第11話 殺し屋と怪人、公安になる
それからして…
新たにヤン・シャオロンを加え、三人となった男達は、上野から千代田区へと、場所を移そうとしていた。
「しかし、まさカ私を信用して組んでくれるとは思いませんでしたヨ、いやー人柄のお陰ですかね」
と軽口を叩くと、ザグロブは鼻で笑う。
「んな訳ねーだろ、お前が黒幕の話しなきゃあの場で殺ってたわ」
と言うと、シャオロンはケタケタと笑ってますます調子に乗り始める。
「アッハッハッハッ! それじゃ早い所信用してもらえるように頑張りますヨ!!」
ザグロブは彼の笑い声にうんざりして、深々とため息をついた。
そんな中、リョウは一人思い詰めたかのように窓から外の景色をじっと見て、二人の話なぞ蚊帳の外のように一言も喋ろうとはしなかった。
そんなリョウを見て、シャオロンはザグロブに聞く。
「彼大丈夫でス? 黒幕の話を聞いてからずっとあんな調子ですけド」
無理もない、彼の人生を破滅させた張本人の名前を聞けば、恐らく誰でもこうなるだろう。 らしくないが、ザグロブには彼の気持ちは痛いほどよく分かっていた。
「…まぁ、仕方ない。 それにしてもアイツと俺と、追っかけてるヤツが一緒だったとは思いもよらなかったな」
「確か…彼とは一度戦ったと聞きますケド?」
「…奴も追い詰められてた、もう別に気にしてねぇよ」
ザグロブは過去に彼に襲われ、死闘を繰り広げた。しかしそんな彼が自分と共通の敵を追っていた事が分かってしまったら、襲ってきた事を責める事など出来やしないのだ。
「さて、お話してる間に…目的地が近づいてきましたヨ〜」
三人の向かっていた場所、そこはシャオロンの勤務地…警視庁だった───
それからしばらくの事…リョウとザグロブはシャオロンに連行という建前で警視庁の中を歩き、彼の所属する特殊部隊のオフィスへと向かっていた。
ザグロブは特に興味なさそうに、周りを見回すこともなく普通に着いていく中、リョウだけは緊張のあまり周りをキョロキョロと見回し、通りがかった人間に不審者を見る目で見られていた。
「念の為に言っておきますけど、別にこれから取り調べを受けるとかそんなんじゃありませんからね?」
「い、いや…だって警視庁の中なんてドラマでしか…」
リョウは終始落ち着かない様子のまま、ついにシャオロンの職場へと着いた。
自動ドアのガラスは黒いフィルムが貼られていて、中の様子が見えないようになっている上脇には『公安特殊部隊』と書かれたプレートが貼られ、何とも物々しい雰囲気が漂っていた。
「ようこそ公安特殊部隊、通称蜂の巣へ」
彼は懐から電子警察手帳を取り出して、扉に着いている読み取り機に読み込ませた。
そして、いよいよその扉が開き、ついに彼のオフィスが目の当たりになった。
リョウはドキドキとしながら、その中を覗く。
その内装は、至って普通だった。
「あ、あれ…」
「ご期待させて申し訳ないでスケド、まぁ現実はこんなもんです」
その中身は至って普通のオフィスで、恐らくシャオロンの同僚らしき人達が机に座って書類を見たり、パソコンと睨み合っていたり、中にはタブレット端末でゲームを遊んでいる者までいた。
しかし、そんな彼らが曲者だった。
「お待ちしておりました、ザグロブ様、立花様…課長がお待ちです」
「お疲れ様、シオリちゃーん」
三人の元へ案内役と思われる女性職員がやって来るや否や、ザグロブとリョウの二人は驚愕した。
シオリと呼ばれた縦ロルツインテの彼女は、顔面が液晶画面になっており、ザグロブは一目見て彼女が自分よりも高度な改造を受けている事を察知する。
「驚いたでしょウ? 彼女の他にも何人かサイボーグと、アンドロイドがいるんですよ!」
「驚いたでしょうって…」
シャオロンはケタケタ笑いながら言っている傍で、リョウはもはや笑うしかないのか、引きつった笑みを浮かべるしかなかった。
こんな個性豊かな連中を率いている課長とは、一体何者なのか…
流石のザグロブも気を引き締めてその課長といよいよ対面した。
「失礼します、三人をお連れしました…」
シオリは挨拶とノックをしながら、課長室と書かれた扉を開ける。
「それでは、私はこれで…」
シオリは部屋に入らずにその場を後にする。
そして、彼女の体で見えなかった向こう側に、その人はいた。
「ん、あぁ…どうも、よく来てくれましたね。 公安特殊部隊課長の…明光院サキです」
そこにいたのは、先程の個性豊かな隊員達とは打って変わり、普通の人間の、どことなく冷たい雰囲気を醸し出している中年の女性が、そこにはいた。
唯一普通の人間と違うのは、彼女の片目には眼帯が装着されている点だろう。
「課長、こちらザグロブさん、そしてもう一人の方は立花リョウさんです」
「は、初めまして…立花です」
リョウは恐らく自分よりも歳上であろう女性と対面し、元々緊張していた彼の体は更にカチコチに固まっていた。
一方、ザグロブだけは何も挨拶を交わさず、本題に入る。
「それで? わざわざ警視庁まで呼んだ理由ってのは一体何なんだい婆さんよ」
