第8話 最強タッグ誕生!!
「始末…? 」
ザグロブは耐爆スーツの男、ヘルカッツェを睨むと、男は不敵な態度で語り始める。
「情報がありましてね、成田の街にザグロブさん…貴方がいると聞いてすぐに調査を行いたよ、まさかそれとは別に追いかけてた物があるとは思いませんでしたがねぇ」
そう言いながら、彼はリョウへと視線を向ける。
その目は明らかに人を見る目ではなく、何か良くない物の見方をしているのは明らかだった。
(なぁ、あのヘルカッツェって奴何なんだ?)
(…あいつは殺し屋の中でも特に品性のない野郎だ。 それと気をつけろよ、あいつも俺と同じサイボーグでガトリング砲を使うぞ)
敵の情報を聞き、リョウは更にヘルカッツェに対する警戒心を強めると同時にテロリストだけあって詳細な情報まで持っている事に感心していた。
(流石プロ、詳しいな…だが…)
リョウは自分を見つつ、ザグロブの体を見た。
自分は目立った外傷はニードルガンを受けた時の傷だけだが、プラズマナックルの高圧電を食らったせいか傷の再生が遅く、見た目よりダメージを負っている。
対するザグロブは、自分のパンチを何発か防いだものの、その機械のボディにはヒビが入り、腹への刺し傷からはオイルのような赤茶色の血が流れていた。
「へへへ、ボスもうやっちゃいましょうよ。 こいつら見たところ俺でも余裕で倒せますよ」
そう調子に乗った口調で、妙なスーツに身を包み、赤いゴーグルのマスクを着けたチンピラが二人に歩み寄る。
ザグロブは一目見ただけでそのスーツがなんなのかすぐに言い当てた。
「ふん、米軍が使用してたという旧式の強化スーツか…」
「!! よ、よく分かったな…」
「誰でも分かるわ、チンピラや殺し屋が買えるスーツなんて大抵お下がりだからな」
ザグロブは得意気に語ると、チンピラはたじろぎつつ懐に手を入れる。
そして、懐からナイフを取り出してまた得意気に、
「へっ、へへへ…いい気になるなよ、そんなボロボロでここにいる全員を相手に出来る訳がねぇ…てめぇなんかこの電磁ナイフで一本で…」
と、ナイフを首元に突きつけたのが不味かった。
ザグロブはナイフを突きつけられても態度を変えること無く、挑発を繰り返す。
「汚ぇツラ近づけるな…」
「なっ!?」
そこでうろたえなければ良かったのに、チンピラは驚いてしまいザグロブへ隙を見せてしまう。
そして彼が肩のニードル発射機構を起動するのに全くと言っていいほど時間は掛からなかった。
「えっ?」
と間抜けな声を出した男は、次の瞬間には顔面に五寸釘ほどの大きさの針が顔面に深々と刺さり、特に声も上げずに膝から崩れ落ちた。
「お前マジかよ!! やる気か!?」
「当たり前だ、殺される訳にいかない」
ザグロブはリョウのツッコミに冷静に返すと、ヘルカッツェに指を指す。
「無駄話は終わりか? さっさとかかってこい!」
まさか戦う気満々だとはヘルカッツェも予想出来なかったに違いない。
リョウとは対称的に戦う気満々の彼を見て、ヘルカッツェは逆上した。
「ふ、フフ…いいでしょう、貴方達!! 二人まとめて始末しなさい!!」
と彼が号令を掛けると、強化スーツ兵の集団は一斉に動き出す。
数にしておそらく二十人はいるだろうか。と言っても一人は馬鹿みたいな死に方をしたので19人だけなのだが。
そして一斉に動き出した敵の集団を見て、リョウは身構える。
「クソッ!!ここは一旦協力するしかねぇか!!」
逃げる気がサラサラ無いザグロブに巻き込まれる形で、リョウは仕方なく彼と共闘する事となった。
そしてザグロブは彼にこう返した。
「逃げても追いかけられるならここで潰した方が後で楽できるからな! ほら来るぞ!!」
ザグロブが敵の接近を知らせた瞬間には、早速強化スーツ兵の一人が腕のガントレットからナイフを展開してリョウに切り掛かっていた。
それを無言のまま彼は左腕の甲殻で防ぐと、その衝撃でナイフは折れてしまった。
「何っ!?」
切り掛かった兵士が驚愕の声を上げた次の瞬間には、リョウはその兵士の頭を掴みあげて振り回した。
「うわああぁぁっ!!」
「悪く思うなよ!! オラーッ!!」
リョウは叫びながら、手に掴んだ兵士を振り回したまま敵兵達に突っ込む。
その
「おおおおおっ!!」
リョウが敵を激しくぶつかり合う中、ザグロブは彼のパワーを活かした戦い方とは違い非常にスマートだった。
彼は先程の戦いではリョウの強襲により使う暇がなかった鬱憤を晴らすように、腰にぶら下げた彼専用のカスタマイズの施された拳銃の威力を存分に発揮した。
「うわっ!!」
「き、強化スーツが抜かれる!!」
