼りに研究棟への連絡通路を目指す。

何事もなく、通路まで行けそうな雰囲気の中、それは起こった。


「ッ!! 止まれ!!」


彼が叫んだ瞬間、目指していた通路が目の前で大きな閃光と共に轟音を轟かせた。

爆破されたのだ。

そして破壊された通路の下から、コートを着た四人の人影が飛び乗って来た。


「チッ、初めから気づいていたか…」

「フフフ、察しの通り…我々は君達を最初から、サイボーグくん…」


四人の内、一人はザグロブの正体をすぐに看破すると、そのまま続けてリョウとシャオロンの正体まで看破する。


「そして片方は記念すべきプロトタイプと、か…」

「我々の同期…? まさか…」


シャオロンが彼の言葉に反応するのを見ると、喋っていた男はニヤリと笑いコートを脱ぐ。そして残った三人も彼に合わせてコートを脱ぐと、その下には見慣れたあの文字が刻まれていた。


「あ、あれは警察の武装機動隊でス!」

「何ィ…?」


なんと、大塚を警護していたのはシャオロンと同じ警察の人間だったのだ。

そして、何故そんな奴らがボディガードに着いているのかも、大方予想が出来た。


「なるほど、大倉の手先かい…!」


と、彼らの雇い主を言い当てると…


「ご明察!! 我が名は烈!!」

「立花!!」

「蛇骨!!」

「カールマン!!」


「「我ら!! 警視庁特殊テロ部隊!!」」


とテンションの高い自己紹介を披露すると、サスガのザグロブも呆然とするしかなかった。


「な、なんだこいつらは…」

「…ふざけてはいますけどコイツらはエリートです…一応」

「クックック、そう…お前達公安共と我々は違う…」


すると蛇骨達の体から、見覚えのある煙が噴出し始める。

そう彼らは…


「き、強化兵…!!」


そして一瞬の内に三人は変身を完了させて臨戦態勢を整え、今にもザグロブ達に襲い掛かろうとウズウズしている。

しかし一人…カールマンだけは変身せず、薄気味悪い笑みを浮かべているだけだった。


(あいつだけ変身してないぞ!)

(気をつけてください…あのカールマンという男、変身してないというのに凄まじい殺気を放っていまス!!)


と、聞こえぬよう会話している中、ザグロブがまず最初に動いた。

彼は腕の端末を操作し、背部のスラスターを起動させたのだ。


「ザグロブ!」

「俺がその大塚って奴を見つけてやる、後の事は頼んだぜ」


と彼は空を飛んで真っ直ぐ研究棟へと飛び立った。

もちろん、それを黙って見るはずもなく、カールマンは烈と立花にすぐさま命ずる。


「チッ! あのサイボーグを追いかけろ!」

「了解であります!!」


すると蛇骨と立花の背中がバックリと割れ、中から昆虫の羽のような物が生え、彼らもまた空を飛びザグロブを追い掛けて行った。


「さて…これで二対二だな…」


カールマンは薄気味悪い笑みを絶やさず、じぃっとリョウとシャオロンを見つめていた───────


一方、ザグロブは空を飛び一直線に研究棟へ向かっていた。

空を飛びつつ、彼はリネン業者の制服を脱ぎ捨ててライアットガンに弾丸を込めて戦いに備えていると早速、


「待てぇいテロリストめ!!」

「我々が貴様を叩きのめしてくれるわ!!」


ザグロブを追い掛け、怪物へと変貌を遂げた蛇骨と立花が猛スピードで迫って来ていた。

その背中には昆虫のような羽が生え、ますますその怪物性を増長させていた。


「あいつらは飛べるのか…クソッ!」


首を動かし、後ろから接近する怪物二体目視するとザグロブは急速旋回して銃撃を行うがいとも簡単に回避されてしまう。


「ハハハハ!! 貴様の攻撃なぞ当たるかぁ!!」


彼らは高笑いすると、懐から小型の銃を取り出す。

彼らの持った銃、それはマシンピストルと呼ばれる物で連射できる上に取り回し良さに優れる為、ザグロブの持つライアットガンは非常に相性が悪いのだ。

そして、彼らはザグロブに向けて弾丸を連射し、それを必死に回避するが相手に後ろを取られているのでは反撃しようにも反撃出来ず、苦しい戦いを強いられていた。



「チッ、調子に乗りやがって…」


何とか回避をし続けるザグロブだったが、段そんな彼を尻目に蛇骨達は射撃しつつザグロブへと接近して行く。


「接近戦をするぞ!!」

「了解!!」


と、蛇骨と立花は連携して格闘戦を仕掛けて行く。

彼らの羽の方がザグロブのジェットブースターよりも小回りが効く為に、ザグロブは苦戦を強いられる。

なんとか攻撃を凌いでいたが、次第にザグロブは追い詰められ始めていた。


「くうっ!」

「ははは、所詮殺し屋のテロリスト!