「おっ、お前ー!!」
ザグロブのあまりにも失礼な態度に、リョウは声を荒らげてしまう。
まさか殺し屋というのは、ここまで常識がないというのかと疑ってしまう。
「いやいや、まぁ堅苦しいのはここまでで。 それにおばさんなのは…事実ですから」
明光院は薄ら笑いを浮かべ、足を組んでザグロブの問に答え始める。
しかし、それでも冷たい雰囲気は誤魔化せなかった。
「…大方の事はシャオロンから聞いてます、大変でしたね」
「…全くですよ」
ザグロブはともかく、リョウは普通の人間なら途中で折れてしまうだろうその道のりを執念だけで乗り越えて来た。
一番大変だったのは間違いなく彼だろう。
そして、明光院はついに本題を切り出す。
「さて、なにから話ましょうか…とりあえず何故追われる身の貴方達を協力者に選んだかは、大体見当がつくと思いますが」
「それは…俺達が当事者だから?」
リョウは何となく自分の考えを言ってみると、どうやらその考えは正しかったようだ。
彼女は一瞬だけ微かに微笑み、机からファイルを取り出して一言、
「正解よ」
と言うと、リョウは静かにガッツポーズを取る。
そんな様子をザグロブは無視してファイルを開くと、そこにはある文言が書かれていた。
「あっ、こら勝手に…」
勝手にファイルに手を出す彼をリョウは注意しようとしたその時、偶然ファイルに書かれていた文言が目に入る。
そこに書かれていたのは、とある介護施設だった。
「これは…老人ホーム?」
それは、神奈川県に設立された大型の老人ホームだった。
何故、公安がこの施設の情報を持っているのだろうか。
しかし、リョウにはその理由が何となく分かっていた。
「まさか…ここも実験施設か!?」
「えぇ、我々公安で調査した所、ここの老人や老人でもない若者や中年がここに送られ、改造されている可能性をキャッチしたのでス」
シャオロンは、続けてある男の写真をザグロブとリョウに見せる。
その写真には、冴えないちょび髭を生やした中年の男が映っていたが、実はとんでもない男だった。
「大塚鈴尾。彼こそがこの実験の責任者でス」
「恐らく君に追っ手を出したのもその男に違いない、と我々は考えている」
シャオロンと明光院の言葉に、リョウは衝撃を覚えると同時に、ある事を思い出していた。
それは増田が言っていた、『あのお方』という発言だった。
「それじゃああのお方っつうのも…こいつか…」
ついに自分や自分と過した仲間達に地獄を見せた男の尻尾を掴めた事に、リョウは…
「やっと…やっと仇討ちが出来るぜ…!」
彼は、ついに巡ってきたチャンスに打ち震えていた。
この大塚を捉えて尋問すれば、恐らく大倉のやろうとしてる事や、ザグロブが利用された理由も芋づる式に分かるはずだ。
早速ザグロブは行動に出ようとする。
「なら、早速そいつとっ捕まえに行こうじゃねぇか、俺もとっとと黒幕さんに目にもの見せてぇしな」
ザグロブはとりあえず部屋を出ようとすると、シャオロンは彼の肩を掴む。
「待ってください、あの施設にはおそらく強化された警備員が多数存在してます、今回は向こうから突然襲う訳ではありませんから、少し策を練りましょウ」
「潜入と化け物の対処…か、フフ、久しぶりに小賢しい事を考えられそうだ」
彼らはまず、真正面からの突入ではなく施設に侵入して直接大塚を捕まえる計画を立てた。 そして、脱出、もしくは待ち構えられていた時を想定し、強化兵をどう倒すかを話し合った。
強化兵の戦闘能力は既にリョウで経験済みなのと、その再生能力をどうやって破るかが潜入方法よりも大きな課題となった。
しかし流石は当事者である彼はすぐ対処の方法を何となくではあるが二人に話す。
「確か増田を殺った時は頭を切り落としたら動かなくなったぜ」
「ふむ、ならば…アサルトライフルや拳銃弾ではダメですナ」
「じゃあシオリ、おあつらえ向きの奴持ってきて頂戴」
と、明光院はシオリにある物を持ってくるように言うと彼女は迅速にそのおあつらえ向きな武器を二丁持ってやって来る。
それはショットガンだった。
「ライオットガン、またの名を暴徒鎮圧用散弾銃…なんて、大層な名前は付いてるけど、これならサイボーグだろうが戦車だろうが楽々に吹き飛ばせるわ」
「…まぁバケモノでもコイツとスラッグ弾がありゃ何とかなるかもしれないな」
と用意された銃を構えながら、明光院の説明を聞く。そして、一通り銃を観察した後いよいよいつ実行に移すかの話になる。
「データベースによると明日に標的が施設へ立ち寄るそうです。場合によっては複数の護衛がいる可能性も視野に入れてください」
「了解ですヨーシオリちゃン! それじゃ、公安での初仕事、頑張っていきましょうネ!」
「誰が公安に入るなんて話をしたよ」
とザグロブは冷静にツッコミを入れた。
いよいよ、戦いは大きな展開を迎えようとしていた。
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