彼の銃はかなりカスタマイズが施され、特徴的なのは防弾加工された物体を簡単に貫く事の出来る弾丸、新型45AP《アーマーピアッシング》弾を使う事が出来るという点である。
これにより彼らの軍隊用の旧式スーツにも遠慮なく撃てるのだ。
「怯むなっ!! 盾を構えろー!!」
兵士が叫ぶと、四人程の兵士は腕に着いた機械を操作する。 すると、瞬く間に彼らの手に盾が展開された。
「展開式ライオットシールドか!」
ザグロブは盾に対し射撃をした。AP弾ならシールドでも貫けると思ったのだが、なんと弾は貫く事無く、防がれてしまった。
「じゃあ俺の刃でッ!!」
リョウはシールド兵へアームブレイドを振り下ろす。
だが…
「何ッ!? 」
「フハハハ!! どうだ新型ハイブリッドチタンの盾は! 化け物だろうがなんだろうが関係ないぞッ!!」
まだ電撃のダメージが残ってるせいか、盾を斬り裂く所か刃が折れてしまった。
一気に形勢逆転か、と思われた時、ザグロブは突然腕を前に突き出した。
「そいつはどうかな」
そして手首を上へ上げた瞬間、例の子気味のいいスイッチ音と共に手首の下の方からなにかの噴射口がせり出した。
「なっ…!?」
兵士達は慌てて盾を構えるが、既に遅く、ザグロブの手首からはかなり勢いの強い火炎が放射される。
そして、盾の兵士達はその高出力の火炎放射器の火に飲まれ、パニックに陥った。
「ひいいいいっ!! 」
「きょ、強化スーツが燃えるぅぅぅぅ!!」
「馬鹿野郎!! 盾を振り回すなぁぁぁぁっ!!」
強化スーツを着ても所詮はチンピラ、続々と敵がその数を減らしつつある中、ヘルカッツェはため息をついていた。
「はぁ…最初から私も出ればよかったな、手負いだから楽勝だと思ったが…」
すると彼の耐爆スーツの裾が複雑に変形したと思いきや、その下から小型ミニガンが出現した。
最も、小型と言っても成人男性の足ほどの大きさなのだが、それを片手で軽々と持ち上げ、ザグロブと兵士達の方向へ狙いを定める。
「さて、これでお片付けさせてもらいますか」
トリガーを引き、銃身はゆっくりと回転し始めて段々早くなって行く。
そんな様子を、ザグロブは見逃さなかった。
「不味い!! ガトリングだ!!」
ザグロブは瞬時に工場の柱へ飛び込むと、リョウは突然の事だったのでビックリしてえ? という感じの表情で固まる。
そして、火に包まれてパニックになっている兵士達にはその声は届いていなかった。
そして、次の瞬間には凄まじい轟音が工場内に轟いた。
「吹き飛びなさぁい!!」
まず、ガトリングの洗礼を浴びたのは兵士達だった。何人かは悲鳴をあげながら柱や何かに飛び込んだが、逃げ切れなかった者や炎の中にいた者達は強化スーツを着ているにも関わらずまるでぬいぐるみが引き裂かれたかのように凄惨な姿を晒す。
リョウも直撃を受けたものの、持ち前の頑丈な身体のおかげで大事には至らなかったがそれでもかなりのパワーだったらしく、壁へと吹き飛んだ。
「うおおおッ!?」
「!!」
ザグロブはリョウの方向へ顔を向けると、彼の安否を確認する。 別に仲間意識からという訳ではなく、単純に戦力ダウンするのが嫌だったからなのだが、そこで彼はリョウの能力の片鱗を見る事となる。
「おお…」
柱の影から、壁に叩きつけられた彼を見た彼は驚嘆の声を上げた。
なんと、ガトリングの直撃を受けた彼の傷がどんどん塞がっていくのだ。
しかし、そんな凄まじい力を見せているにも関わらず、彼はピクリともしない。
恐く気絶してしまったのだろう、そんな彼を見てヘルカッツェは嘲笑う。
「ふん、情報通りですね…しかし、いくら再生するとはいえずっと蜂の巣にされたら…どうなるでしょうねぇ?」
そしてガトリング砲を彼に向け、トリガーを引く…その時だった。
「…貰ったァ!!」
なんとガトリングの銃身が回転し始めた瞬間を狙い、リョウは壁にもたれかかった状態で凄まじい跳躍を見せ、ヘルカッツェの背中に組み付いた。
「ほう、死んだフリをするとは中々…」
「これでそのでっけぇのは使えねぇよな! 見てたぜ、そいつは撃ち始めるまでに時間がかかるみてぇだからな!」
そして、リョウは折れた刃を再生させ、勢いよく振り上げる。
「これで終わりだ!!」
と叫びながら振り下ろそうとした時、異変に気が付いた。何故か彼の背中が隆起し始めたのだ。
「な、なんだ…?」
「フフ、全く甘ちゃんですねッ!!」
彼が叫んだ瞬間、隆起した背中がまるで二本の腕のように展開し、リョウの首を掴み上げていた。
自身の力で振り解けないほどのその腕は、リョウを驚かせるには十分すぎた。
(なっ、振り解けない…!!)