エリートになる為に訓練された我らの方が上だなぁ!」


蛇骨はザグロブを挑発しながら蹴りや殴打を繰り返し、どんどん攻め続ける。

攻撃を防いで行く内に、ザグロブは叫んだ。


「舐めんじゃねぇ!! 俺は殺しのプロだぜ!!」


と叫ぶと、彼は手首の火炎放射器を蛇骨に向けて発射する。かなり高出力の炎が、蛇骨を炎に包んだ。

一応彼はリョウと同じ怪物。火に包まれた程度では死にはしないが火が彼の羽に甚大なダメージを与えた時だった。


「ああっ、羽が!!」

「馬鹿!! 羽が焼けても我々なら高所からの落下も…」


羽が燃え、パニックに陥る蛇骨を落ち着かせようと立花が諭していたその時、彼の頭はポップコーンのように弾け飛ぶ。


「た、立花ッ!!」


蛇骨は何が起こったのか訳も分からず周りを見回すと先程まで前にいたザグロブが姿を消していた。


「や、奴はどこに行った!?」


銃を構え、ホバリングしたまま辺りを見回す蛇骨。

その時、彼は背後から突然凄まじい力で腕を拘束される形で強く抱きしめられた。

後ろを振り向くとそこにはザグロブがいた。


「な、何ィィッ!?」

「へっ、潜った修羅場の数が違うんだよ」


なんとあの火炎放射の一瞬の隙を付いて、ザグロブは真下へと潜り込み、ライアットガンによる狙撃で立花の顔を撃ち抜いた上に蛇骨の背後へと回っていたのだ。


「貴様ァ何をする気だァ!!」

「さぁな! 当ててみなッ!!」


すると彼は急上昇し、ある程度の高度に達するとそのまま蛇骨を抱き抱えたまま急旋回すると、ジェットブースターの出力を限界まで上げて地上に向かって急降下を開始した。


「な、何を考えている!! 死ぬ気か!?」


本来であれば、彼はザグロブよりも強い力を活かし脱出が出来たはずだった。

しかし先程の火炎放射の傷の再生により自信の知らぬ間に体力を消耗してしまった事、更に急激なGにより抜け出す事が出来なかったのだ。


「や、やめろおおおおおッ!!」

「死ねぇぇええええッ!!」


そして地上スレスレの地点でザグロブは蛇骨を離し、自身は急旋回してそのまま上空へ飛んだが、蛇骨だけは頭から叩きつけられ、まるでスイカのように赤い花をコンクリートに咲かせた。

いくら強化され頑丈になったとはいえ、勢いを付けて地上に叩きつけられてしまっては意味が無いようだ。


「ふぅ…イズナ落としってか…」


なんとか強化兵士を二体退けたザグロブだったが、思ってたより手応えを感じなかったのか彼の脳内にはある思いが浮かんでいた。


(リョウの方が遥かに厄介だったな…)


と思いながら彼はそのまま研究棟へと飛び、

しばらくしてようやく研究棟の入口だった地点へと降り立った。

しかし、彼を待ち受けていたのは…


「ふっふっふ、待っていたぞ…ここから先へは通さん!」


警備員と蛇骨達の部下であろう隊員達が大軍で待ち構えていたのだ。

更に、厄介な事に彼らもまたリョウや蛇骨達のように、体から煙が噴出している。

そう、こいつらもまた怪物へと変身できるのだ。


「へっ、本番はこれからってか…」


ザグロブは銃に弾を装填し直し、敵の大軍に向かって構えて吠える。


「全員ぶっ殺してやるよ!!」


そして、一対多数の死闘が始まろうとしている中…場面は変わり入居者棟では…


「くっ、クソ…なんだこいつは…!!」


リョウとカールマンが戦っていたが、押されていたのはなんとリョウの方だった。


「フッフッフ、どうかな…僕の力は!」


果たしてカールマンはどのような力を発揮してリョウを追い詰めたのか?

そして、シャオロンのその強さは? そしてたった一人で怪物の群れと戦うザグロブの運命は?

戦いは続く…



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