「フフフ、ただのサブアームが何故ここまでの力を持つか疑問でしょうねぇ…まぁ、貴方はここで死んでお金になるので教えてもしょうがないんですけど」
ヘルカッツェはそのままサブアームのパワーを強くし、リョウの首をへし折ろうとする。
このままでは彼が危ない、そんな時
「おい! 俺がいる事を忘れるなよ!」
とザグロブが割って入り、胴体に二発、サブアームに一発弾丸を撃ち込んだ。
その衝撃でアームからリョウを救出する事には成功した。
「かはっ…! ゴホッ!! ゴホォッ…!!」
しかし肝心のスーツを貫通する事は出来ず、ただ着弾した時の衝撃でよろけさせるのが精一杯だった。
「ぐっ、小癪な!!」
ヘルカッツェはザグロブへ再び射撃をしようと、ガトリングを構える。
発射まで若干のタイムラグがあるとはいえ、近距離では避ける事も困難。
しかし、ザグロブは黙って食らうつもりはサラサラ無い。
すぐに彼は腕を弄り始めると、何かの制御盤のようなものがせり出した。
「悪いが…ガトリング食らって死ぬのはごめんだぜ」
そして制御盤を操作すると、背中からブースターが展開するとそのまま勢いよく飛び上がった。
「な、なにィ!?」
「ゲホッ…あ、あいつ飛べるのかよ…」
リョウとヘルカッツェは空を飛ぶ彼を見て驚嘆するが、ヘルカッツェの方は我に返って猛スピードで飛ぶ彼を追うように射撃を開始した。
「おのれぇえええ!!」
その素早い飛行にガトリングを操る彼の動きがついて行けず、ついには懐への接近を許してしまう。
「ぬううう!!」
ヘルカッツェはガトリングのトリガーから指を離し、アームを起動しようとする頃にはザグロブはぐったりとするリョウを抱き抱えて飛び去ろうとする時、ザグロブは背中の腕をじっと見た。
「………」
「ふぅ…ふっ…すまねぇ、まさか振り解けないとは思わなくてよ…」
「いや、むしろよくやったよお前さんは」
何故か褒められた事に、リョウはキョトンとした。
「え?」
「それより、一旦着地するぞ…やっぱり人間一人抱えるのはキツイ…」
そう言いながら彼は地面に着地し、再びヘルカッツェの方を見る。
すると彼は二人が着地したのを見て大慌でガトリングを構え用途している様子を目にした。
「ふ、フフフ…まさかジェットパックを内蔵しているとは、どれだけ改造したというのですか貴方は…」
「…」
とガトリングを構えながらザグロブに問う。
しかし、彼はそれを無視してリョウの首を掴み、彼の顔を無理やり自分の方へ近付けた。
(おい、お前まだ元気か?)
(え? あ、あぁ…一応電撃のダメージが抜けて来たけど…)
(あいつの弱点を突く…)
弱点を突く、その一言にリョウは更に強く困惑し、どういう事かザグロブに尋ねる。
(じゃ、弱点たって…奴の弱点って何だよ!)
(フフ…まぁ黙って俺の頼みを聞け…)
そしてザグロブはリョウに更に敵の弱点を耳打ちする。
とりあえず話を聞く事にしたリョウは、彼の話に黙って耳を傾ける。
そんな中、自分を無視して何かを聞こえないように話している二人に対し、ヘルカッツェの怒りはついに爆発した。
「む…無視するんじゃありませんよォォォォ!! 」
長い間無視されたショックで呆然としていた彼はその怒りを発散するが如く、ガトリングを斉射する。
しかしその怒りに駆られた行動が彼の命運を分ける事となる。
二人は瞬時に左右へ展開し、これを回避。更にザグロブはブースターで一気に工場の天井まで飛び上がり、そのまま急降下する。
ただ真っ直ぐ降下するザグロブを見て、ヘルカッツェは、
「ふ、フフフ、馬鹿め! 真正面から突っ込むつもりか…!」
と一度トリガーから指を離し、ガトリングを上に向けたが、その瞬間にもう一人がその隙をつく。
雄叫びを上げながら、リョウはガトリングガンを上に向けているヘルカッツェに突撃を掛けていた。
「うおおおおぉぉぉ────!!」
二人同時に攻撃を仕掛けられたヘルカッツェは、焦っていた。
そう、彼の弱点…それはスーツに取り付けられたサブアームを操作するには脳波を使うのだが、サブアームを操作する為の脳波を発生させるのにかなりの集中力を必要とする。
その為、自身の腕と背中の腕を咄嗟に同時操作するのは不可能に近いのだ。
(ま、不味い! ザグロブから目を離したら奴から! かと言ってあの化け物を無視したらあの化け物にやられてしまう!!)
彼は上に上げたガトリングをリョウへと向けようとするが、もう既に遅かった。
ザグロブに気を取られ、リョウの接近を許した彼は懐に飛び込まれてしまう。
そして、そのままリョウのアームブレイドを振り上げ、リョウは叫ぶ。
「でやぁぁぁぁ───ッ!!」
彼の絶叫と共に、アームブレイドの切れ味と彼の本能による相乗効果で、ガトリングガンはいとも簡単にバラバラになった。
そして、持っていた銃器を破壊された衝撃のせいか、背後に組みつかれたザグロブへサブアームを展開する事なく、彼が隠し持っていたある武器をその腕の基部に受けてしまう事となる。
彼の隠し持っていた武器、それは先程チンピラの兵士に突きつけられていた電磁ナイフだった。
「お前の弱点は二つ、サブアームと体の同時使用の不可、そして…」
彼が突き立てたナイフはスパークを起こし、基部に炸裂する。
これになんの意味があるのか、それはザグロブ本人の口からすぐに語られた。
「そして基部に強力な電気を浴びるとスーツごとショートする!!」
彼の言った通り、ヘルカッツェは全身に強い電気ショックを受け、何も口に出さずそのまま気絶し、大の字になって倒れてしまった。
そして、倒れる前にザグロブは彼の背中から離れ、リョウの側へと立った。
「一丁上がり、お前の協力がなければやられていた…」
「へっ、言っておくけど一時的に味方になってやっただけだからな! でもまぁ…助かった、ありがとう…」
先程まで殺しあってたとは思えないほど、二人はお互いの健闘を称え合い、そこにはいつの間にか戦意はなくなっていた。
代わりにあったのは、何故か共通の相手から狙われていた事が、二人の中で渦巻く。
その事を考えている中、廃工場の出口の方で影が動くのを、二人は気づいた。
「ひっ!」
それは運良くザグロブやリョウ、そしてヘルカッツェの攻撃から生き残った兵士達だった。すっかり怯え、二人を見るや否や何も言わずにそそくさと廃工場から消えて行った。
「しかしこいつら何だったんだろうな、俺らの事知ってるみたいだし…あの質屋の店長さん大丈夫かな」
「ウォルスなら平気だ、あいつは裏稼業を長い間やって来たベテランだ…」
二人は会話をしながら、この兵士達の正体が分かるものを手分けして探索し始める。ヘルカッツェなら何かを知ってると思い、調べてみるもののスーツを脱がす事が出来ず、何も見つける事は出来なかったが、彼とは別の人間から手がかりを見つける事は出来た。
それはヘルカッツェのガトリングを喰らい、バラバラになった兵士の腕に刻み込まれていた…
「これは…ブラックマーケットの印だ」
ブラックマーケット、リョウとザグロブはどうやらその言葉に心当たりがあるようで、その鍵を握っているであろうヘルカッツェに注目した────
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